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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【12】 方針会議

港町キャトルと、西方の宝玉少女が潜むレントゥック間に設けられた『山の魔王の宮殿』ゲレス隊の臨時宿舎、テント群。

その中の一つで、器の少女達と戦ってきたゲルン、魔王の娘エルゼベルト、そしてゲレス隊の副官にしてセルペンティーナ。

そこにトルカ、白き者の王ヴィルトシュネーも加わって、作戦会議が行われていた。


「私も会議に参加させてもらうわ」

と入ってきたエルゼベルト。

その背後からトルカがおずおずと、ヴィルトシュネーがひっそりと続く。


「トルカ」

ゲルンがその姿に気づいて、手で招き寄せたので、トルカはととと、とその側に寄り座る。

「もう傷は大丈夫なのか?」

「ええ、フリーダが治癒術をかけてくれたので、すっかり」

そうか、と小さく声を漏らして、剣士は少女の肩を抱きよせる。

いつにないアプローチに驚き、そして嬉しさを隠せず、トルカは剣士の胸に頬を寄せた。


「あー、お楽しみのところ悪いんだけど、今後の方針を決めておきたいわ」

とエルゼベルトに言われて、ゲルンは顔を起こす

「この面子なら、ニレにも同席してほしかったんだが」

「ニレはもう眠ったわ」

エルゼベルトの、少し不機嫌そうな解答を受けて、ゲルンは引っこんだ。


「それでは剣士様、今後の予定を聞かせていただきたいです」

ヴィルトシュネーが何事もなかったかのように、話を元に戻した。

「うん、ああ、そうだな。今も話していたんだが、当面の予定通り、レントゥックに潜むアルマリアの残党の元へ攻め込む予定だ」

「アルマリア?」

エルゼベルトがその名を訝しむように尋ねた。

「エギュピタスが崩壊した時、ナイラーガとともに宝玉を持ち出した巫女ですわ、姫」

それについては、セルペンティーナが補足してくれた。


「セルペンティーナ、先程の話に戻るが、なぜアルマリアが死んでいると思うんだ?」

ゲルンが尋ねると、金色の小蛇が答える。

「はい、まず二人の巫女が宝玉を持ち出したのはその神官長からエギュピタス再興を託されたからでした。でも今の宝玉の後継者達にはその目的意識が感じられません」

「そうね、本来の目的なら、ブレンダと協力しようとするはずだし、攫うっていのは少し違う気がするわ」

エルゼベルトもこの点については同意する。

「次に、現在宝玉を持っている少女が、力を欲しているらしいことです」

「確かにそういう感じは少しあったが」とゲルン。

「何より、ニレ様も攫おうとしたこと、これはさらなる力への欲求かと思われます」

「なるほどね、エギュピタスの再興だけが目的なら、あそこまで魔術師を集める必要はないし」

エゼルベルトも納得している。


「にもかかわらず、彼女たちは剣士様達を排除しようとしていた。つまり...」

「宝玉少女だけを手に入れ、他の戦士、魔術師は排除したい、という意図か」

「ええ。ですから現在の宝玉少女はアルマリアではなく、彼女から宝玉を継承されたか、奪い取ったのではないか、と思われます」

「そして、本来の使い方とは違う使われ方を黙認しているわけだがら、もう消されてしまった可能性が高い、と」

セルペンティーナのやり取りを聞いて、エルゼベルトが言う。

「なるほど、その目的が魔界の簒奪と、私たち魔術師の排除ってのは間違いなさそうね」

「はい、でもこれはあくまで私の推測ですので」

というセルペンティーナをエルゼベルトが制して言った。

「謙遜はいいわ。私もあなたの考え通りだと思うし」


「それで、今後の目的としては、ブレンダの奪還と、敵の中枢を倒すこと、でいいんだな」

「ええ、ですが中枢についてまだ詳しくわかっていません。したがってブレンダ姫の奪回が第一になるでしょう」

このゲルンとセルペンティーナの会話を聞いて、トルカが口をはさむ。

「あの...エギュピタスの連中は、どうしているのですか?」

この問いに対して、エルゼベルトが

「気になるの?」

と問いかけると、

「ええ、私たちはあいつらと二度にわたって戦いましたから」

「心配ない。彼女たちは謝罪もしてくれたし」


「エギュピタスはまもなく追いつくはずです」

セルペンティーナがトルカに答えた。

「ですが、彼女達はもう我々と戦うことはないでしょう、むしろ...」

「そうだな、ブレンダを奪回して、やつらに恩を打っておくのも良い」

ゲルンの言葉に少し安心したように、彼の胸に再びしがみつく。

「まったくあなたは...湾曲刀振り回している時と、ゲルンの前だとまったく別人ね」

「だって...」


ごほん、と咳払いして、ゲルンがセルペンティーナに問う。

「それで、その奪還戦にはゲレスが中心になってくれるんだな?」

「はい。そのつもりですが、できればゲルン様にも参加していただきたく」

セルペンティーナが申し訳なさそうに言うので、その理由を問うてみた。

「はい、まず剣士さまはお疲れでしょうから。それに、私は戦闘力が皆無ですので、前線に出ることはできませんし...」

珍しくセルペンティーナが言い淀んだので、エルゼベルトがつなげていく。

「それに、ゲレスじゃ少し心配よね、大局的な視点というか、おつむの使い方と言うか」

「おい、そんなにあからさまに」

とゲルンがつっこむと、セルペンティーナの方が申し訳なさそうに、俯く。

「まぁあなたの立場じゃ言えないものね、あいつは頭が悪いので戦闘以外の行動が不安だって」


セルペンティーナがますます俯いて言葉を失ってしまったので、ゲルンがその申し出を快諾する。

「いいぜ、おまえがそんなに気に病むことじゃない。私が前線に出る」

ここでセルペンティーナがようやく顔を上げて、少し嬉しげな顔になった。

「ゲルン様には戦うだけでなく、現場での指揮も取っていただけると、私も安心です」

「そもそも私は負傷したわけじゃないし、一晩も経てば回復する。そんなに疲れたわけでもないしな、それに」

そう言って、ここまで沈黙を続けていたヴィルトシュネーの方を向いて、

「おまえも手伝ってくれるんだろう?」

と問いかけた。

ここでようやく白面の白き王が口を開く。

「もちろんでございます。私たち『白き者』は皆あなた様に従って戦うよう、魔王様、フリティベルン様から命を受けてございます」

「ただ相手は強力だ。今度はこちらからも犠牲者が出るかも知れない」

「元より、それは覚悟の上でございます」

そう言って、ヴルトシュネーは作ったような、それでいて不気味な笑顔を向ける。


「そうね、次は私も不覚をとったりしないわ」

だがエルゼベルトがこう言い出したので、ゲルンは止めに入った。

「だめだ、エルゼ。今度は静観してくれ」

「なによ。毒ならすっかり回復したわ。それにあいつらも言ってたじゃない。ゲルンとニレと私が脅威だ、って」

「姫様。私も姫様には、次は静観していただきとうございます」

セルペンティーナが、しっかりとした口調で言う。

「私も姫様にはここにとどまってほしい」

ヴィルトシュネーまでこう言い出したので、エルゼベルトはぐっと詰まってしまった。

だがヴィルトシュネーの根拠はゲルンと少し違っていた。

「ゲルン様、メルシュから、戦いの顛末は聞きました。それによると姫様の氷結魔力は敵に見られているらしい、と」

「だったらゲルンだって」

「剣士の技と、魔術師の技は違います。剣技は対策をたてられても実力の差を越えることはありません」

このやりとりを聞いて、ゲルンは傍らでしがみついているトルカにも言う。

「おまえもだぞ。今回ばかりは私やゲレスにまかせて、ここでおとなしくしているんだ」

しばらくゲルンの顔を詰めて、

「...はい」

と頷いた。


「それでは明朝しかける。ゲレスに伝えておいてくれ」

ゲルンに言われてセルペンティーナが答える。

「はい。ゲレス様のこと、よろしくお願いいたします」

かくして方針会議は終了した。



「アニトラ、タイス、ミーヴァ、それにみんな。あの宝玉少女の一隊に『山の魔王の宮殿』の魔人たちが合流したようです」

こちらはレントゥックにある『器の少女』たちの拠点。

傷を負った者は治療に専念し、無傷だった者は体力、魔力の回復に努めているところだった。

ノクトゥルナの千里眼による報告を受けて、錫杖使いのパーヴィエが声を上げる。

「つまり『山の魔王の宮殿』は、本格的にあたしらと事を交えようってわけだな」

「ふん、望むところじゃないか。どのみちあいつらとも雌雄を決する予定だったんだろ?」

と、飛行術のメレゲラも声を出す。


「待って、みんな。気持ちはわかるけど、落ち着いて」

戦意をむき出しにする何人かを制して、ミーヴァが語る。

「これは予定通り、とも言えるわ。でももう少し情報がほしいわね。ノクトゥルナ、次もあの炎術の宝玉少女は出てきそう?」

「そこまではわかりません」

そう、と呟いてミーヴァが改めて全員をそしてアニトラ、タイスを眺めまわす。

「もし相手が次もあの炎術の宝玉少女を出してくるなら、私たちもレレカ様に出ていただかなくてはいけないと考えます」

こう言って、タイスの方を強い視線で見る。

「仕方ないわね、あなたがそういう判断だったら、レレカ様にもお願いしておくわ」

タイスがそう言って肩をすくめる。


この渋々、と言った感じのタイスを見て、ミーヴァがさらに強い調子で言う。

「先の戦いで私たちでは宝玉少女に対抗できないことがわかりました。それは私たちが一人一人ではレレカ様と対決できないのと同じことなのです」

「わかったわよ。そんな強く睨まないで」

タイスは全体を統括する立場にあるが、個々の力において器の少女に対抗できるわけではない。

普段はあまりその立場に対して意見しないミーヴァがこれほど強く言ってくるのは、それだけ真実味が強い、ということでもあるのだろう、と思って引き下がった。


「タイス、もう一つ気になることがあるのだけど」

アニトラがタイスに尋ねた。

「あのエギュピタスの娘はどうなっているの?」

「うん? 私の部下が監視して閉じ込めてるわよ? 何か気になるの?」

「あいつらの目的が決戦ではなく、あの娘の奪還だとしたら、と考えていたのよ」

アニトラが不安そうに尋ねる。

「相手が魔術師、魔法戦士、あるいは魔人が相手だって言うなら、屈強な人間の兵士を護衛につけても防げるかどうか」

このやり取りを聞いてミーヴァが提案する。

「それじゃ、護衛用に一人行ってもらいますか」


「敵が増援されているってのに、一人減らして大丈夫なのか?」

タイスがミーヴァに問うと、

「前回の苦戦は、あの霧のせいで私たちが分断されたことにありました。今度はその手は使えません」

自信たっぷりに言うミーヴァに対して、粘液使いのノーマがひらめいたように言う。

「そうか、ミーヴァの陥穽術なら、あの霧を吸い込める?」

「そうです」

とにっこり笑ったミーヴァが付け加える。

「ですから、もし相手の魔法使いが霧をはったら、その場から動かずに、私が排除するのを待ってください」


「それで、あの娘の監視には誰をあてるつもりですか?」

と独楽使いのライラが尋ねた。

「そうね...」

一通り皆を見渡したあと、ミーヴァが一人の少女に向かって言う。

「マレヴィー、あなたにお願いしようかしら」

と赤毛の少女に頼んだ。

「いいよ。私も戦闘に参加したかったけど、あの気色悪いのが相手方にいると思うと、少し気分が滅入ってたんだ」

マレヴィーが、ほっと胸をなでおろした。


決戦は翌日に迫っていた。

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