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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第7章 炎と雷
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【2】 陽動と遊撃

トロル隊の副官テュスカが進路前方に数人の若い女戦士を見つけ、後方に合図を送った。

すると後ろに控えていたトロルや、魔王の血を引く魔物達が各々武器をとり、自身の魔術を展開し始める。

テュスカは前方最先端にいる錫杖を抱えた長身の女に対して、黒い鉄棒で身構える。

もうお互いが敵同士とわかっているので、誰何の声も、探る声も聞こえない。

ただただ、決着をつけんがために戦うのみである。


パーヴィエが勢いよく踏み込んでいき、背後からメレゲラが浮き上がり、オルガナが空気を集め、圧縮している。

テュスカの背後には毛むくじゃらの、それでいて痩躯なトロルが火かき棒のような鉄棒を握りしめて向かってくる。

最初に武器が触れ合ったのは、そのテュスカとパーヴィエ。

さながら鉄棒で殴りあうかのような戦闘となる。

テュスカに加勢しようと向かってきたトロル兵だったが、オルガナの風弾で足を挫かれ、蹲っていく。

そこへ上空からメレゲナの投げナイフが降って来る。


テュスカ率いるトロル軍の旗色が悪いと見て、魔王の庶子ゲレスの庶弟達が戦闘に加わる。

「フログ、プランディ!」

さらにその後ろから、ゲレスが声をかけると、それに呼応するように2体の魔物が突っ込んでいき、大きなからだをトロル兵の上に広げた。

変幻自在。

姿形を自在に操れる魔物達は、自らのからだを暗幕のようにしてトロル兵の上から降り注いでくるメレゲラの投げナイフを防いだ。

フログとブランディの皮膚は鋼のように強く、メレゲナのナイフを弾いていく。


だが彼らが防いだその上空に、今度はぽっかりと黒い穴があく。二体の魔物はそれが見えなかったが、背後から見ていたゲレスはその顛末が目に入った。

2体の魔物がその穴の中に吸い込まれていく。

それと呼応するようにメレゲナが地上に戻り、

「いかな魔物と言えども、ミーヴァの空間陥穽術にはひとたまりもないか」

と呟き、パーヴィエ、オレガナの後ろから、第2陣として術を展開したミーヴァを見やる。

ここまでは『器の少女』達が押していた。


パーヴィエと打ち合っていたテュスカだったが、体に倦怠感が宿ってきた。

同時に、幻聴のように、何か異様な音が聞こえる。

やがてからだが痺れ、肩口と腰に痺れが広がる。

異変に気付いたときにはもう遅く、体が使い物にならなくなっていた。


パーヴィエの前に意識を失って倒れ、そこをパーヴィエの錫杖でトドメを刺され、大地に倒れていく。

「ありがとよ、ライラ、あのまま打ち合っていたら勝敗がどっちに転んだかわからなかった」

そう言って、テュスカの亡骸の上で舞っている4個の独楽を眺めていた。

二人が打ち合っていたまさにその瞬間、独楽がテュスカの肩口に、腰に、背中に、そして最後に脳天に取りついて、毒針を打ち込んだのだ。

ライラが4つの独楽をスルスルっと回収して、

「パーヴィエが注意を引き付けてくれてたので、簡単だったわ」

とその童顔の愛くるしい顔で、ニッと笑った。

独楽の軸が空洞になっていて、そこに毒針が仕込まれている。

その毒針には神経毒が塗ってあり、血液毒のような痛みはほとんど感じない。

そして知らぬ間に神経に作用して、運動、思考が停止してしまい、相手の目の前で動けなくなってしまうのだ。


「あの魔王の娘の時には正面から行ったので剣に弾かれてしまったけど、こうやって隙を作ってくれれば簡単に仕留められるわ」

今度はパーヴィエの方に、にっこり微笑んで見せる。


トロル軍副官であるテュスカが目の前で倒されてしまったのを見て、魔物どもは力任せの突進を控え、パーヴィエ達を取り囲むように広がっていく。

だが、それこそがミーヴァの狙いだったのだ。


ミーヴァの顔を見て、ライラはその作戦がうまく当たっていることを感じていた。

後方の馬車から出陣するとき、ミーヴァは正面班と遊撃班に分けた。

「この戦いは殲滅戦じゃない。相手後方にいるであろう、待機している宝玉少女をどちらが先に抑えるか、という勝負なのよ」

そう言って先頭に参加するメンバーに作戦の概要を伝えた。

「まず私とオルガナ、パーヴィエ、ライラ、そしてメレゲラが正面から来る魔王の魔物達を引き受ける」

続いてポーシャ、ポーラ・ヴィク、ノーマに向いて言う。

「次に、ポーシャを軸にした遊撃班が後方にいるあの炎術の宝玉少女を抑える」

最後に後方待機部隊のレモナ、ノクトゥルナ、マレヴィーの方を見て、

「もし宝玉少女が攫えるようならレモナにもポーシャ達と呼応して頂戴。タイミングはノクトゥルナの目で見て」

「よっしゃ」

とレモナが利き腕を上げる。

そこでライラが質問した。

「でもミーヴァ、私たちが後方を攻めるように、あいつらも後方を攻めるんじゃないの?」

ミーヴァはそれも考えてあります、とばかりに

「だから後方にマレヴィーに残ってもらうの。もし万一があった場合、足の長い遊撃班ではなく、近くで戦っている私たちが救援に戻れるようにね」

そう言って、配置を終えたのだった。

少し遅れているようだけど、レレカを迎えにいったタイスも戻ってくるだろう。

と、ライラは戦の前のことを思い出していた。


一方、ミーヴァたちを四方から取り囲んだ魔物軍の中に、ゲルンも参加していたのだが、その傍らで魔物やトロルたちに指示を出していたゲレスに

「おかしい」と告げた。

「どうした? 確かにテュスカがやられたのは 予定外だったが」

「そうじゃない。なんで5人しかいないんだ。先の戦いでは10人近くいたはずなんだが」

「背後に隠れているだけじゃないのか?」

「我々が取り囲んだのに、それはおかしい」


「ヴィルトシュネー!」

虚空に向かって呼びかけると、彼の影の中から、白い妖精じみた男が現われた。

「剣士様、御命令を」

「急ぎ馬車に戻れ。別動隊が襲撃している可能性が高い」

それを聞いて、ヴィルトシュネーは無言で彼の中の影の中に入っていく。

囮となっている『器の少女』達に気づかれぬように、ゲルンもニレの元へと引き返していく。



後方待機の馬車組は、前線の情報がわからず少しヤキモキしていた。

「もう戦いは始まってるのでしょうね」

トルカがぽつりと漏らすと、

「ゲレスなんかより私の方が動けるのに」

とエルゼベルトも不満顔。


「姫、そうおっしゃいますな。まだまだ戦いは続きますゆえ」

と、メルシュは宥めるように言っている。


「うん?」

少女たちの他愛のないおしゃべりの途中で、ザックハーが不審な声を出した。

「ザックハー、感ジマシタカ?」

それにニレが呼応する。

見るとニレの瞳が真紅に変わり、魔焔公の力を顕現させている。


「どうしました?」

二人の様子がおかしいので、セルペンティーナが声をかける。

「何者カガ接近シテキマス。味方ノモノデハアリマセン」

馬車の中に緊張が走る。


「敵なの? ここを狙ってきたってこと?」

トルカが湾曲刀をつかむのとほとんど同時、客車の外で呻き声が聞こえた。

メルシュが外を確認すると、馬車の御者をかねて残っていたゲレスの配下が倒れている。

咄嗟に客車に身を隠すと、客車を覆っている幌に鋭い短剣が突き刺さった。


「敵ね!」

一番最初に威勢よく飛び出したのは、魔王の娘エルゼベルト。

だが飛び出すと同時に黒い短剣が彼女を襲った。

「ハッ!」

エルゼベルトは自身の剣でそれを払う。

しかし、次々と連続してその黒い短剣が降り注ぐ。

するとエルゼベルトの背後からメルシュも客車を降りてきて、客車に備えつけてあった槍を、短剣が跳んできた方向に投げつけた。

槍が藪の中へ消えていくと、そこから全身をローブで隠した女が飛び出してきた。


「おまえか!」

先の戦いで矛を交えたメルシュが声を漏らした。

だがポーシャはそれには答えず、音もなく街道沿いの茂みに、再び姿を隠す。

メルシュが再びそこへ槍を投げつけるが、そこにはもう誰もいない。


相手の姿が消えたことで、エルゼベルトはいったん馬車の客車に戻ろうとした。

だがその時、足が地面に縫い付けられたようになって動かなくなり、その場に顛倒する。

足元を見ると、足が地面に糊付けされていた。


「エルゼ、どうしたの?」

客車からトルカとルルも出てきかけたが、

「だめだ、二人とも来ちゃいけない!ニレ様をお守りしろ」

と、メルシュが大声を出した。


トルカとルルはこの声を聞いて、ニレを守るべく客車内にとどまった。

「俺が出る」

ニレの護衛を二人の少女戦士にまかせて、ザックハーが客車を降りた。

するとその瞬間、ザックハーは布に絡み取られて、包まれてしまう。

地面にはエルゼベルトの動きを封じた糊のような粘液が巻かれており、布で縛り上げられたザックハーの動きを完全に封じ込んでしまった。

「あんたの御自慢の子達が、その胸腔から出入りしてるってのは、先の戦いで見させてもらったわ」

そう言って馬車の背後から、布の片端を握ったポーラ・ヴィクが出現する。

ふだんは無口な彼女も、この奇襲が成功したことを確信し、ついつい口を開いてしまう。


地表に塗り込んだザックハーに迫るポーラが、腰帯に付けていた短刀の鞘から短剣を抜き出し、ザックハーにトドメを刺そうと迫る。

だが、剣を大きく振り上げた時、背後からその剣を叩き落とされてしまった。

ポーラが振り返ると、そこに白い顔をした男が立っている。

「なんとか間に合ったようですな」

表情を変えず、絵の具で縫ったような白い顔色の男が言った。


「おお、ヴィルトシュネーの旦那、助かりました」

とザックハーが言うと、

「剣士様の読み通りでしたな」

と呟くように言う。

だがそんな会話をのんきにさせるつもりはない、とばかりに、ポーラがヴィルトシュネーに布を投げつけるが、ヴィルトシュネーは木立の影に消えてしまった。

すると今度は別の影から3人の男女が現われ、ザックハーとエルゼベルトの布の部分を斬っていく。

ようやく上半身を起こせたエルゼベルトが

「なめた真似をしてくれたわね」

と言って、脚部や腰など、地表に糊付けされてしまったところから白い光を発し始めた。

ほどなくして、パリパリと音をさせて、エルゼベルトが立ち上がる。

粘液部分を凍結させ、砕いていったのだ。


「おのれ!」

藪の中からまた一人、器の少女が現われて、エルゼベルト目掛けて短剣を投げつけた。

だが、人影の中から現れたヴィルトシュネーの部下たちが、剣でその短刀を弾き、また影の中へ消えていく。

影を媒介として、出たり入ったりを繰り返す姿を見て、ポーシャが前に出た。

「そいつはまかせな!」


白き者が『器の少女』達を攻撃しようとして、影から現れたその瞬間。

ポーシャがその足元にあった雑木林の影に向かって、短剣を投げつけた。

すると、影から出入りしていた白き者の足が止まった。

「なに?」

影に飛び込めなくなっただけではない。

影ごと自分の足が縫い取られてとまったかのように、動かなくなる。


「私の故郷にも、影を媒介として移動する秘術があった。それに対抗するために生まれたのがこの秘術さ」

「う! う!」

ヴィルトシュネーの手下の一人が身動きできなくなり、あっけなくポーシャに切り伏せられる。

「秘術、影縫い」

ポーシャがそう言って、残りの白き者たちを現れるや否や、次々と縫い留めていった。

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