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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第7章 炎と雷
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【3】 鏡面カード

魔王軍と器の少女たちが戦うスヴォロ村近郊に向けて、急行する一台の馬車があった。

顔からからだから一面金属の鎧に覆われた不気味な甲冑武者が御者台に座る軽便馬車。

粗末なその客車には、さらに二人の甲冑武者と二人の女が揺られていた。


「見えてきましたな、もう戦闘は始まっている様子」

多彩な文様が縫い込まれた衣装に身を包んだ踊り娘風の女が、同乗する少女に声をかける。

だがその少女はその声にこたえるでもなく、俯いているばかり。


やがてその軽便馬車は戦闘地点手前に待機する馬車の近くで速度を落とし、停車。

「アニトラ、レレカ様をお連れしたぞ」

踊り娘風の女が馬車に呼びかけると、同様に民族色豊かな衣装に身を包んだ女が出てくる。

ただし、タイスがあくまでファッションとしての踊り娘装束に身を包んでいるのに対して、アニトラの方は本職の舞姫である。


「レレカ様、誠に申し訳ありませんが、お力をお借りする状況になっております」

アニトラが軽便馬車の方へ移り、挨拶をする。

少女レレカは声を出すこともなく、悲し気な顏でアニトラに手を取られながら馬車を降り、待機していた馬車に移る。


「もう始まってしまっているようだが、状況はどうなっている?」

タイスが千里眼と魔眼の持ち主、器の4番ノクトゥルナに尋ねた。

「まだなんとも。ただポーシャ、ノーマ、ポーラ・ヴィクの3人が、魔王側の宝玉少女の元に取りついたもようです」

「他の者、ミーヴァ達は?」

「ここから近い前線で、増援の魔王軍と戦っていますが、いまのところ優勢に進めています」

いつものように小さな弱々しい声でボソボソとしゃべるノクトゥルナだったが、その視線は話しかけてきたタイスに一瞥をくれることもなく、戦いの場を見つめている。


「しかし、まだ向こうも宝玉少女が出ていないのが気になるわね」

とマレヴィーがもらす。

「どうせ出てくるさ。その時のためにこちらも準備できるのだからこの状況はありがたい、としておこう」

アニトラがこう言ってレレカに向き直った。


「レレカ様、お力を解放してください」

アニトラがこの言葉を発し、レレカの上にある呪文を唱える。

すると今まで憂鬱そうに俯いていた少女が少しずつ面を上げ始めた。

そこには、石館にいた時の暗い表情が薄れていき、不敵に目を開く12歳の顔があった。

幼く愛らしい瞳、顔。

だがその瞳には、まごうことなき「魔の者」の光が宿っていた。



ニレが待機していた魔王軍後方馬車。そこに攻め込んできたポーシャ。

急ぎ戻ったヴィルトシュネーらの加勢もあり、壊滅は免れたものの、東方の秘術を展開するポーシャのために白き者たちが次々と倒されていく。

エゼルベルトがかろうじて自由を取り戻したものの、ザックハーがポーラ・ヴィクの布術とノーマの粘液により、地面にはりつけられてしまう。

トルカ、ルル、メルシュが体勢を立て直してポーラの元へ向かおうとするが、その前に十重二十重に立ち現れる布分身により近付けない。

それを見て、器の6番ノーマが客車へと向かった。


いち早くノーマの行動に気づいたトルカが客車の前に戻り、その進路に立ちふさがる。

「あなたが粘液使いね!」

そう言ってトルカが湾曲刀を構え、ニレのいる馬車を背中に立ちふさがる。

客車に駆け寄ろうとしたノーマはトルカの反転のために取りつけず、その前で足をとめた。

「粘液使いなんて小技、初戦は奇襲戦法。堂々と姿をさらした状態では効かないわよ」

湾曲刀を構え、今まさに切り込まんとするトルカに対して、少し距離を置き、武器を持たぬ両手でノーマが構えた。

素手で刀剣に対処しようとしているかに見えて、トルカは少し警戒するものの、これなら正面から切り込めば勝機がある、と考えていた。

だが不敵に笑うノーマが

「私の技があれだけだと思っているの?」

ともらしたのを聞いて、正面からの切り込みを躊躇した。


ノーマが小声で詠唱を唱え、自身のもう一つの技を開陳する。

むき出しになった肩口、二の腕、そして両の掌、その周囲がキラキラと輝き始める。

一瞬光魔法、あるいは幻術、かに見えたその輝きが一段落すると、金属片であることがわかった。

それらはカード上の長方形で、その磨かれた面の部分がゆれ動き、回転するたびに光を反射していたのだ。

ほどなくしてそのカードがノーマの周辺に、ノーマを軸として規則正しい公転運動を取り始め。

それが一段落すると、次々に縁をきらめかせてトルカに飛んでいく。

鋭利に磨かれたその縁は鋭く、さながら刀剣の刃の部分が切り離されて飛んでくるようだ。

トルカは胸の前で背湾曲刀を回転させ、面積を広げてそれを受け止めようとする。

刀身にぶつかったカードは高い金属音を立てながら跳ね返されるが、全てを防ぐことはかなわず、その外側、あるいは隙間を塗ってトルカの肌を切り裂いた。

見抜いた通り、その金属カードの縁は鋭い切傷力を持ち、すっと横を通過しただけのように見えても、その肌を切り裂いていた。

とりわけ脚部、大腿部と脛がその攻撃にさらされ、血をにじませていく。


パーヴィエの時にしたような、頭上からの湾曲刀攻撃と、地上一直線の突進という二段構えの技はおそらく通用しない。

湾曲刀を投げた瞬間、相手の頭頂部に達する前に、自身が切り刻まれてしまうだろう。

しかも詠唱していたところを見ると、これは暗器のわざではない。

これらのカードそのものには魔術も秘密もなく、目の前の使い手が力場を発生させて、操っているだけなのだろう。

粘液技は隠密、正面から戦うときはこのカードと、二段構えなのだろう。

あのポーシャも群体と影縫いを使い分けていた。

器の少女が一芸のみの達人、と考えるのは危険だった、ということかも知れない。

ならば、とトルカは考えて、ノーマの背後で戦闘態勢を取り始めたルルに目で合図を送った。


「ハッ!」

背中ががら空きになっていたノーマ、その背後からルルが槍を突き立てた。

咄嗟にその攻撃に気づいたノーマが身をひねって反転する。

その一瞬、カードの攻撃が緩んだ。

中空にヒラヒラと待っていた何枚かの鏡面カードを叩き落して、ルルと向き合いかけたノーマめがけてトルカの突進。


「ガキン」とこれまでとは違う音を立てて、トルカの湾曲刀が止まった。

見ると目の前にはルルとその槍があった。

ノーマ目掛けてつっこんでいったのに、突撃した相手はルルだったのだ。

「え?」

二人は驚いて声を出し、ノーマの姿を探ったが、ノーマは既に二人から離れて、客車目掛けて突っ込んでいった。


「ニレちゃん! 逃げて!」

トルカが客車に向かって声を上げる。

だがその客車に入ったノーマはが見たのは、ただ侵入者に怯える幼い少女だけだった。

ノーマは先の戦いでニレを見ていなかったため、それが宝玉少女とは思えなかった。

(レレカ様より幼い?)

そう思いながら、声をかける。

「おまえが、いえ、あなたが宝玉少女なのですか?」


ニレが突然立ち上がった。

すると表情が一変する。

ノーマは瞬間的に、危険だ、と感じた。

あれには既視感がある。

そうだ、レレカ様が力を解放するときの変化によく似ている。


客車に飛び込んでいったはずのノーマが慌てて飛び出してきたのを見て、ポーシャもポーラも、トルカ達も一瞬そちらに視線が動いた。

ノーマが飛び出してきたあと、ゆっくりと降りてくるニレ。

その表情は、瞳の向こうは、既に魔焔公のものとなっている。


ニレ目掛けてポーシャの短剣とポーラの紐布が襲い掛かる。


「マタ、アナタ達ナノ?」

こう呟くように言ってニレのからだが、浮遊する。

中空で球形の炎球となったニレは、迫りくる紐布を燃焼させ、短剣も躱す。

最初の紐攻撃は成功したが、今回はこれで3度目である。

さすがにニレの方も慣れてきて、その紐による突破はもう許さない。

炎球から無数の炎条が伸び、布攻撃の主のところに殺到する。

「ポーラ!逃げろ!」

ポーシャが声を出したがポーラ・ヴィクはよけきれず、高温の炎に包まれ、燃えていく。

悲鳴を上げる間もなく、布使いが燃え落ちていった。


布使いを焼いた魔焔公ニレは、次に声を出したポーシャに狙いを定める。

だがポーラほど近くにいたわけでもなく距離があったため、ポーシャはなんとかこれを回避して、雑木林の中に逃げこんだ。

ニレの方も相手の群体を思い出し、もう一人、身近にいたノーマに火炎放射する。


ポーラが焼かれるのを目の前で見ていたノーマは、なんとか逃れようと、自身のもう一つの技、金属カードをバラまいた。

今度はその鋭い縁での攻撃ではなく、ピカピカに磨き上げられたその鏡面を使ったものだった。

ばらまかれた空間に鏡面の光が反射する。

ニレの炎がノーマのいた地面を焼くが、そこには誰もおらず、投げ捨てられたカードが焦げているだけ。

鏡面の反射に魔力で実映像のような錯覚を起こさせる。

トルカの突進を防いだ時もこれの応用だったのだろう。


「ふうん」

と言って、トルカが燃え残ったそのカードを拾い上げる。

みれば鏡面は焼け焦げていたが、その縁は極めて鋭利に研ぎ澄まされている。

「変な武器を使うのね」

とトルカが一息つくと、下肢の痛みが襲ってきた。

見ると両足とも血まみれである。

「肉や腱まで切られなかったのが幸いというところね」

客車に戻ってきたエルゼベルトがこう言って、トルカを客車に挙げて、血止めをする。

「これには毒も塗っていなかったみたい。それも幸いしたかも」

トルカが拾い上げた金属カードを眺めながら言うと、

「おそらく毒を塗ると、そいつの鋭利さが損なわれるんじゃないかしら」

とエルゼベルトが感想を漏らした。


かくして魔焔公の熱線が仕留めたのは一人だけだったが、襲撃してきた器の少女は退却した。

客車の外でよろよろと立ち上がったメルシュがヴィルトシュネーに礼を告げる。

「ありがとうございました。白き者の王」

だがヴィルトシュネーは悔しそうに唇をかむ。

「いえ、こちらも二人やられました。影ごと縫い付けるとは...」

と珍しく感情を見せている。


「ラムゼ、ウォリス、ディーダ、見ての通りだ。影からの攻撃、逃走、ともに難しい術をもった者がいる。用心してやつらを追え」

するとヴィルトシュネーの影の中から三人の男女の声が聞こえ、移動していった。

「こちらばかりが所在を知られてしまうのは、どうも納得いきません」

と言ってヴィルトシュネーが立ち去りかけるが、ニレが声をかける。

「私モ行キマス」


だがそれにはメルシュがとどめた。

「なりません、ニレ様。戦いの際は剣士様の判断を仰がなくては」

ニレが足を止めてメルシュの方を見ると、今度はヴィルトシュネーが

「御安心なさいませ。我々は戦に出向くのではなく、調べに行くだけです」

それを聞いてニレが真紅の瞳を光らせる。


「ワカリマシタ。シカシ向コウノ後方ニモ宝玉少女ガ到着シタミタイデス。調査ガ終ワレバ、戦ワズ速ヤカニ帰投シテ下サイ」

そう言ってヴィルトシュネーの瞳の奥を見透かすように見つめる。

「ありがたきお言葉、重々注意してことにあたります」

こう言ってヴィルトシュネーもまた影の中に消えていった。

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