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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【11】 謝罪

四日後。

フレーボムの港に上陸したキャラバン隊の一行はそのまま北上し、『山の魔王の宮殿』領・市門前に到着する。

そこで門衛の蜥蜴人の指示により武装解除され、ブレンダ、ブルーノ、フーゴだけが入領を許可された。

最初、ブレンダとブルーノにしか許可が下りなかったが、執拗に抗議した結果、一人だけ護衛として入ることが認められたのだ。

いかにも蜥蜴が軍服を着ているような門衛に連れられて、宮殿へと向かう三人。

一方残りのメンバーは市門前で待機させられることになる。


(この前の門衛と違うな)

馬車に乗り込んだブルーノは、目の前に座った大きな蜥蜴人の兵士を見ながら思った。

馬車にはブレンダ、ブルーノ、フーゴ、そしてこの蜥蜴人が乗り込んでいる。

蜥蜴男は何も言わず、ただじっと石像のように固まって動かない。

だが先端が二股に分かれた赤い舌をチョロチョロ出しながら、様子をうかがっている風でもあった。

痺れを切らしたのか、フーゴが蜥蜴兵士に尋ねる。

「我々の安全は保障してくれるんだな?」

蜥蜴男はチラッとブルーノの方を向き、また視線をフーゴに戻して、ようやく口を開いた。

「そこの鍛冶師に聞いていないのか?」

深い、重い声だった。

「フリティベルン様の言葉は、魔王様の言葉だと思ってもらっていい」

こう言って、再び沈黙を続ける。

よく見ると、この蜥蜴男は瞳の上に瞬膜がかぶっていて、それゆえ常に目が開いているように見えるが、その瞬膜が瞼代わりになっている。

恐らく沈黙を続けているときは、人間だと目を閉じている状態だったのだろう。

蜥蜴型の魔人には瞼を持つ者も多いが、この蜥蜴男はそうではないらしい。


そんな観察を続けていると、やがて馬車が宮殿前に到達する。

馬車を降りると、この門衛の兵士と同じく、蜥蜴型の魔人が取り囲んでいる。

同乗してきた蜥蜴男が、多くの蜥蜴人に声を上げる。

「魔王様の客人をお連れした。開門! 開門!」


三人の周りを蜥蜴人が随行し、宮殿の中へと招き入れる。

宮殿と言われているが、これ自体が一つの領地を形成しており、物理的な領域だけでなく、細部においては魔空間ともつながっている。

それゆえ外からの来訪者は、ほとんどがこの出入り口付近しか立ち入りが許されないが、それだけでも壮大な広さがある。

その一つ、第一の謁見の間に招き入れられた三人。

玉座には既に魔王が着座して待っていたが、傍らの従者が持つ大きな扇によって、顔は隠されている。

入場者達からは見えない袖口でこの風景を見ていたゲルンは、

(なるほど、初対面の人間と対峙する時はこうやってなされるのか)

と思っていた。

いつもならそのまま対面できていた魔王なので、自分を客分、ほとんど身内のように見ていてくれたことをあらためて感じた。

加えて、今回は魔人兵士、魔物達が主体で、有尾人や人類、半妖半人の人間に似た者たちの数は少なかった。


ゲルンの傍らで待機させられていたニレは、ブレンダたち三人を見ていた。

ギデオの町で攫われて、捕らえられていた時、対面はしているはずなのだが、暗かったこと、囚われて動転していたこと、などから、さすがに覚えてはいなかった。

あとの二人はまったくわからない。

厳密にいえば、フーゴとはギデオで捕縛されていた時会っているはずだったのだが。


視線を魔王の玉座に移すと、魔王の傍らには大きな扇で顔を隠していた二人の巨大な熊のような従者だけが目についた。

だが玉座の周囲には暗幕もかけられていて、その背後には魔法医師グリムや、フリティベルンなども控えているのが見える。


ブレンダたちが玉座の前に立たされると、すぐさま別の従者が椅子を運んできて、着座が許される。

三人が腰をかけると、魔王の傍らからフリティベルンが姿を現し、玉座を下って三人の前に立つ。

「バドゥラの息子よ、どうやら正しく伝えてくれたようだな」

そう言って、ブルーノに話しかける。

「はい。我々の姫君をお連れしました」

フリティベルンはこれを聞いて、ブレンダの方に体を向ける。

「私はフリティベルン。魔王様の実務を預かっております」

これを聞いて、ブレンダが立ち上がる。

「エギュピタスのブレンダです」

自己紹介を聞いた後、フリティベルンがフーゴに視線を移すと、ブルーノが

「我々の護衛としてついてきてもらいました。お約束通り、武器は身に着けておりません」

こう言うと、フーゴもまたブレンダにならって立ち上がり、

「フーゴと申します。無理を言って同席させていただき、感謝に堪えません。今ブルーノが言ったように、武器は携帯しておりません」

と言った。


フリティベルンが暗幕に合図を送ると、魔法医師グリム以下、魔術医師団が4人、降りて来る。

「ブレンダ姫、確認しておくぞ」

ここでようやく魔王が口を開いた。

袖口で見ていたゲルンとニレは、いつもの魔王の声ではなく、変化させているのに気づいた。


魔王は語る。


ここでお前たちに宝玉の解除コードを分け与えることを承認した。

だが、その結果がお前たちの望むことであるかどうかまでは、我々は預かり知らぬ。

それゆえ、後々の誤解を無くしておくために、細部を確認しておく。

まず、宝玉の解除コードは個別のものなので、ブレンダ姫の体内にあるものと照合するか、それはやってみないとわからん。

そして宝玉を抜き出すことができたとしても、抜き出した先の入れ物を用意しておかなくてはならぬ。

おまえ達にその入れ物が用意できるのか?

そのまま取り出せば、どうなるかわからぬ。

最悪、宝玉は失活してしまうが、お前たちの目的の比重はどちらにあるのだ?

ブレンダの身から宝玉を取り出すことか?

それともその宝玉を使って、何かしようとするのか?


いくつかの問いに、ブレンダは答えられなかった。

魔王が解除コードを出してくれたら、あっさりと宝玉が手元に出てくる、と思っていたからだ。

だがこの問いに、ブルーノが答える。

「我々は、姫の身が安全であることが第一です。その上で、宝玉の力を求めています」

魔王が問う。

「ならば取り出した先の入れ物はどうした? 宝玉は女の身にしか移せぬぞ。ブレンダ以外の二人は男であろう?」

この問いかけを聞いて、ブレンダは交渉が簡単ではないことがわかってきた。

交渉の難点は、魔王側が協力してくれるかどうか、だと思っていたのだ。

しかし違う。

宝玉そのものに問題があったのだ。

だが次のブルーノの言葉は、ブレンダをさらに驚かせた。


「魔王様、解除コードを使うことによるブレンダ姫の身の安全は保障していだけますね?」

「約束は守る」

「では、取り出すのではなく、姫君の中にあるまま、宝玉の力を使えないでしょうか」


フーゴはぎょっとして、この若き鍛冶師を見た。

ブレンダもこの展開は予想していなかったため、何が起ころうとしているのか、とブルーノを見る。


魔王はブルーノの言葉を聞いて、少し笑い声をこぼしてしまった。

「おまえの言ったとおりだな」

とフリティベルンに話しかける。

「私が発言してもよろしいですか?」

フリティベルンの方も、少し笑みを浮かべている。

「かまわんぞ」と、魔王。


「バドゥラの息子よ、そう言うのではないか、と実は内心考えていた」

とフリティベルンが話し始める。


体の中に眠っている宝玉を活性化すると、それを宿している人間には負荷がかかる。そしてその人間は普通は死んでしまう。

しかし宝玉に適合する魔力を秘めた人間ならば、その宝玉を維持するのと同じようにその力を活性化できる。

おまえがどこでその知識を得たのかは知らぬ。

だがバドゥラの息子であるならば、容易に想像はつくがな。

ともかく、今に至るまで十年の長きにわたり、その身に宝玉を持ち続けていた、というのは、その魔力素質があった、ということなのだろう。

我々の手元に来た宝玉少女もそうだった。


ここまで語り、フリティベルンはゲルンとニレをこの場に呼び出した。

衛士に囲まれながら、ゲルンは堂々と、ニレはこわごわと、この場に現れた。


ゲルンは黒の正装をしていたが、フーゴにはその顔がすぐわかった。

あのギデオの町で剣を交えた戦士だ、と。

だがニレの方は、少し識別がつきかねた。

ギデオの町で力づくで攫ってから、数か月が経っている。

こどもだったので成長している、ということを考えても、大きな変わりようで、しばらくはあのときの子どもだ、とはわからなかった。

骨と皮だけの痩せすぎのちっちゃな子供。

しかし今は、確かにまだ小さい子どもではあったが、少し肉がつき、肌もきれいになっていた。

さらに綺麗な衣装を着せられていたので、あの時の奴隷身分だった、とはすぐにわからなかったのも無理はない。

「あの時の剣士、それにあの時の子どもか?」

フーゴはつい声を漏らしてしまった。


「この娘は体内に二つも宝玉を持っていた。そのうちの一つは我々が使い失活したが、もう一つは今なおこの娘の中にある」

フリティベルンがこう語り、

「ブレンダ姫も、この程度の健康を維持したまま『ある程度』の魔力や奇跡は行うことがでるようになろう」

ここでブルーノが少し違和感を感じたセリフについて、尋ねる。

「ある程度、とは?」

フリティベルンはブルーノに視線を戻し、説明する。

「ある程度と言ったのがひっかかるか? 宝玉の力は、個別に違う。それは発現させてからでないと、なんとも言えないのだ」

フリティベルンは何かを隠している。

こう直感したのはゲルンだけだったのか、それともブレンダ側にもいたのか。

ともかく、ブルーノは納得して、ブレンダに説明した。

「姫、お聞きの通りです。解除コードを使って、姫ご自身が宝玉の力を操れるようになります。どうしますか?」


ブレンダはブルーノに問われて少し考えた後、

「受けましょう」

と言った。


そしてすぐさま、と思って立ち上がりかけた時、フリティベルンが三人を制した。

「お待ちなさい。その前に、あなたがたにしていただかなくてはいけないことがある」

そう言って、三人を座らせた。

「まず我々はこれを善意でするわけではない、ということを肝に銘じてほしい」

こう切り出した後、フリティベルンは三人の顔をそれぞれ見て、続ける。

「最初に、この結果がどうなっても、我々を逆恨みしないこと」

「次に、今回の一件を持って、我々に戦をしかけないこと」

こう言った後、今度はフーゴを見つめて

「第三に、あなた方がギデオの町で私たちの身内、仲間を襲撃した。そのことを謝罪してほしい」

フリティベルンはそう言って、ゲルンとニレの方にさっと手を出して、謝罪してほしい相手を示した。


フーゴの顔が少し歪んだ。

「それとこれとは話が別だろ。我々だってそこの男に何人も切られたんだ」

それを聞いてフリティベルンがフーゴの目を見て言う。

「では聞くが、あなた方が先に仕掛けたのではないのか? あの少女を攫ったのではないのか?」

フーゴはぐっと言葉に詰まってしまう。

「ならば、彼、ゲルンのとった行動は正当防衛だ」

フリティベルンはこう断言する。


「何も謝罪の金品を求めているわけではない。あの二人に、そして我々の身内に、戦いを仕掛けたことを詫びてほしい。それだけだ」

フリティベルンの言葉に言いかえせなくなったフーゴが黙ってしまうと、ブレンダが立ち上がった。

「わかりました。書面での謝罪は追っていたしますが」

こう言って、ゲルンの元に近づいてきた。

「剣士殿、そして名も知らぬ少女。たいへん失礼な、かつひどいことをしてしまいました。代表として、ここに謝罪します」

頭を深々と下げたその姿勢を見て、ゲルンだけでなく、フーゴやブルーノも驚いた。


「よし、これでいいな。ゲルンもこれで手打ちにしてくれないか」

フリティベルンの言葉を受けて、ゲルンが了承した。

「わかった。あなたの謝罪を受け入れよう。これからは殺し合いにならないことを望む」

こう言って、両者のしこりは少なくとも表面上は消えた。


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