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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【8】 たいせつな... 

「ブルーノ、これはチャンスじゃない?」

ジャックと合流したブルーノ達の中から、髪の長い褐色肌の娘が話しかける。

「あんたが危惧していたのは『山の魔王』との全面戦争になったらとても勝ち目がないから、ということだったろ? しかしここなら」

「ムルダ姐さんの言う通りだ。私たちなら顔を知られていないから、不意をつくこともできる」

「ムルダもアルケラも戦いたいのはわかるけど、あの剣士と正面から戦うのは無謀だ」

ペリオラ隊に属している女戦士たち、ムルダ以下の5人が好戦的になっているのを見て、ブルーノが鎮める。

ゲルン達が入っていった土産物屋の隣、船員組合の慰安処で様子をうかがっている。


「あたしたちだけじゃない。シリア達も上陸しているし、ゴロやパスカラもすぐに来られる位置にいる」

沙羅布に身を包んだ豊満な女ボルバが話しかける。

「いまならあの小娘を引っさらえる」

「あたしは姫様の身体に危険が及ぶかもしれない、解除コード云々は、ちょっと気が乗らなかった」

ルキットとエカテーがムルダの意見に賛同している。

しばらくして、ゴロ、バルトロメオ、ガラも合流して、主戦派が主流になる。

彼女たちの意見が強くなってしまったので、ブルーノは折衷案を出す。

「それじゃ指揮はムルダにまかせるので、皆彼女の指示に従ってほしい。ただし」

ここでブルーノは彼らを見渡し、睨みつける。

「目的が宝玉少女だと言うことを絶対に忘れるな。戦いの方に夢中になるやつは、あとで姫様に叱ってもらうからな」

そして、ジャックとパエトールの方を見て、

「僕たちは王宮に忍び込む。パエトールはシリア達を呼んできてほしい」

「別動隊ってわけですね」とジャック。

「この機会に、忍び込んでみよう」

ブルーノの言葉で、一同二手に分かれて、行動を開始した。


ムルダ達戦闘班は、フーゴやエレオノーラ達が苦戦したという剣士ゲルンや湾曲刀使いの少女トルカとの戦える楽しみに心を奪われていた。

ブルーノが彼らを使って陽動しようと考えていたことなどそっちのけ。

また、ブルーノも、解除コードを持つ魔王の一族にも興味があった。

そこでとっさにこの両面作戦を考えたのだ。

ムルダ達と別れたブルーノは、別動隊としてバックアップ用に上陸させていたシリア、ロース、ジャッケルと、フレーボムの市門出口で合流する。

三人はギデオでニレをジャックが攫った時に、今回と同じく陽動に立って戦ってもらった連中だ。

「と言うわけだ。僕たちはこれから魔王の宮殿領地に入る」

「あの剣士と戦えないのは、残念ですが」

とロースが言うが、シリアは

「あいつとはもうやりあいたくないね」

とこぼしつつ、ブルーノに従っていった。



「これなんか良いんじゃない?」

トルカが食品・菓子系統の土産物屋で、蜂蜜を練りこんだ菓子箱を調べている。

「ルルはもっとガッツリした方が好きなんじゃないかな」とエルマリダ。

「あら、ルルはああ見えてかなりの甘党ですわよ」とはフリーダの言葉。

三人がいろいろ見て回っていると、何かが接近してきたことをゲルンが伝える。

「三人とも、店を出ろ。荒事になるかもしれない」


土産物屋の外に出ると、身の丈が成人男子の二倍くらいはありそうな巨漢が待っていた。

「近く...広場...店、迷惑、かけたくない」

とぼそぼそ呟くが、これは決闘の場所を指示している、と悟って、ゲルン達が付いていく。

もとよりゲルン達も連中をおびき出すことが主眼だったのだ。

戦いになるのであれば望むところだし、同時に周囲の店舗に迷惑もかけたくない。

ついていくと、広場には、二人の男女、ゴロとムルダが待っていた。

目が眼窩から飛び出しそうなほど大きく、いささか猫背で、無精髭で顔を覆われた男ゴロが進み出て、恭しく頭を下げる。

「私はエギュピタスのゴロと申します」

そう言って、先頭のゲルンの影に隠れて、トルカにしがみついているニレをじっと見る。

「どうか、私どもと一緒においでいただけないでしょうか」

ゲルンからは一定の距離を取り、巧みに間合いの外に位置しつつ、目はニレをとらえ続け、話し続けた。

「私どもは、あなたの中に埋まっている宝玉を研究させていただきたいのです」


だが、ニレは強張るように拒絶した。

「いやです。あなた達は、恐ろしい」

この答を聞いて、ゴロは後ろに少し下がる。

「穏便にすませたかったのですが...」

そう言って今度は、先頭にいるゲルンに声をかける。

「どうでしょうか、あなたからその娘に、私どもの研究に協力していただくよう言っていただけないでしょうか」

いきなり広場で戦闘になる、と思っていたゲルンだったが、この不気味な丁重さに、返って警戒を強める。

「聞いてなかったのか。この娘はおまえらの元へは行きたくない、と言ってるんだ」

ゴロは少し頭をかきながら、さらに少し後退する。

「実力行使はしたくないのですが」

そう言って、ゲルンを見て、唇をゆがめた。

恐らく笑っているのだろうが、人相が奇怪な悪相で、目が飛び出ているように見えるため、とても笑顔には見えない。


「元よりそのつもりだったのだろう?」

そう言って、ゲルンは黒い魔剣を抜刀する。

目の前にいるのは三人だけだ。

しかし周囲の生垣や藪の中に、複数の気配がする。

人数としてはこちらより多いかもしれない、と考えていたが、一向に攻撃してこない。

するとゲルン達をこの広場に誘導してきた巨漢がのっそりと前に進み出る。

大男だ。

灰色の獣皮をなめしたような袖のない服をかぶるように着ており、太い腕が左右から出ている。

だが武器らしいものは持っておらず、動きも緩慢なように見える。

その男バルトロメオがゆっくりとゲルンの前に来て、

「その小娘をこちらに、よこせ」

と、何か生物ではないような抑揚で話す。

「断る」

ゲルンがそう言って剣を構えると、その巨漢は両の拳を握りしめて、ゲルン目掛けて振り下ろした。


その直前のゆっくりとした動きに慣れてしまったので、素早く感じた。

しかしバルトロメオの両手で作った拳は、ゲルンのいた地面にめり込むだけで、空振りに終わる。

バルトロメオの拳は躱せたゲルンだったが、地面についた痕を見て、その力に驚いた。

そして同時に、藪の中から数人が、こっちはちゃんと武器をもって出てきた。

ゲルンの後ろにトルカが走り寄り、持ってきた荷物から湾曲刀を引き抜き、かまえる。

「フリーダ!」

トルカがこう言って、ニレとエルマリダの護衛を頼む。

同時にフリーダの詠唱が始まり、結界の霊壁が自分と、ニレ、エルマリダを守るように包み込む。

その傍らにはヴィルトシュネーが立ち、細身の、白く塗られた剣を引き抜き、地に垂らしていた。


ゲルンの後方、つまりフリーダやヴィルトシュネー目掛けてきらきら光るものが飛んでくる。

ヴィルトシュネーがこの細身の剣で、その飛来物をはねのける。

パラパラと地面にそれらが、弾かれて落ちる。

針だ!

銀色に輝く投げ針! しかもその先端が少し黒ずんでいる。毒針だろう。

生垣の中から出てきた一人の女、ガラがまだ数十本の針を携えて、狙いをつけようとしていた。

「曲技団だと聞いていたので、魔術師の方が多いと勘違いしていました。見事な投げ針ですね」

ヴィルトシュネーがガラに向き合って言う。

するとガラは方針を変えたのか、後ろからトルカを狙った。


ゲルンと背中をあわせて周囲を見ていたトルカは自分に投げ針が撃たれるかと思っていたが、ガラの針は足元へ向かっていく。

足元、つまり影から現れて三人の『白き者』が、その針を撃ち落とした、

「ジャックの報告通りだ」

そう呟いて、ガラが場所を変える。

それぞれに自分の武器を手にしながら、戦士たちが襲い掛かる。

バルトロメオから離れて、ゲルンは彼らと剣を交わし、移動しつつ戦う。

エギュピタスの戦士が操る武器はさまざまで、ある者は細身の剣、ある者は幅広の大剣、またある者は鞭をふるったりしていた。

その上を、トルカの湾曲刀が舞う。

多人数を相手にしたときに威力を発揮するトルカの湾曲刀は、数人の剣士を切り裂き、女戦士に傷をつけ、トルカの手の中に戻る。

「次はお前だ!」

トルカの湾曲刀・二投目の狙いは、巨漢バルトロメオ。

トルカの手を離れて、放物線を描くように湾曲刀がバルトロメオを襲う。

だが湾曲刀は鈍い金属音を立てて、バルトロメオの肩口で跳ね返され、地面に落ちる。

トルカはそこに飛び込んでいって、自身の武器を拾い上げるが、剣の刃先が巨漢を切り刻めなかったことに、衝撃を受けた。

「へへ、儂のバルトロメオに、そんなもんが効くかい」

と、その背後で、不気味な表情をしたゴロが笑っている。


「儂のバルトロメオ?」

その言い方に違和感を覚えたトルカが、今度は中空に湾曲刀を投げ上げ、巨漢の背後にいるゴロを狙った。

湾曲刀が自分に向かってくるのを感じたゴロが

「ひぃっ!」と言って蹲ると、そこへ目掛けて落下してくる湾曲刀を、バルトロメオが弾き飛ばした。

次もまた湾曲刀を拾ったトルカが構えると、バルトロメオがゴロの前に庇うように立っている。

二投目は肩口に、三投目が背中に当たったはずだが、まったく通じていない。

しかしよく見ると、肩と背中が少しだけめくれ上がり、その下に鈍色の「何か」が見えた。

そうか、と理解したトルカが言う。

「おまえ、人形遣いだな」

これを聞いてゴロがゆっくりと警戒しつつ立ち上がる。

そうゴロが指示を出して動く巨大人形バルトロメオ、それがこの巨漢の正体だった。


傍らでこれを聞いていたゲルンは、すぐにトルカに加勢してそのゴロを切り倒しに行きたかったが、鞭を巧みに操るボルバとルキットに阻まれて近寄れない。

二人は両腕に鞭を握り、ゲルンを攻撃している。

ボルバの攻撃線上から身をかがめてよけたゲルンだったが、その背後にある灌木が真っ二つにされた。

二人の鞭は、単に相手をからめとるだけでなく、その打擲も剣のような鋭さを秘めている。

二人はそれぞれ片方の鞭を回しながら、もう片方の鞭を直線的に打ち出してくる。

それぞれに位置を動かしつつ襲撃してくるので、無数の鞭が迫ってくるようだ。

体勢を持ち直すこともできずによけ続けていたが、そこに声が聞こえる。

「剣士様、私がスキを作ります」

ラムゼの声が聞こえるや否や、足元から土埃が待った。一瞬視界を遮られて、ルキットがその土煙の中に鞭を放つ。

だがそこはゲルンが移動した後で、ゲルンはルキットの背後に回っていた。

咄嗟に身をかわしたルキットだったが、完全にはかわし切れず、背中の肩甲骨を斬られて、その場に蹲った。

それを見てボルバが剣士目賭けて鞭を放ったため、ゲルンはとどめをさせずに後退する。


ゲルンはこの二人との戦いを深追いせず、スキを作れたことに満足して、トルカの元へ急ぐ。

するとどうだろう、そこにはバルトロメオにつかまり、その太い左腕で首をつかまれ、持ち上げられているトルカがいた。

「ぐっ...、ぐっ...」

と苦し気に息をもらすトルカ。

その足元を見ると、紐がからまっており、それに足をとられたところをこの巨大な怪物に捕まってしまったのだろう。

そして彼らの背後に、縄紐を抱えたゴロが見えた。

恐らく交戦中のトルカの足元に紐を投げてバランスを崩させ、その瞬間にバルトロメオに囚われた、とゲルンは判断した。

先ほどの戦いで、トルカの湾曲刀ではこの巨人を傷つけられないことを見ていたゲルンは、自身の黒い魔剣の力を使うことにした。

ゲルンの魔力はそれほど強いわけでもなく、使える魔術も少なく、力も弱い。

しかしそれは、魔剣を効果的に使えるように、その技一点に注力していたからだ。

今がその時だ。

ゲルンは魔剣に自らの魔呪を送り込み、詠唱し、魔剣の姿を取り戻す。

赤黒く光った黒の魔剣から、力のオーラが零れ落ちる。

この気配を察したゴロが、

「いかん、逃げるぞ」

とバルトロメオに指示を出すが、一瞬遅かった。


飛び込んでいったゲルンの黒い魔剣が、トルカをつかみ上げていたバルトロメオの左腕を切り落とす。

肘から先が切断され、トルカごと地面に落下。

そして予想通り、その切り口からは血が出ておらず、バルトロメオは不思議そうに自分の左腕を眺めているだけ。

切り落とされた腕は未だ力を失っておらず、トルカを閉め続けていたが、ゲルンは次に親指の第二関節を切り飛ばした。

これによってトルカが指の間から転がり落ちて、ぜいぜい、と息をもらしている。

ゲルンは肩を抱いて身を起させ、背中をさすってやる。

「もう大丈夫だ。息が整うまで、私にまかせておけ」

そう言ってトルカを広場を包む灌木の一つにもたせ掛け、立ち上がった。


バルトロメオの腕が落とされたことで、戦闘不可能と判断したゴロは、バルトロメオとともに退却していく。


ヴィルトシュネーと三人の部下とがエギュピテンス達と戦う方も一進一退だったが、ボルバとルキット、ゴロとバルトロメオの陣形が崩されたことで、撤退を余儀なくされた。

ゲルンが全員をまとめてフリーダの結界のところに近づくと、強烈な臭いに覆われていた。

フリーダが結界を解くと、「うっ」と言って、この臭いの強烈さに失神しかける。

「これは...酸ね」

エルマリダも同様に鼻孔を覆いながら、フリーダとニレを抱えて場所を移動した。

物理結界に踏み込めないため、おそらく酸を撒いたのだろう。

地面が酸で黒く焼けただれていた。


「ニレ、大丈夫か? 息はできるか?」

ニレも息がつまりかけていたので、違う場所に移動して深呼吸している。

トルカも負傷してしまったため、急ぎ荷物をまとめて、こちらも撤退することにした。

馬車を呼び、這う這うの体で帰路につく一行。

「すまない。私が少し簡単に考えすぎていたようだった」

ゲルンが皆に陳謝すると、トルカが身を起こして、

「剣士様、違います。私が未熟だったのです」

そう言って、頭を垂れた。

その姿に心動かされたゲルンは、肩をつかんで身を起こさせて、

「トルカ、自分のからだも大事にしてくれ」

そう言って、目を見つめる。

その視線を受けて、トルカもまた見つめあう。

やがて力なく身を沈め、

「はい」

と言って、肩に寄せられたゲルンの手に、頬をつける。

「でも...ゲルン様が身を案じてくださったことも嬉しいです」

と少し、冗談口調で返した。

いつもなら

「何をバカなことを言ってるんだ」

と突き放してくれて、笑いになっておしまい、のはずだったのだが。

「ああ、心だけじゃなく、からだだってたいせつなんだぞ」

正面から真顔でゲルンにこう言われてしまい、思わず涙がこぼれてしまった。

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