表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
60/115

【6】 個人戦へ

キャトルの宿屋、翌朝。

宿屋の門前に出て、少しのびをするゲルン。

そのあとからゆっくりとトルカが現われて、

「とりあえず、目指すのはレントゥックですね」

と話しかける。

「そうだな、レントゥックはここから半日ほどだし、明るいうちに着けるだろう」

そう言って、トルカを伴い、荷物をまとめるために宿屋へと戻っていく。


市街地端にあるこの宿屋だったが、その西方、レントゥックへ続く道の脇、少し入り組んだ場所で、3人の少女がその光景を見ていた。

「ノクトゥルナ、あれか?」

赤毛の娘が小柄な少女に声をかけた。

前日同様、全身をローブで包んだ小柄な娘は小さな声で答える。

「うん。あれが魔剣使いの剣士と、湾曲刀使いの少女戦士」

「マレヴィー、気がすんだか? そろそろ戻ってミーヴァ達と合流するぜ。」

と、二人をここへ異空間ジャンプで連れて来たレモナが言った。

その力で再び戻ろうとしたとき、ノクトゥルナが声を上げて。

「レモナ、待って」

「どうした?」

「東方から海竜船が来る」

これを聞いて、レモナとマレヴィーが顔を見合わせる。

「どういうことだ? エギュピタスのキャラバン隊が来るってことか?」

もう少し観測した後、ノクトゥルナが言った。

「いえ、あれはたぶん...『山の魔王の宮殿』から来たみたい。魔人がいっぱい乗ってる」

少女の瞳がキラキラと輝いて、遠隔にある船の姿、それどころかその乗員まで「視」ていたようだった。

「すると、この宿屋の連中の...」

レモナがこう言うと、マレヴィーが言葉をつないだ。

「援軍と見ていいだろうね」

「よし。良い情報が手に入った。急ぎ戻ってミーヴァに報告しよう」

そう言ってその三人は、暗がりに消えていった。


宿屋を出たゲルン達は大型馬車を買い取り、西方へと向かう。

フリーダーベルカ間の水盤通信で援軍が来ていることは知っていたが、そこまで近くだとは考えていなかった。

元より行先は伝えてある。

合流ができなければレントゥックで待ち合せればいい、とも考えていた、


それで馬車を出したが、キャトルの町を離れてすぐに、違和感に気が付いた。

「ゲルン...」

エルゼベルトがゲルンの横に座って囁いた。

「ああ、殺気だ」

ゲルンも何かの気配を馬車の中で感じていたため、御者を担当してくれているメルシュに声をかける。

「おそらく待ち伏せだ。少しでも怪しい気配がしたら馬車を止めろ」

これを聞いてトルカ、ルル、メルシュが自分の得物に手をかけ、フリーダとニレもむくりと身を起こす。

「今回モ女ミタイネ」

ニレが覚醒モードに入り、前方を見ている。

「アレハ...予備軍ナノカ?」

「ニレ、予備軍、とは?」

ゲルンの問いに「ソレハ...」と答えかけたとき、馬車が急停止した。

「剣士様、この前のやつです」

見ると馬車の手前に数人の女が立っていて、その先頭には港町でゲルンと剣を交えた錫杖使いの女が立っていた。

だが背後には、この前見なかった顔ぶれも立っている。


馬車を止め、ゲルンが降りて応戦しようとすると、フリーダが止めた。

「待ってください、剣士様。向こうの方が数が多い。私が個人戦にしてみます」

そう言ってフリーダが馬車を降りた。

「トルカ、ルル、ニレちゃんをよろしくね」

そう言った後、目の前のパーヴィエの方へ向かっていく。


西方へ続く馬車道の小街道だったが、周囲に人影はない

道に沿ってまばらに並木が植えてあったが、ほとんど申し訳程度。

道の向こうには雑木林が広がっている。

「道の真ん中に立たれているのは、困りますわ」

フリーダがにっこり笑ってパーヴィエとその背後にいる少女たちに向き合い、話しかけた。

「女魔法使い、私はそちらの剣士と再戦しにきた」

とパーヴィエが言い出したのだが、それを遮って後ろから、首までぴっちりとカフスで止めた令嬢然とした金髪碧眼の少女が現われた。

「お嬢さん、私たちはその馬車の中にいる小さなお嬢さんに用があるのですけど、取り次いでいただけますか?」

にっこり笑ってこう言うが、フリーダの方も負けていない。

「申し訳ありませんが、少し急ぎの用ですので、受け付けられませんわ」


馬車の中では単身敵方の前に身をさらしているフリーダを、全員で見つめていた。

「フリーダは何をしているんだ?」

ザックハーが小声でつぶやいた。

「もう詠唱は終ったわ。合図とともに散開して戦えば良いのよ」とエゼルベルト。

「今フリーダと話している貴族令嬢みたいなかっこうをしたやつ、あれ相当強そうだな」とルル。

だがニレが戦意をむき出しにして何か言おうとすると、

「ニレ様、剣士様はあなたに戦ってほしくないと考えています」

とメルシュが制止する。

「なんで?」

と聞くと、ゲルンが変わって答える。

「あまりおまえをやつらに見せたくない」

「ゲルン様...」

ニレが少し嬉しそうに俯いたのだが、ゲルンの思惑はたぶん違う、と傍らでトルカは考えていた。


ミーヴァと向き合っていたフリーダが、後ろに掌を見せて、詠唱完了のサインを出す。

「それは戦いの意志と見てよろしいのですね」

満面の笑みを湛えて、金髪少女が右手を上げた。

背後から、無数の風弾がフリーダに、そして馬車にと発射された。

詠唱を完了していたのはフリーダだけでなく、ミーヴァの仲間たちも同様だ。

その中の一人、オルガナがミーヴァの合図とともに風弾を撃ち込んだ。

ミーヴァの影に隠れて手元を見せずに発射されたその風弾は、フリーダ目掛けて一直線。

とらえた!

そう思った次の瞬間、フリーダの映像がぐにゃりと曲がる。

水面に映った映像につぶてを投げ込んだように、フリーダだった映像は空気の中に溶け込んでいく。

同様に馬車を狙った風弾も、確かに命中したはずなのに、映像が歪んでいく。

「あなたが以前私たちにしかけた技ですのよ」

と、フリーダの声が大空に響く。

そして同時にいつのまにか、周囲が白い霧に包まれていた。


突如変わった光景に驚くパーヴィエだったが、何者かが切り込んできた。

ガン、と強い衝撃が錫杖に響く。

誰かが剣を打ち込んできたのだが、あの剣士のものではない。

衝撃自体は軽かったが、打ち合った痕の剣の速度は剣士のものではなかった。

パーヴィエの身体が黄金に光り、打ち込んできた剣の先に錫杖を突き出した。

しかし空振り。

パーヴィエは次の攻撃に備えて錫杖を構え直す。

すると今度は、しゅるしゅるしゅる、と風を切る音がして、剣が飛んできた。

これも咄嗟に錫杖でかわしたものの、投げつけられたにしては地面に落ちた音がしない。

「なるほどね、剣士様がてこずっただけのことはあるのね」

霧の中、少女の声のした方に錫杖をのばしたが、またも空振り。

せっかく魔力により剛体化しても、敵が見えなくては話にならない。

そこでパーヴィエは錫杖を頭上に掲げ、ぶんぶんと水平に回し始めた。

突如発生した霧はこの風圧である程度押しのけられ、数歩先に湾曲刀を抱えた少女の姿を引き出した。


フリーダが幻と霧を派生させたのを合図に、トルカ以外の面々も謎の少女たちに切りかかった。

だがメルシュと戻ってきたフリーダは、ゲルンの命を受けてニレの護衛に回り、切り込んでいったのはゲルン、エルゼベルト、ルル、それにザックハー。

ゲルンはフリーダと対峙していたミーヴァの前に立ち、背後にニレ達を控えていた。

だがフリーダに庇われながらも、ニレの覚醒した赤い瞳はゲルンと、そしてその前にするミーヴァをとらえていた。


ゲルンはフリーダと入れ替わるようにしてそのミーヴァと向き合い、切り込んでいく。

だが、剣がとらえたかに見えたものの、そこにミーヴァの姿はなく、やや後ろに飛びのいている。

幻ではない、ミーヴァのすり足、その速度。

馬車の中から見ていたルルが看破したように、その令嬢風の姿とは異なり、そうとうの力量がうかがえた。

だがたぶんこいつも魔術師だ。

こうやって防御一辺倒に見えて、なにかしらの攻撃魔術を隠しているはず、という想いがゲルンをしてなかなか深く切り込ませない。

それなら、とばかりに、剣の技から魔剣の技へと方針を替え、ミーヴァに対して身構える。

その瞬間、ゲルンの足元に黒い穴が開いた。

その黒い穴は強い重力波を放ってゲルンをとらえようとする。

魔剣に身を預け、その場から飛ぶように移動し、ミーヴァめがけてつっこんでいく。

空を駆るその技、速度に、ミーヴァの黒い穴はとらえきれない。

あっという間にミーヴァの目前に移動してきたゲルンは、黒の魔剣を最上段に構え、振り下ろす。

ザクッ!

何かをとらえたような感覚だったが、それがヒトのからだではないことを感じ、反射的に飛びのいた。

見るとそこにも、空間の上に黒い穴がぽっかりと開いていた。


「私たちの仲間が、あなたと魔王の御令嬢、そして宝玉少女が並々ならぬ力量だと看破しておりました」

そう言ってミーヴァは背後に佩刀していた細身の剣を引き抜いた。

針のように細い剣。

とても打ち合ったりはできないだろう。

つまり防御用の剣ではなく攻撃用。

恐らく刀身に毒を塗り、相手の皮膚を切り裂く目的に特化したものだろう。

そして、突然開く不気味な黒い穴。

あそこに囚われてしまえば、戻る手段もなく窒息死が考えられる。

(やっかいな相手だな)

ゲルンは剣を構えつつ、ミーヴァの黒い穴がどこで発生するのか、神経を使っていた。

その時である。

ゲルンの背後から、ミーヴァの剣と同じくらい細い熱線がゲルンを越えてミーヴァに襲い掛かった。

敏捷な動きで熱線を躱すミーヴァ。

しかし糸のような熱線は次々と放たれてミーヴァを襲う。

霧の彼方から発せられているようだったが、ゲルンにはそれが、背後にいるニレが放ったものだと気が付いた。


前後左右から飛んでくる熱線。

ミーヴァが躱しきれない、と悟った瞬間、背後から飛んでくる人影があった。

熱線の発射元に向かい、その人影は一直線に切り込んでいく。

「きゃっ」

霧の中からフリーダの悲鳴が聞こえた。

思わずゲルンがふりむくと、今度はその一瞬のスキにミーヴァが毒剣で踏み込んできた。


霧の中、ゲルンの背後からゲルンが戦っている相手に熱線を放ったニレだったが、すぐさまその方向から飛んでくる人影があった。

「勝負!」

茶色のローブで身を包み、わずかに後頭部に褐色の髪が覗くだけの少女が、ニレ目掛けて切り込んできた。

メルシュがそれに気づいて槍を出して身構えるが、全身をかけた切り込みの前に、槍ごと吹き飛ばされてしまった。

身を翻して地に立ったその少女ポーシャが、右手に剣を、左手に縄をつかんで三人の前に立った。

「魔神の力を得た宝玉少女だな?」

前日の会議で、宝玉少女との戦いに闘志を持っていた娘、ポーシャ。

今その願いがかなったと思い、瞳が喜びの色で輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ