表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第6章 器の少女達
59/115

【5】 少女たちの作戦会議

陽が沈み、魔術都市レントゥックにもまた夜の闇が迫ってくる。

だが魔術都市にある幾多の工房では、魔術の秘儀に携わる者、錬金術師、あるいは詩人などが集い、夜宴を催している。

権力者たちが居を構える中心市街に沿って、北側に「魔術師通り」と呼ばれる一角があり、そこにはその名の通りその手の者たちが多く集まり住んでいた。

そのうちの一画、建物自体は極めて古いものの、広さだけはある大きな屋敷があった。

その屋敷の一室に広間があり、そこに十数人が集まっている。

体格や衣装に統一感はなく、昼間見ればそれぞれ多彩ないでたちなのだが、深夜ゆえ、ただ眼光の鋭い面々としかわからない。


部屋の中央には広い卓があり、その上に数本の燭台が灯され、水晶板が置かれていた。

大きな照明は点けようと思えば点けられるのだが、どういうわけか壁灯には火を入れず、卓上の燭台に照明をまかせている。

そのせいかひどく暗い。

部屋は広く、十人以上の人が静かに卓上上座の人物の声を聞いている。


「思ったよりも早く、『山』からの追撃がかかった」

卓上の人物は薄いヴェールで口元を隠した妙齢の女性。

闇より深い漆黒の髪を薄絹で巻き付けていたので、黒い瞳の鋭い眼光が際立つ結果になっている。

暗がりの中、衣装はぼんやりとしていたが、肩をむき出しにした踊り子の装束であることがうかがえた。

「アニトラ、前線での報告を頼む」

その黒髪黒瞳の女が、卓の反対側に位置していた別の女、アニトラに説明を委ねた。


コートブルクで宝玉を身に秘めた二人の少女を発見したこと。

二人は某国の少女王と、まだ幼い奴隷窟出身の童女であったこと。

警備が薄そうなその童女を仲間とともに攫ったのだが、すぐに追手がかかり逃走。

その途上で、その童女が魔神級の魔人を取り込んで覚醒し、反撃してきたこと。

それによりその童女の再度の誘拐が困難になり、もう一人の某国の王女へ目標を変えたこと。

レモナのお陰でその王女、ブレンダ姫の誘拐に成功したこと。

だがどういうわけか、覚醒した童女の仲間の方が追撃をかけてきたこと。

キャトルでその追手に追いつかれたこと。


「追手との戦闘については、パーヴィエにおまかせするわ」

アニトラがそう言ってパーヴィエに発言をまかせて、着座する。

その後、キャトルの町で戦闘をパーヴィエが語り、状況の説明が終了する。


「ではその追手がここに近づいているんだね?」

「なぜ誘拐した方とは違う側から追っ手がかかるんだ?」

暗がりの中から次々と声があがる。


「思ったよりも早く、『山の魔王の宮殿』と決戦になるかも知れない」

司会役のような立場にあった、最初の黒髪黒瞳の女が言った。

「そうだな、どのみち決戦になることを思えば、その前哨戦と考えてもいい」

その声に応えて、パーヴィエが言う。

「確かにこちらにはレレカ様がいる。しかし、追手にも覚醒した宝玉少女がいることを忘れてはいけない」

と釘をさす。


また別の一人がパーヴィエに尋ねた。

「確認したいのだけど、攫ってきた方の宝玉少女、ブレンダでしたっけ? そいつはまだ使い物にならないのよね?」

「『視た』のはノクトゥルナだけなので、お願いできるかしら」

パーヴィエに促されて、その横に座っていた小柄な少女が揺れるように立ち上がった。

「ブレンダと呼ばれている、私たちが攫ってきた方も、宝玉の封印は既に解かれている」

相変わらず小さな、弱々しい声で、ポツリポツリと言葉をつなげていく。

「でもまだ魔神級を取り込んでいない。追ってきた方は魔神級を取り込んでいる」

これを聞いて、場が少しざわつく。

「ちょっと待って。追手にもレレケ様と同様の力を持った者が来てるってこと?」

ノクトゥルナは言葉を出さず、コクリと頷く。


ざわめきがさらに広がっていく中、タイスが皆を静める。

「静かに! ノクトゥルナ、あなたが視た追手のメンバーと、その宝玉少女について、皆に伝えて頂戴」

再び立ち上がったノクトゥルナが、両手を卓上に置いてある水晶板に向ける。

するとそこに、少女が見たキャトルでの風景が映しだされた。

「これが魔王の娘、そしてこっちが黒の剣士」

という風に、ゲルン、エルゼベルト、それにニレの姿を投影していく。

「この二人、タイプはまったく違うけど、強い」

そしてニレをもう一度映し出し、

「こちらはまだ魔神級の力を持ったばかりに感じたけど、たぶん私たちの力では勝てない。勝てるとしたら、レレカ様くらい」

次に、トルカ達を映し出し、

「少女戦士二人、女魔法使い、それに能力はまだわからないけど、男二人。この五人も剣士と魔王の娘ほどではないけど、強い」

「ええ、強かったわ。しかしその五人は私たちなら勝てない相手じゃない」

トルカ、エルゼベルトと戦ったオルガナが、ノクトゥルナの発言を受けて追加する。


「ポーラはどう見たの? あんたもこいつらと渡り合ったんでしょ?」

と、タイスの横にいた女に尋ねられたポーラ・ヴィクが、こちらは立ち上がることもなく語る。

「その男二人のうちの一人は、魔の森にすむ白い吸血鬼使い」

と他人事のような口調で語る。

「うげっ、あれを使役してんのか」

アニトラの隣に座っていた赤毛の女が顔をしかめながらもらした。

「マレヴィー、知ってるの?」

アニトラに尋ねられた、そのマレヴィーという赤毛の女が語る。

「私の故郷にもあの森に住む白い吸血鬼はいたからね。吸血鬼っていうより、でかい蛭に手足が生えたような感じだったけど、とにかく気色悪い」

これを聞いてタイスがいじわるっぽく口角を歪め、

「それじゃそいつの対処はマレヴィーにお願いするわ」

と言い出す。

マレヴィーは思わず立ち上がって激しく抗議。

「冗談じゃない。あんなヤツの相手はごめんこうむるよ。あの手のヤツならミーヴァかオルガナが向いてるんじゃないか」

と言って、タイスの横に座っていた女を指さした。

「わたし?」

綺麗な金髪をストレートに肩に流していた少女ミーヴァが少しきょとんとしたような表情で首をかしげる。

「ミーヴァには決戦になったときの指揮を頼むつもりだったんだがな」

タイスが少し呆れた様子で言うが、同時に

「実際にその吸血鬼ってのを見たことがあるマレヴィーが言うのなら、ミーヴァ、そいつが出てきたときはお願いしてもいいかな」

とも言って、ミーヴァを見つめる。

「いいわよ」

とミーヴァはにっこり笑って、天使のような笑みで答えている。

「みんなはどうか知らないけど、私は宝玉を受け継げなかったことを少し悔しく思ってますから、こういうことで貢献できるのなら、ね」

この告白で、ざわついていた何人かが黙ってしまった。


これを聞いてレモナが笑いだした。

「ミーヴァは変わってるな。あたしは選ばれなくてホッとしてたんだがな」

「私の側からだと、変わってるのはあなたの方よ」

「ふふふ、まあそういうことでいいよ。私はレレカ様よりミーヴァ様の方が選ばれると思ってたしな」

「私は選ばれなかったからミーヴァ『様』じゃないわよ」

冷静にレモナの言葉を受け流すミーヴァであった。


「それで、タイス、私たちの目的なんだけど」

茶色のローブに身を包み、目元以外を隠して背後に褐色の髪を垂らしていた女が尋ねた。

「当面はその追手を倒すことだと思うけど」

ここで言葉を切って、鋭い視線でタイスを睨みつけるように見つめる。

「その宝玉少女も倒してしまってもいいのかい?」

この言葉に一瞬返事が詰まってしまったタイスだったが、ゆっくりと答を紡ぎ出す。

「当面の目標としては、そう。そして宝玉少女については、倒してしまっても構わないわよ」

この解答を聞いて、目が喜んでいる装束娘ポーシャ。

「私たちには既にレレカ様がいるし、うまくいけばもう一人、そのブレンダって娘も私たちの手駒になる。二人もいれば十分さ」

「魔界の地を統べることが目的だからね。宝玉少女のコレクションが私たちの目的じゃないし」

タイス、アニトラが次々と答を出したので、ポーシャは満足したかのように着座した。


それからはタイス、ミーヴァを首班として、追手の迎撃会議がなされた。

翌朝の迎撃を確認して、解散する。

同じ屋敷に起居する二人、タイスとノクトゥルナも就寝のため戻っていく。

「ノクトゥルナ、ポーシャなら勝てると思うかい?」

ベッドに入った小柄な少女に、隣のベッドからタイスが声をかける。

「わからない。私もあの少女の能力は、チラリと見ただけだし」

「そう」

しばらく続く長い沈黙。

ノクトゥルナがもう眠りについてしまった、と思い始めた頃、タイスの耳に声が届いた。

「強さ、力はわからないけど、覚醒して間がないということはわかった。勝機があるとしたら、そこ」

寝言のように聞こえたあと、タイスの耳にノクトゥルナの寝息の音が聞こえてきた。

(できればレレカ様を出すことなく戦を終わらせたいものだな)

そんなことを考えつつ、タイスも眠りの中に入っていった。



翌朝、フレーボムの港。

コートブルクに帰るため、港に集結したブルーノ達は、そこに現れたゲレスの仲間、眷属たちに驚かされた。

魔獣、魔人、獣人、妖精、と言った異形の者たちが集っていたからだ。

ベルトルドの船員たちには有尾人が多い。

だがこの魔物達を見ていると、有尾人たちがごく普通の人間に見えてしまう。

いよいよ乗り込む直前に、フリティベルンが四人の「白き者」を連れてやってきた。


「ブルーノ殿、こちらは私の手駒。親衛隊みたいなものだと思ってください」

と言って、ヴィルトシュネー以下を紹介する。

そしてセルペンティーナの方を向き。

「ゲレス兄のこと、よろしく頼む」

ゲレスの胸から肩にかけて這っていた金色の蛇が嬉しそうにグルグル渦巻きながら、

「はい、全力を尽くします」

と、鈴を転がすような声音で魔王の後継者に応えていた。


船に乗り込んだブルーノやフーゴは、その動力を見てまた驚いた。

船首で待機していた巨大な海竜が、ベルトルドに向かって、ぬっとその首をもたげてきたからだ。

甲板上にいたベルトルドがそのウミガメのような頭をやさしく撫でて、

「よろしく頼むぞ」

などと言っている。


海竜船が白波をけたてて、出航。

船内は思ったより揺れが少なく、快適な船旅だったと言える。

「驚いたな、海竜にひかせた船がこんなに快適だったとは」

フーゴがもらすと、セルペンティーナがゲレス配下の魔人の肩に乗ってきて近づき、言った。

「ベルトルドほどの腕の船乗りは、人間界でもそんなにはいませんわよ」

と、誇らしげに言っている。

「ま、私は飛べるからあんまり関係ないけどね」

と、こちらはテトロで、セルペンティーナに対抗するように胸をそらしていた。


船はコートブルクに着くと、エギュピテスのキャラバン隊だけを下ろして、一路西に向かって行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ