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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第1章 奴隷少女
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【6】 空中舞踏

「曲芸団か、見ていくか?」

「きょくげいだん...?」

曲芸団というものをそもそも知らないニレは、首をかしげる。

「ショーみたいなものなんだが、まぁ、見た方が早いかな」

ゲルンがそう言って、サーカス・テント入り口で大人二枚、子ども一枚チケットを買って入る。

さきほどの小料理屋でのことを受けて、

「人が多い。ニイル語は使うな。話しかける時は極力王国共通語で」

と小さな声でニレに耳打ちする。

「はい、わかりました」

と、ニレは習い覚えたばかりの共通語で答える。


ゲルン、ニレ、メルシュは、内部に設置された椅子にニレを真ん中にして座る。

ニレを真ん中にするのはもちろん攫われたりしないように、という配慮だったが、ニレは両横を守ってもらった気持ちになり嬉しかった。

やがて午後の部の開始を告げる太鼓が打ち鳴らされる。

それに続いて、スパッツをはいた赤髪の美女が演台に立ち、開始の告知を告げる。

人気があるらしく、どんどん客席が埋まっていく。

良く見えるようにと、前寄り中央に陣取ったゲルン達は、演台の上からでもよく見えた。


椅子席の後ろには立ち見客も入っていたが、その中にジャック・パレもいた。

「なんだい、俺たちの懐に飛び込んでくるとはな」

そう思い、それを知らせるべく、いったんサーカス・テントを出て、ブレンダたちが入っているテントへ向かう。

ブレンダのテントにはブレンダ、ラーベフラム、その他数人の少女が残っていて、ジャックの顔を見て少し驚いた表情を見せた。

「あら、シリア達にあなたの手伝いをさせるように向かわせたのだけど?」

「ということは、パエトールが伝えてくれたんだな。その三人連れが今、サーカス・テントにいるんだ」

ほお、とラーベフラムが声をもらすと、パエトールが戻ってきた。

「ジャック、なんでここにいるんだ?」

「あいつらがサーカス見物に入ったので、報告にな」

続いてシリア、ロース、ジャッケルの三人も戻ってきて、ジャックを確認した。

「やりますか?」

と、物騒な笑みを浮かべて。


「エレオノーラの仕事中に、それはダメ。催しが引けてから動いてちょうだい」

ブレンダの言葉を受けてシリア以下は了承し、ジャックにその三人連れを教えてもらうべくテントを出ようとしたとき、ジャックが思い出したように追加報告する。。

「そうだ、言い忘れていた。些細なことかもしれないんですが」

と言って、小料理屋で自分が聞いた子どものセリフが外国語だったことを報告した。

「残念ながら、あっしにゃあの言葉が何語かわからなかったのですが」

「発音を思い出せるかい?」とラーベフラム。

「ええと、たしか『おいしい』だったかな」

ジャックは混雑の喧騒の中で聞いた言葉を、できるだけ正確に再現しようとした。

それを聞いて、ブレンダとラーベフラムが、ぴくり、と反応する。

「ニイル語ね、それ」

「ニイル語で美味い、と言う意味かと思われます」

「ブルーノの説が案外真相に近い気がしてきたわ」

ブレンダがこう漏らすように言うと

「お嬢様、今は手がかりがこれしかございませんし」

とラーベフラムが嬉しそうにする。


ブレンダは出て行こうとしていたシリアに、

「聞いた通りよ。予定変更。その子どもを攫ってきてちょうだい。ただしサーカス・テントからは離れたところでお願いね」

ブレンダの命令を受けて、シリアが確認する。

「二人の男と戦いになったら、やっちまっていいですか?」

「その時の判断はまかせますが、なるたけ市民は巻き込まないでね。この曲芸団は私たちの収入源なんですから。悪評が立つと困るわ」

「それでは」

と言ってシリアはロース、ジャッケルにジャックを加えて出て行った。


サーカス・テントに戻ったシリア達は、舞台袖口から観客には見えないようにして、客席を見渡す。

「あれだ。真ん中の商人服の二人と、それに挟まれている子ども」

ジャックがこれもまた目立たぬように指をさす。

「ふーん、確かに女の子っぽいね、男の子に女装させているようには見えない」

とシリア。

「しかしあの頭巾みたいなフードはいったい何だ? 服にまったくあってない」

とロースが言うと、

「服装は三人とも平凡で、人ごみに隠れるのに適しているのに、あのフードだけがよくわからんな。田舎の方の流行か?」

とジャッケル。

「わからないけど、顔を隠すには好都合ね」

シリアがこう言うので見てみると、確かに子どもということはわかっても、その顔、頭髪の色などはさっぱりわからない。


ステージでは魔獣の芸が終わり、少女たちの軽業、空中舞踏が始まっていた。

空中ブランコやら飛び板から宙に舞った少女が、中空でまるで踊るかのように芸を見せて、観客の目を集めている。

中でも花形と言っていい白いタイツの少女スーディアの演技はすばらしく、空中でまさに『舞っている』かのごとく踊っている。

ゲルンは(浮遊魔術を使っているのだろうか)と思ってしまったが、その気配はほとんどなく、軽業の芸で見せているようだった。

トランポリンのような網に着地するや、素早く梯子をのぼって飛び板に移り、吊るされた縄をつかんで落ちるように舞い、飛ぶように舞っている。

しかもその芸は一つ一つが別物で、見ていて飽きない。

腰の周りにチュチュ、あるいはチュール・スカートのような広がる純白のスカートをまとい、空中で舞うとそれが翅のように広がっていく。

白いタイツ、白い手袋、ベアトップ状の肩口がしっかりと出る白い上衣、それらがまさに妖精が舞っている雰囲気を醸し出している。

魔獣の芸のときには少し怯えていたニレだったが、この空中舞踏のショーには目が釘付けになり、ひきつけられていた。

そんなニレの喜びの表情にも気が付いて、少し表情が崩れるゲルンだったが、しばらくして自分たちが監視されていることに気づいた。


ひとしきり芸を楽しんだあと、観客は三々五々テントを後にする。

ゲルン達も引き上げていくが、

「監視されているようだ。すぐに戻る」

と、二人に耳打ちする。

サーカス・テントを出て市門出入り口に向かって歩き出すと、監視者の気配がメルシュにもはっきりわかってきた。


一方、三人を尾行するジャック以下の四人。

シリアがジャックに尋ねる。

「ところでジャック、あなた、戦えるの?」

「へ? 無茶を言っちゃ困りますぜ、あっしはシーフ。盗賊ですから、盗み専門でさ」

シリアが、ふーん、と言って少し考えたあと、

「それじゃ子どもを攫うのは専門の一つ、でいいのよね」

「あっしに人さらいをやれってんですかい?」

ジャックが少し声音を上げたので、

「バカ! 大きな声を出さないで」

と言ってシリアが拳を軽くジャックの頭に落とす。

姫の直属、つまりジャックにとっては上司にあたるのだが、さすがに十代の少女に頭を殴られたので、少しばかりカチンときた。

そんなことはお構いなく、シリアは前の三人を凝視している。


ゲルン達三人が北側の市門に到達する。

「どうやら市中ではしかけるつもりがないみたいだな」

ゲルンはニレを抱きかかえながら、駐馬場へ向かう。

「ご主人様...」

「ただの尾行か、それとも襲撃の意図があるのか。襲撃なら俺が戦うから、おまえはニレを連れて逃げろ」

ゲルンはメルシュにそう言って、ニレを驢馬に乗せ、周囲の気配を探りながら、歩いていく。


「よし、市門を出た。これでいつでもしかけられますな」

ロースがそう言うと、

「北から出たってことは、しばらく行くと池があるわね。私がそこでしかけるから、ジャックはあの子を頼むわね。ロースは木馬の準備を」

「ようがす、へへへ」

ロースはそう言って目を輝かす。

シリアが先行して姿を消し、三人の男が驢馬の一行を尾行していく。


「うん?」

驢馬の手綱を握っていたゲルンが、霧が出て来たのに気づく。

「夏の夕方に、霧?」

道を迷うほどではなかったものの、周囲が白いカーテンに閉ざされていくようだった。

すると前方に人影が現われる。

白い霧の中から、ほの暗い灰色の影が浮かび上がる。

やがてその影は、一人の少女の姿となって現れた。

黒髪のポニーテール、白い肌。上衣がタンクトップだったこともあり、あの軽業師の少女かと思えたが、目つきが全然違う。

少し釣り目の中に、鋭い光が見える。

「おにいさんたち、ちょっといいかなぁ」


この少女が追剝かなにかかはわからなかったが、この状況に危機感を感じたゲルンは相手にせず通り過ぎようとした。

それを見て、シリアは

「つれないねぇ、妖かしの宝玉について教えてほしいだけなんだけど」

と言って、驢馬の前に回り込んでくる。

これを聞いて、ゲルンは予想していた敵だと判断した。

強引に突破しようとすると、メルシュが後ろから、

「剣士様、あと何人かいるようです」

と言って、棒包みをほどき、中から剣を取り出し、ゲルンにわたす。


遠くから蹄のような音が聞こえてきた。

背後から何かが猛スピードで迫ってくる。

馬だ!

巨大な馬が数頭、疾走してくる。

先頭の馬には、一人の男が立ったまま乗っていて、槍を構えていた。

ゲルンはそちらの方に反応して、馬群と向かい合う。

「ハァッ!」

巨大な馬の上に立つ男が、ゲルン目掛けて槍を繰り出してくる。

ゲルンはそれをかわすと、馬の群れは一気に駆け抜けていき、すぐに頭を返して向かってくる。

「あれは馬じゃない」

ゲルンがそう叫ぶと、メルシュもまた自分の剣を出して身構える。


「すごいわね、ロースの木馬をすれ違いざま瞬時に見破るなんて」

シリアがこう言って、霧の中に消える。

迫りくる木馬、そして右の方からは、人魂のような炎がいくつか舞っているのが見えた。

炎それ自体は大きなものではなく、手首程度の大きさだったが、数が多い。

それらがメルシュめがけてつっこんでくる。

メルシュは剣でそれを払おうとするが、いくつかが腕をかすめ、服から煙が出る。

「幻火ではないようだな」


一方ゲルンは突っ込んでくる木馬と向き合い、衝突直前に跳躍する。

カッ!

鋭い音を立てて、宙を舞ったゲルンの剣がロースの槍とぶつかる。

ゲルンは槍の攻撃範囲の外に飛び出し、次の対戦に備える。

その時である。

驢馬の上のニレが消えた。

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