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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【10】 ライラとメレゲラ

続いて、二人の少女と戦っていた魔王の娘エルゼベルト。

目の前にいたのが、殺人独楽の使い手、童顔短髪の少女。

だがその少女ライラが手の内を見せて攻撃してくる直前、背後からもう一人の少女が切り込んできた。

霧の中で一瞬、ライラの姿を見失ったエルゼベルトの背後から、美しい黒髪をなびかせた少女が長剣を振りかぶってきた。

エルゼベルトは背後頭上から剣を下ろされたことを気配で察知し、自身の剣を背中に回して受け止める。

ほとんど暗器と言っていいライラの独楽に対しては対処が遅れてしまったが、このメレゲラの長剣のようにまっすぐ切り込んでくる相手に対しては相性が良い。

魔王の正嫡の娘として数多くの魔術を会得し、豊満な魔力を身の内に秘めるエルゼベルトだったが、自身は相手と近接で渡り合う剣術の方を好んでいた。

それに背中には薄い背甲が仕込まれており、それを隠す目的と、魔力補助とを目的として、濃い茜色のマントを羽織っていた。

そのマントには傷をつけさせず、難なくその攻撃を受け止める。


霧の中に姿を消した殺人独楽の使い手には注意を払いつつ、その背後から強襲してきた相手と向き合うエルゼベルト。

こちらはあの童顔短髪の娘とは何もかも対照的で、長いストレートの黒髪を何か所かで束ねて後ろになびかせた、痩身の剣士だった。

四肢を覆う革衣、関節、肩、腹部、膝、といったあたりを金属の補強板でガードし、手には綺麗な直線状両刃の長剣。

腰には恐らくその長剣が入っていたであろう長い鞘。

だが彼女もまたエルゼベルトと同じく、背中にマントを羽織っていた。

見たところ剣士のようなのだが、このマントの意味がわからない。

近接戦で長剣を武器として渡り合うのなら、このマントは邪魔になるのでないか。

だとすると剣士のように見えるけど、この少女も自分と同じく「剣技も使える魔術師、魔法使い」なのだろうか。

ならぱ、とばかりに、エルゼベルトは攻撃を魔法戦に切り替えた。


エルゼベルトの周囲が、キラキラと輝き始める。

メレゲラにはエルゼベルトのからだが光っているようにも見えた。

しかしそうではなく、エルゼベルト周辺の大気がキラキラと輝き始めたのだ。

そしてその無数の輝きがメレゲラ目掛けてなだれこむように突進してくる。

長剣を構えて防ごうとするものの、数が多すぎる。

小さく光り輝くそれらが、剣にカンカンと当たっていく。

体軸の中心線は防げるもの剣からはみだす部位、両肩や腰などにはそれが突き刺さり、衣服を貫いて肌を裂いていく。


その小さな煌めきは、氷片からなる氷刃だった。

周囲が霧に覆われていたことを利用して、空中の水分を念動力で引き寄せ、氷結魔法で凍結。

そしてそれを今度は強い魔念動で、剣士目掛けてはじき出したのだ。

霧の中、いくらでもその氷片は作り出せる。

それを氷刃として形を整え、打ち出す。

見るとメレゲラは体軸の中心線に飛んで来た氷刃を落とすのが精いっぱい。

いくつかは彼女のからだをとらえていた。


氷刃攻撃が有効だと判断すると、エルゼベルトは氷刃から氷槍に切り替える。

細く長く硬く、氷の温度をさらに下げ、伸ばし、槍のような長さにして、打ち出す構えをとる。

その間、氷刃は打ち出され続けていたので、メレゲラにはそれに対応することができない。

(まずは、一人)

そう思った瞬間、メレゲラが予想外の行動に出た。


飛翔!

そう、メレゲラは自身の身体を浮き上がらせたのだった。

跳んだ、と言うのではなく、上から何かに引きあげられているかのように、地面に対して垂直に、上方へ浮いていったのだ。


「氷結魔術の使い手だったのね」

空中に浮いているメレゲラが、エルゼベルトを下方に見て言う。

エルゼベルトはそれには答えず、今作り上げた氷槍を空中に浮くメレゲラ目掛けて発射した。

上空に出たことで、氷刃はもう届かない。

それゆえ氷槍だけに注意を集中して、長剣を構え直す。

喉笛を狙って投げつけられた硬い氷槍だったが、体軸の中心線上だったため、メレゲラの長剣に食い止められた、ように見えた。

だが氷槍の威力は強烈で、メレゲラを長剣ごと押していき、ついには長剣を跳ね飛ばした。


その勢いに押され、上空で吹き飛ばされるメレゲラ。

落下しかけるところを、道の脇に植えてあった並木、その頂点につかまって、なんとか叩き落されずにすんだ。


「その程度の距離だと、私の凍結魔術から逃げた、とは言えないわよ」

道の真ん中に仁王立ちになった魔王の娘は、木の上に逃げたメレゲラを補足していた。

再びエルゼベルトの周囲に光のきらめきが起こり、氷刃が、氷槍が、何本も作られていく。

一本であの威力だったのだ、何本も飛んで来たら。

そう考えるが、メレゲラは咄嗟に対処が思いつかない。

さらに遠方へ飛んで逃げる、これくらいしか思いつかなかったけど、それだけの距離がとれるのか。


エルゼベルトが今度は複数の氷槍を発射しようとした、まさにその時。

氷槍の先端から、ガリガリと削られるような異様な音がし始める。

「うん?」と言って先端部に目を凝らすと...。

独楽だ!

氷槍の先端で独楽が舞っている。


エルゼベルトが独楽に気が付くや否や、氷槍の先端部がポキリと折れた。

メレゲラと交戦している時、霧の中に身を隠した童顔短髪の少女が、右側後方から姿を見せた。


霧の中から現れたライラが、エルゼベルトの氷槍を削り折って地面に落ちた独楽に対して、またしても紐を投げかけ、捉え、回転させて宙に投げかける。

さらにいつ独楽が弾かれても瞬時に拾い上げられるように、その操り紐をひゅんひゅんと回している。

投げ上げられた独楽は、先程と同じように、エルゼベルトを襲う。

「メレゲラ、降りられるかい?」

「助かったよ、ライラ」

そう言って浮遊術の剣士がするすると木をおりてきた。

「両方で攻撃しましょう」

ライラの言葉を受けて、メレゲラは再び飛翔術の準備に入る。

そう、飛翔術は敵から逃げるというより、本来は上方からの攻撃のための術なのだ。


エルゼベルトに向かって行った独楽だったが、しかしそれは魔王の娘の剣や身体に到達することはなく、失速してポトリと地面に落ちていく。

ライラが驚いて紐を放ち、落下した独楽を回収してみると、独楽の軸が濡れ、あるいは凍り付いていた。

「さっきは不意をつかれて対処できなかったけど、ネタさえわかればなんとかなる」

こう言ってエルゼベルトの口元に笑みが広がる。


それを聞いて、独楽を回収したライラが後ろに遠のき、

「さすがは『山の魔王の娘』ですね、こんなに早く、簡単に見切られるとは思いませんでした」

そういいつつ、ライラは別の構えになる。

「でも!」

まだライラの闘志が一向に衰えないのを見て、エルゼベルトは

(なに? 独楽を止められたのに、まだ別の技があるっていうの?)

と思い、無策な追撃やめ、剣を構え直し、いつでも氷刃を撃てる体制に戻っていく。

だが構え直した時、エルゼベルトは相手方の浮遊術の剣士の姿が消えていることに気づいた。

メレゲラはライラが魔王の娘とやりとりをしている間に、音もなく空中へ移動していたのだった。


エルゼベルトは見た。

空中でメレゲラが長剣を鞘にしまい、短刀のような、何か光るものを上から投げるつもりであることを。

だがそちらに一瞬注意を奪われた瞬間、剣を構える利き腕に何かが巻き付いた。

ライラが独楽を回すために使っていた紐を、今度は鞭のようにしならせて、音もなくエルゼベルトの利き腕に絡みつかせたのだ。

見ると、投げられたのは2本の紐だけで、その他の紐はライラの片手でくるくると回されている。

つまり追加攻撃がある、ということだ。

さらに上からメレゲラが何かを投げようとしている。


しかし、ライラがある異変に気付いた。

「メレゲラ、逃げて!」

短刀を投げ終えた瞬間、「え?」ともらしてメレゲラが周囲に神経を張り巡らせると、後方のさらなる上方から、真っ赤な炎の玉が迫ってくるのがわかった。

その炎の球から、糸のように細い熱線がものすごいスピードで発射され、メリゲラに迫る。

「ひっ!」

メレゲラは恐怖の声を発しつつ、それを咄嗟に避けて、また並木の幹にしがみついた。


利き腕を封じられて、メレゲラの放った短刀を剣で払えなくなったエルゼベルト。

咄嗟に身をかわそうとして飛びのくが、上から襲ってきた短刀の全てを躱しきることはできなかった。

左肩口に一本、背部に一本が命中、さらに足首に一本かすめていった。

左肩口と背部に刺さった二本は、背甲によって弾かれていたが、足首をかすめていったものは、皮膚を切り裂いていた。

短剣攻撃の常道として、それには毒が塗られている。

外傷としてはただ皮膚が切り裂かれただけだったが、そこに強烈な痛みが襲った。

「くっ」

と言葉にならない声を発して、エルゼベルトが蹲る。

だがそこへ、二人の少女剣士のさらなる攻撃はなかった。


エルゼベルトが上空を見上げると、炎の球がメレゲラとライラを攻撃しているのが見えた。

「あれは...ニレか?」

こう呟いたものの、足が動かずそこから離れられない。

「姫様!」

そこへメルシュが駆けつけてきて、エルゼベルトに肩を貸し、引き上げる。

「ニレ様が相手をしてくださっている間に、この場を離れましょう」

メルシュに肩を抱え上げられながら、

「すまない、助かった」

と言いつつ、馬車の方へ下がっていく。


一方、突然火炎球の攻撃を受けたメレゲラとライラは、その正確で強い熱線攻撃の前になすすべもなく、岩陰や木陰に身を隠して逃げ回るのが精いっぱいだった。

だが、ここにもレモナが現われて、最初にライラ、続いてメレゲラを回収していった。

火炎球はゆっくりと地面に降り立ち、その高熱の守りを解く。

「フム...」

こう呟いて、消えてしまった相手の映像を、また頭の中で再現してするニレ。

今度は2回目、3回目、ということもあり、異空間跳躍者の姿をはっきりととらえていた。

(不利ト見ルヤ回収ヲ担当シテイル、ト言ウワケカ)

確かにそういうバックアップがいれば攻撃に専念できる。

個々の戦闘能力だけでなく、組織的な戦闘も可能、と言うことだろう、なかなかの強敵かもしれない、と考えるのだった。

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