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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
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【7】 決戦と戦況

フリーダの出した幻と霧の中で謎の少女達と戦っていたのは、ゲルンとトルカだけではなく、ルルとエルゼベルトも相手方深くに攻め込んでいた。

ミーヴァとゲルンの戦い、パーヴィエとトルカの戦いを越えて、それぞれが相手を見つけて切結んでいた。

矢のような勢いで懐深く攻め込んだルルは、奥に認めた相手に槍を突き立てた。

その胸板目掛けて一直線に槍でつっこむ。

霧の中で先手を取ったように見えたが、相手もからだをひねってこれを躱した。

だが躱されたとわかったルルは素早く槍を引いて、第2撃!

その槍は初撃のときより相手の胴に近づいたものの、また躱されてしまった。

ルルはさらに槍を引いて、第3撃、第4撃と、素早く突き越していく。

接近戦に置いて槍の長さが利点とならなくなっても、ルルのこの反射反復の突撃が相手に反撃のスキを与えない。

そしてついに槍の穂先が相手方の胴体、脇腹をとらえ、貫いた...かに見えた。


ルルは確かに自分の槍が相手に届いたのを感じた。

しかし、当たっていてるのに手ごたえらしきものがない。

ふんわりと、泥の中に槍を突っ込んだかのような感触。

すると相手のからだだったものが、灰色に染まり、ふくれあがり、ルルの槍を取り込んでいく。

ルルが槍を引き抜こうとするが、穂先を支える先頭部の物打ちをしっかりとつかまれてしまっていた。

槍が相手の衣服に入り込み、そこをつかまれたのだ、と判断したルルは、それなら、とばかりに引くのをやめて持ち上げ始めた。

灰色の塊が、霧の中に持ち上げられる。

そのままルルは、槍ごと相手を地面にたたきつけようとした。

ぐしゃっ、となにかがつぶれたような感じになるが、不気味なことに、その灰色の塊は地面に落下しても、イソギンチャクの触手のように、ゆらゆらと動いていた。

「これは...いったい?」

そう呟いて槍を自分の手元に引き戻したルルは、敵だと思っていたそれが、襤褸雑巾のようになった布の塊だとわかった。


槍を構え直したルルの周囲から、布の帯が地面と平行して飛んでくる。

槍に巻き付かれるのを恐れて体を躱しながら布帯の打ち出し元を探ろうとしたが、その瞬間、利き腕ではない方、つまり左腕に布帯がまきつかれてしまった。



先行したルルの背後では、魔王の娘エルゼベルトが童顔短髪の少女と向かい合っていた。

少し濃い目の肌をしたその少女は、アーモンドグリーンの瞳が輝く、愛くるしい顔をしていた。

エルゼベルトは少し意表を突かれた形になったが、

「あなたが私のお相手?」

とその少女が言ったので、ハッと我に返った。

「驚いたわ、あなたのような女の子がこんな戦塵の中に現れるなんて」

そう、見かけに騙されてはいけない。

魔術を使い、それを戦闘用の技として身につけているのなら、老若男女、ましてや見掛けの問題などもったくの無関係だ。

「私のような子が相手だと御不満そうね、でも...」

そう言ってその少女は低く身構え、少し微笑んだ。

天使のような、愛らしい笑顔。

エルゼベルトもそれに合わせて剣を抜き正眼に構えたものの、技の見当がまったくつかない。

というのも、低く構えたものの、両手は懐にしまいこみ、刀剣の部類は身につけていない。

かといって何かの詠唱が始まっているようでもなく、ただ自分をしっかりと見つめ、スキを作らないように低くかまえている。

小さな体格で、衣装も肌にぴったりとはりついたエスニックな文様が刺繍されているもので、下肢が短いスカートから覗いている。

全体的にスレンダーだったこともあり、こどものように見える。


だがそのひ弱そうな外見であっても、無策に突っ込んでいくほど愚かなエルゼベルトではない。

現に、自分たちの宝玉少女であるニレは9歳だったではないか。

エルゼベルトはその少女を今一度観察する。

ぴったりと身に張り付いた薄い衣装、その上にチョッキのようなものを着ているのだが、その懐に両手をしまい込んだまま。

(何かを隠しているのか、それとも?)

エルゼベルトはひょっとしたらこの娘は暗器、隠し武器の使い手なのだろうか? とも考える。

だが、少しずつすり足で間を詰めていくが、同様に少女の方も体制は崩さず、ゆっくりと後ずさる。

(カウンター狙いか?)

とも考えたが、まったくその意図が読めない。

にらみ合っていると、周囲の霧が少し晴れて来た。

フリーダが張った霧の境界線に来てしまったようだ。


「ライラ、何をちんたらやってるんだ」

その時背後から別の女の声が響いた。

エルゼベルトが一瞬その声に気を取られた瞬間、その短髪童顔の少女が動いた。

懐から両手を弾けるように出したと同時に、空中に何かがばらまかれた。

それが何か、確認する暇もなく、真上から、左右両横から、エルゼベルトに降りかかり、襲い掛かってくる。

とっさにその場所から飛ぶように後退するエルゼベルト。

そのばらまかれたものが、回転しながら急降下。

エルゼベルトのいた地面を削り取っていく。

だが、地上に襲来したそれは、逃したと知るや再び中空に舞い上がり、エルゼベルト目掛けて上から襲ってくる。

全てを躱しきるのは無理だ、と感じたエルゼベルトは自分の頭部目掛けて落下してくるモノを剣で弾いた。

それは剣の上で、ガガガガと音を立てて回転している。

独楽だ!

子どもの遊具である独楽が襲来してきたのだった。

先端の鋭い軸の部分が磨かれ、さながら剣先、槍の穂先のようになって、相手を襲うのだ。

剣でその独楽を弾き落とすと、霧の中から追ってきた少女が現われ、紐をしゅっと独楽に投げた。

その紐は鞭のように独楽をとらえ、巻き上げ、再びエルゼベルトの上から襲撃してくる。

見ていると、地面に落ちた独楽はことごとく少女の紐によって瞬時にまきとられ、回転を与えられ、攻撃に参加している。

エルゼベルトはもと来た道を引き返すべく霧の中に飛び込むが、独楽使いの少女もまた敏捷に身を躍らせて、追撃してくる。

(どこかで反撃しなければ)

詠唱の時間も取れないまま追い詰められていくエルゼベルト。

相手の姿も見えなくなり、ただ独楽だけが落下してくる。

霧の中に飛び込んだのは失敗だったかも知れない、と思っていると、

「もらったぁー」

と言って、先ほどの均衡を破った声の主が突っ込んできた。



霧の境界線付近、エルゼベルトが向かったはるか南側では、ザックハーが二人の少女に追いつかれた形になっていた。

だがザックハーは最初から個別戦ではなく、複数を同時に相手にしようと考えていたのだ。

それは彼の放つ「白い吸血鬼」が複数を相手にすることができたから。

この醜い顔をした小柄な男を見つけたのは、皮肉なことに「白い吸血鬼」を相手にすることを嫌がっていた赤毛のマレヴィーだった。

「げっ」

と露骨に顔をしかめたものの、遭遇してしまったからには戦う他はない。

そう思って少し距離を取っていると、もう一人、先の戦いで風弾を撃っていた空気使いオルガナやもやってきた。

それを見てマレヴィーは少し安心したような表情になる。

「オルガナ、あれがたぶん白い吸血鬼使いだ。本人は私が仕掛けるけど、白い吸血鬼を出してきたら、お前が頼む」

「わかった」

二人はザックハーに聞こえぬよう念話で会話し、向き合う。


「二人か、ちょっと物足りないな」

こうつぶやいて、ザックハーも二人との間合いを測りつつ、別の者が来る可能性も考えて警戒する。

「ずいぶん余裕ね。二対一でも勝てる、という自信かしら」

「嬉しいねえ...」

ザックハーがそれに応えてこう言ったので、マレヴィーが少し勘違い。

「へえ、あんたも殺し合いが大好きってたぐいかい。だったら」

「違う、違う」

相手の言葉を途中で遮って、ザックハーが醜い顔を歪ませる。

「俺はこの見てくれだ、女の子には徹頭徹尾嫌われてきたからな。お嬢ちゃんみたいな可愛い娘に話しかけられると、嬉しくてたまんねぇってことだ」

さすがにこの解答には気色悪くなって、マレヴィーがブルッと震えてしまった。

「気持ち悪いやつだな」

「その気持ち悪い中年男に倒されるなんて、お前たちも不運だよな」

「何言ってんの!」

マレヴィーが少しばかり興奮してきた。

気持ち悪い男、気持ち悪い妖怪使い、気持ち悪い見てくれ。

ザックハーは自身の醜怪さをはっきりと意識して、マレヴィーの気持ちをかき乱していった。

オルガナの方も平静を装って表情を変えていなかったが、この目の前にいる醜い男に対する嫌悪感は、腹の中でグツグツと煮えたぎっていた。


「へへへ、じゃあ、いくぜ」

こう言ってザックハーが胸襟を開くと、そこから白い塊がボロボロと転がり落ちてた。



混戦状態となった霧の外側、つまりゲルン達の反対側に馬車が止めてあった。

その中から、3人の少女たちが戦闘を観戦している。

いや、正確には、その中の一人が千里眼で戦闘を見て、それをあとの二人に伝えていたのだ。


大柄な女が、その千里眼の小柄な少女に話しかける。

「ノクトゥルナ、戦況はどうだ? こんな霧をはられたら、こちらからはまったく見れない」

「個別戦に持ち込まれたみたいね。でもみんな今のところは優勢みたいよ」

すると二人の後方にいた黒髪青瞳、褐色の舞姫アニトラも尋ねる。

「戦況をまとめてくれないか?」

「はい」

と相変わらず弱々しい声でノクトゥルナが戦況を二人に報告する。


器の1番ミーヴァは黒衣の剣士と戦っていますが、今のところは互角。

ミーヴァは得意の「陥穽」を展開しているけど、なかなかひっかからないね、あの剣士。


器の7番パーヴィエ。

湾曲刀使いの女戦士と戦っているみたいですけど、ここはうまく霧を利用されていて優位を築けていません。


器の9番ポーシャは、宝玉少女に切り込みました。

形勢は不明だけど、相手が相手なだけに、彼女を一番最初に回収しなくてはいけないかもしれない。


器の10番ポーラ・ヴィクは槍使いの女戦士と交戦中。

ここはだいぶ優位に展開してるみたい。


器の8番ライラと、器の11番メレゲラは、魔王の娘と交戦中。

ライラがかなり有利に進めているみたいだけど、二人の連携がとれていないわ。


そして最後、器の2番オルガナと器の5番マレヴィーは、白い吸血鬼使いとこれから開戦。

ここはまだわからない。



ノクトゥルナがここまで報告すると、アニトラが

「それだけ? 6番はどうしたの?」

「器の6番ノーマは一番濃い霧の中に投げ出されたようで、まだ会敵していない。方角からすると、ポーシャの方に向かっているみたい」

アニトラはそれを聞いて満足そうにうなずいた。

そしてこの後方部隊になる二人、器の3番と4番を頼もし気に眺めていたる

(戦闘には不向き、なんて言ってるけど、いちばん冷静に周囲を見れる娘よね)

と思いながら。

器の3番レモナは、異世界ジャンプにより距離を短縮する。

自分もこれが使えるが、レモナほど大容量は運べない。

しかも場合によっては敵が待ち構えている真っただ中に飛び込んでいかなくてはいけない時もある。

今回は不利になったときの仲間の回収だ。

はたしてそれが必要になるのか、それでもこの決戦で向こうの宝玉少女を捕らえることができるのか。

そんなことを考えながら、器の4番ノクトゥルナの戦況報告を聞いていた。

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