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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【10】 バドゥラの息子

フリティベルンの使者によって、ゲルン達一行は急遽『山の魔王の宮殿』に呼び戻された。

調査のはずが戦闘になってしまい、戦死者こそ出なかったものの、トルカが消耗してしまった。

敵の意図について、甘く考えていた。

帰投途中の馬車の中で、ゲルンは反省しきり。

その沈んだ様子はニレやフリーダ、そしてトルカ本人にも感染していき、重苦しい空気になる。

(あの曲芸団や誘拐組織をなんとかしない限り、これからは常に戦闘になることを想定して動くべきだ)

そんなことを考えていたゲルンは、珍しく周囲が見えてなかった。


「剣士様、とりあえずはこちらに被害が出なかったことを吉としましょう」

ヴィルトシュネーに声をかけられ、ハッとして顔を上げるゲルン。

そこには心配そうなニレの顔、申し訳なさでいっぱいのトルカの顔が目に飛び込んできて、ようやくこの場の空気を悪くしてしまっていたことに気づいた。

「そうだな、トルカ、お前が無事で良かったよ」

声をかけられたトルカは、戻る途中でのゲルンにかけられた言葉に流した涙が、また戻ってきた。

「私が甘く考えすぎていた。おまえが気にすることはない」

そしてエルマリダやフリーダにも謝罪して、馬車を降りた。


宮殿に呼び出されたのはゲルンだけではなく、ニレも呼び出されていた。

ニレは不安で剣士の腰にしがみついている。

フレーボムの町でエルマリダが見立ててくれた衣装の数々。

その中から動きやすいものを選んで身に着けて、の帰投であった。

だが今はそんなショッピングの楽しさも吹き飛んでしまい、戦いの中の恐怖、そして今魔王に呼び出された不安。

そんなもので胸がしめつけらていた。

執務室から出て来たフリティベルンが、

「やあ、お楽しみのところ、すまないね」

と声をかけてくれる。

「へえ、ずいぶん可愛い服を選んでもらったんだね」

と声をかけてくれたので、緊張も少し和らいでいった。


そしてフリティベルンは急ぎ二人を魔王の玉座の間の一つへと連れていく。

その玉座の間には魔王と魔法医師グリム、そしてフリティベルンの妹にして魔の姫君エルゼベルトも呼ばれていた。


魔王はゲルンに急の呼び出しに応えてくれたことに感謝を述べたあと、言った。

「ゲルンよ、お前の魔剣を見せてくれ」

まさかそんな用向きで呼ばれたわけではないだろう、と思いつつも、ゲルンは自身の黒い魔剣を差し出す。

フリティベルンがそれを受け取り、魔王へと黒の魔剣を渡す。

魔王はそれを抜いて上にかざした。

魔王の人智を越えた黒い魔力が剣に注ぎ込まれ、真紅の光を放つ。

しばらくそれを眺めたのち、

「見ればみるほど良い剣だ」

とつぶやいた。


剣を鞘に納めてフリティベルンに渡し、ゲルンの元に返すと

「この剣を打った者を覚えておるか」

と問うた。

「ええ、もちろん。魔王さまのおはからいで、一世一代の魔剣鍛冶師殿を南方から招いていただきました」

そう言って少し思い出そうと考えたのち、

「名前は、確か...バルドウィン...いや、バドゥラ殿でしたか」

と答えた。

「バドゥラはあのときもう既に老いていた。自身、人生の最晩年に来ている、とも言っておった」

「さようでございます。あれほどの魔剣打ちが、一代で絶えてしまうのは誠に惜しい、と亡き父も行っておりました」

魔王の言葉にゲルンもその時のことを思い出して、こう告げた。


しばらく考えるような間があいて、魔王が言う。

「そのバドゥラの息子が、つい先ほどここに来た。エギュピタスの使者として」

「なんですって?」

ゲルンは少なからず衝撃を受けた。

バドゥラに後継者がいると聞いてなかった上に、しかもそれが敵方、あの曲芸団にいたという。

「フリティベルン!」

魔王は自身の後継者の名を呼んで、いましがた彼が対面した人物、そしてその人物が持ってきた話をさせた。


「というわけだ。そこでお前も同席してほしい」

フリティベルンの報告のあと、魔王直々の言葉が続いた。

「私も、ですか?」

「そうだ。お前も知っていると思うが、宝玉を埋め込んだ先から抜き出すのには、個別の解除コードが必要だ」

「はい」

「ところがここには二つしかなく、しかもそのうちの一つは既に使用され、宝玉ともども失活した」

魔王は、その解除コードについて、思うところを述べていく。


バドゥラの息子ブルーノも恐らくそれを知っている。

にも拘わらず、儂にその解除コードを分けてほしい、と言ってきた。

残る一つ、それはお前が見つけて来た宝玉持ち、ニレの物とは照合しなかったのだが、恐らくブルーノはそれを求めてきた。

ここまで言って、魔王が言葉を切った。

「なぜだと思う?」


「その残されたもう一つが、エギュピタスの姫に適合することを知っていた、ということですか?」

そう答えたゲルンに、魔王はわからん、といったようなかぶりを振ってこたえた。

「だが問題は、なぜバドゥラの倅がそれを知っていたのか、と言うことだ」

魔王がチラリとフリティベルンの方を見たので、後継者が話し始める。

「私は以前、バドゥラから後継者を育てている、と聞いたことがあった。会うのは今日が初めてだったが」

「するとそのブルーノというのがバドゥラの後継者と言うのは間違いないのだな?」とゲルン。

「ああそうだ。そしてその時、老いたバドゥラはこうも言っていた。『儂の全てを息子に伝える』とも」

「それで?」

先を促してフリティベルンに続きを求める。

「バドゥラは比類なき魔剣製作者としてその筋では良く知られていたが、同じように、彫金、魔刻、呪解の技術でもとびぬけて優れていた」

これを聞いて、ゲルンがハッとして、フリティベルンを、そして魔王を見る。

魔王がニヤリと笑って言った。

「そうだ。あのブルーノとか言う小僧は、恐らく解除コードを書き換える術を知っているのだろう」

「きみとニレちゃんに立ち会ってもらうのは、その時ニレちゃんの宝玉でも試してみたい、と思っているからなんだ」

魔王の言葉を継いで、フリティベルンがこう語った。


これを聞いて、ニレがさらにじっとゲルンの腰にしがみついた。

「案ずるな。無理だったらさせない」

ゲルンはこう言って、ニレの肩を撫でた。



「それでお主は勝手に姫様を生贄にする約束を取り付けてきたのか!?」

コートブルクの旅宿に到着して、魔王の後継者と対談したことを伝えたブルーノに、エレオノーラが柳眉を逆立てて激怒した。

他の曲芸団員や、フーゴの部下たちも、このブルーノの報告を少なからず快く思っていない。

「ブルーノよ、少し独断専行がすぎたようじゃの」

ラーベフラムもいただけない、という表情で、ブルーノを見ている。

「生贄だなんて。僕はなるべく穏便に宝玉の力を手に入れようとしただけです」

弁解方々発言するブルーノ。

「いいですか、魔王の部下たちは、とても強い。我々の間にもう既にかなりの犠牲者が出ていることを忘れてはいけない」

「我々はニイルの河を出たときから、姫様と国のためにこの身を捧げることは覚悟していた」

エレオノールがこう言うと、皆が賛同の声を上げている。

「そうです。皆さんの国に殉じる気持ちは美しいし、尊敬しています。しかし大切なことを忘れてはいけません」

こう言ってブルーノは言葉を切った。

「僕たちの旅の目的は宝玉の力を得て国を再興することだったはずです。魔王の一族との戦争が目的ではないはずです」

「それはそうだが...」

フーゴがこう言うと、巨漢ギュルケスが

「それは敵前逃亡と同じだ」

と言って、荒々しくブルーノに吠えたてる。


「静まりなさい」

議論百出の中、ブレンダが声を出した。

「私は魔王に逢ってみようと思っています」この一声で一瞬場が静まるが、すぐに意見が出てくる。

「姫様、それは危険です」

「私たちの犠牲は覚悟の上、気にしないでください」

そしてついに戦士の中から声が上がった。

「そもそもこいつは一族じゃない、よそ者だ」

だがこの声を聞いて、ブレンダがキッとそちらを睨みつける。

「今言ったのは誰ですか?」

再び場が静まった。

ブレンダが、声のした方にずんずんと進んでいく。

そしてその野次をとばした男の目を見つめながら、言った。

「おまえは今までブルーノが、どれだけ私たちのために武器を作り、それによって難事を切り開いてきたのか、忘れたのですか?」

発言した戦士の男がブレンダの剣幕に怯んでしまった。

「あの不気味な森の魔物との戦いでも、ブルーノの剣がなければ私は生きて帰ってこれませんでした」

それにフーゴが付け足す。

「言いすぎたな。俺たちはエギュピタスの者だけじゃない。ジャック・パレやパエトールのように、傭兵として力を貸してくれている者もいる」

野次をとばした男が、詫びた。

「姫君、フーゴの兄貴、俺の失言だ。ブルーノ、陳謝する。すまなかった。許してほしい」


険悪な雰囲気になりかけたが、場が落ち着きを取り戻し、ブレンダが魔王と対面することでまとまった。

正式の対面そのものはブレンダが一人で臨むことになるが、そこまでの道中は、今度はフーゴ以下の戦士団が主力になることが決まった。


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