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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第1章 奴隷少女
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【5】 接触

ギデオの町・市門に着いたゲルン達は、ニレを乗せて来た驢馬を市門の駐馬場に預け、市内に入った。

昼日中の外出なので、ゲルンやメルシュも商人風の格好で祭りに沸く市中に入る。

ニレを買ってから一か月の時が流れているのに、市内ではまだ夏祭りが続いている。

正確には一つのイベントが続いているのではなく、教会のバザーや聖堂の祝祭日、商工会議所のイベントなどが連続的に続いているのだが。

しかし現象面で見れば、町ではずっと夏祭りが続いている印象になる。

この日は中央聖堂の聖人祭、ということになっているらしい。


目指す服飾店は、その中央聖堂から少し離れた通りで、その一帯は祭であっても、かなり落ち着いた雰囲気。

ニレ用の肌着をいくつか買ったあと、ニレの首輪を外して一番評判がいいと聞いてきた服飾店に入る。

さすがに店舗内で奴隷身分と判断されるのは良くない、と思ったからだ。

下に撒いている魔法の布帯が十分に魔力帯としての機能を果たし、かつ首輪ではなく装身具として見せることもできる。

若い店員がゲルンとメルシュに商売用の笑顔を満開にして近寄ってくるが、女児用の衣服だと告げると、担当が入れ替わった。

次の店員は、若い女の店員。

こちらも商売笑顔をまき散らしていたが、女性だとうまくやってくれるだろうと思い、ニレを預け、採寸してもらう。

ただし丸刈りの頭髪を見られては可哀想だと思い、フードで頭部を隠していたので、少し不審がられたが。

デザインや色の好みなども聞かれたが、もとより服を仕立ててもらった経験などないニレのこと。

何もわからなかったので、ゲルンが「あまり派手なのは困る」とだけ告げて、お任せとなった。

仕立ててもらう服以外にも既製品の子供服を何点か買って、その場で着替えて、後日仕立て品を受け取る旨を告げて、支払いをして出てくる。

そして再び首輪を装着して通りに出る。


これで一応この日の目的は達成されたから、ついでに観光と食事でもしていこう、とニレを市内へと連れていく。

町と奴隷商への恐怖があったため、早く帰りたかったニレだったが、ゲルンが「行こう」と言うのでついていった。



城門近くで少し早い昼食をとっていた二人組、ジャック・パレとパエトール。

まったく見つからない探し者について、愚痴を言いあっていた。

「そもそもこの町にいるっていう、あの情報は確かなのか?」

ジャックの愚痴が始まるが、パエトールはそれにつきあっていた。

「ま、いいじゃねーか、見つからなくても報酬は出してくれているんだから」

「そうは言うが、さすがに一か月も探していないんじゃ、どこかに移ったと考えるので普通だぜ。それをあの婆、まだここにいる、とかって言うし」

カツレツをフォークに刺したまましゃべっているジャックだったが、突然会話が止まる。

「おい!」

「うん?」

「感じないか?」

そう言ってジャックが耳をすます仕草をする。

「そう言えば...しかし」

パエトールもまた今までの陽気な顔から急に真剣な表情になっていく。

二人は席に座ったまま、きょろきょろと周囲を見渡すが

「おかしいな、確かに何か、ひっかかるんだが、ぼんやりとしている」

ジャックがこう言っている間もパエトールはテーブルのサラダを見つめながら、何かを探る表情。

「おい、あれじゃないか?」

ジャックがそう言ってパエトールの後ろの方を、食事用のナイフで指し示す。

その先には、三人連れの人影があった。


「うん...あそこからのようでもあるが、あまりにも違いすぎるぞ」

パエトールがその三人連れを見て、眉をひそめる。

「聞いていたのは30前後のエギュピタスの女、だったな。あれは男の三人組じゃないのか?」

「いや、あの子どもは衣装からして男ではなく女の子だろう、女装しているとかでもなければ」

「だがどう見ても子供だ。30前後の女にはとても見えない。かと言って男の方が男装した女とも思えないし」

パエトールがそう言ってさらに目をこらしてその三人を観察する。

背の高い痩せた男と、それよりは少し低いものの平均的な身長の男、こちらは二人とも商人っぽい衣装だが、背の高い方がバッグと長い棒を持っている。

それは剣のように思えたが、外観は長い棒である。

もう一人は顔を見る限り、最年長、と言うより初老以上、そこそこ老けている感じだ。

二人ともこの暑熱の中で着帽しているが、日差し避けにも見える。

髪の色はわからなかったが、背の高い若い方が碧眼、年よりの方が黒もしくは褐色の目だった。

そして、目を引くのは、二人とともに歩く子どもだ。

二人が淡い灰色の商人服だったのに対して、この子どもは褐色の子供服にスカート。

奇妙なことに、帽子ではなくフードを代わりにかぶっており、それが日差し避けに見えたが、同時に顔を隠しているようにも見えた。

さらにこの子どもは首輪のようなものを巻いている。

「奴隷か? しかしそれにしては普通の市民服だな」


「わからんな、誤反応のような気もするし」

パエトールはこう言ったが、ジャックの方は急に熱をこめてきた。

「いままで何の手がかりもなかったんだ。俺はつけてみる。おまえは姫さんかフーゴの大将に連絡しろ」

そう言って、自分の代金を卓上に置いて、群衆の中に消えていった。

シーフの例にもれず、群衆にとけこむのが実に巧みであった。

「やれやれ」

と漏らしながら、パエトールは勘定をすませ、ブレンダの待つテントへ急ぎ戻っていった。



仕立ててもらった服以外にもいくつか既製服を買ってもらい、それに着替えてゲルンとともに街中に繰り出すニレ。

町に対する恐怖感は依然としてあったものの、ゲルンとメルシュの二人とともにいると、そうとうの安心感が芽生えてきた。

相変わらず手はしっかりとゲルンの革帯をつかんでいるものの、周囲を見渡すくらいの余裕は出てきた。

露店や雑貨商の出店を見てまわったあと、小料理屋に入る。

夜は酒房になるが、昼間は魚料理を中心にした小料理屋だ。

以前、焼き魚をおいしそうに食べていたことを思い出して、ゲルンが決めた。

注文が届き、魚料理が並べられるのを見たニレが、料理とゲルンを交互に見ると

「おまえの分だ。食べていいぞ」

とゲルンが促すと、ムニエルを切り分けて口に運ぶ。

「おいしい」

と言って喜ぶが、ゲルンは口元に人差し指を立てて小さな声で

「ニイル語は使うな」

と注意する。

ニレはハッとして口を押え、以後、無言で食べ続けた。

だがもちろんその顔は、初めて食べるムニエルのおいしさで、満面の笑み。

小料理屋は客でざわついているため、ニレのニイル語を聞いた者はいないようだった。

だが戸口付近で、しっかりとその様子を観察していたジャックは、その子供が発した言葉に気づいていた。

(この国の言葉じゃねーな)

ジャックにはニイル語はわからなかったが、その単語はしっかりと脳裏に刻み付けられた。


曲芸団のテントに戻ったパエトールは、急ぎブレンダの元へ行き、報告する。

ブレンダはエレオノーラと午後の出し物について確認していたところだったが、パエトールの報告を聞き、急遽彼に向き直る。

「面白いわね、あなた達はその三人に宝玉反応を感知したと言うのですね?」

「そうなんですが、あまりに反応がぼんやりしていたので、確かにそうか、と言われると少し自信がなくて」

「で、ジャックがその三人組を尾行しているというのですね?」

「へえ」

この報告を聞いて、ブレンダがフーゴを呼びにやる。


ブレンダの元に来たフーゴに、パエトールが再び同じことを説明する。

「姫、私も疑問です。その30前後のエギュピタスの女、という情報は間違いないのですか?」

「その情報源はここに連れてきていないが、10年前に20前後だったから、今は30前後、という推測なだけだ」

「10年前と言うと...エギュピタスの民が滅ぼされて四散した時ですな」

「そう。それでここに潜伏しているのなら30前後、と考えていたわけ」

フーゴがパエトールに向き直り、

「その三人の人相、風体をもう一度、できるだけ細かく教えてくれ」

と聞いたので、パエトールは自身の観察を彼に語る。

その説明を聞いて、ブレンダが傍らに侍る女に命じる。

「シリア、ロースとジャッケルを連れて、ジャックと合流なさい」

シリアと呼ばれた黒髪のポニーテールが立ち上がり、

「その三人を攫ってくるのですね?」

と問うた。

「いえ、パエトールが言う通り、誤反応かもしれません。あなたたちはその三人をつけて拠点を探ってちょうだい」

「宝玉の主だとわかれば、攫ってきてもいいんですね?」

「まぁ、そうだけど、無理はしないで」

シリアが軽く会釈をして、その場を出ていこうとしたその時。


「パエトールさん、その子どもって言うのは、女の子で間違いないんですね?」

いつもはその傍らで影のように侍るだけのブルーノが、パエトールに質問した。

「ええ、たぶん。何ぶん衣装からの判断ですので、ひょっとしたら違うかもしれません。断言はできません」

「年恰好とか、わかります?」

「たぶん6歳から9歳くらいかと」

「見た目でかまいませんが、10歳には届いていない感じですか?」

「私の目には、そこまではいっていないと思いました」

この答を聞いて、ブルーノがブレンダに言う。

「姫、推測にすぎないのですが、その子どもってナイラーガの娘なんじゃないですか?」

「え?」

ブルーノの言葉を聞いて、ブレンダだけでなく、フーゴやラーベフラム、シリアも一瞬動きが止まってしまう。

「10年前、祖国を追われたナイラーガが別の土地で娘を産んで、宝玉を継承させた、というのは?」

しばらくこのことを考えていたブレンダだったが、

「ブルーノ、さすがね。確かにその線はあるかもしれないわ」

これを聞いてラーベフラムが言う

「だとしたら、ナイラーガは?」

「宝玉が継承されていることを考えると、自身の死を悟って娘に継承させた、とかですかね?」

とブルーノが自身の考えを発展させていく。

「ナイラーガは神官の巫女だった。それはありえるだろうな」

ブレンダが今まさに出て行こうとしていたシリアに向き直り、

「シリア、そういう可能性も考えて、その子どもの方は宝玉持ちか否かに関わらず、絶対に殺してはなりません」

「わかりました」

そう言って今度こそ、シリアはテントを出て行った。


「姫、私も動かせる手勢を集めておきます」

とフーゴが言い、こちらもテントを出ていく。

今は曲芸興行の真っ最中だが、この町に来た目的は宝玉持ちを探すことだった。

フーゴはショーに関わっている以外の者を、夜の仕事連中も含めてかき集めに出ていった。

「あなた達の手も借りることになるかもしれません」

ブレンダはテント内で彼女に侍っていた少女たちに声をかける。

少女たちは微笑みながら立ち上がり

「姫、ようやく楽しいことになってまいりましたね」

その中の一人が可憐な、しかし不気味さを秘めた笑顔でブレンダに言った。

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