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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【6】 宝玉史

「破魔の悪神だって?」

魔王の傍らで沈黙を続けていたフリティベルンが思わず声を上げた。

「おまえは破魔の悪神の残党なのか?」


だがアニトラは、はぐらかすように言う。

「魔王様に破魔の悪神を投げかけられる者は、破魔の悪心自身にほかなりません。私など、とても」


「今の質問は、おまえ個人のものなのだな?」

魔王は口をはさんだフリティベルンを咎めるでもなく、尋ねる。

「はい」とアニトラ。

「おまえが何を知りたいのかわからんが、死んだ、というよりは『失活した』と言っていいだろう」

「失活...」

その言葉を繰り返して、アニトラは少し考えるそぶりを見せた。

「ありがとうございます。もう少し具体的にお尋ねすべきでした。申し訳ありません」

そう言ってアニトラが改めて居住まいを正し、続ける。

「破魔の悪神がその水晶塊によって、あるいは他の宝玉によって復活するということはないのですね?」

「さよう、そしてそれをなしうることができたかもしれぬ宝玉の一つも失活した」

「わかりました。すると残りは3つ、ということですか?」

「今はな。間もなく2つになる」

魔王のこの答に、少し驚くアニトラ。

「え、その意味を聞かせていただいてもよろしゅうございますか」

魔王はしばし考えて、アニトラの質問をはねのける。

「おまえがどこまで知っていて、それによって何をしようとしているのかわからぬ以上、答えられるのはここまでだ」


「魔王さま、ぶしつけな問いに、親切な解答、ありがとうございました」

だがアニトラはここまでで満足したようだ。

アニトラが退出するのを確認して、

「つけろ。あいつの背後を見て来い」

魔王は姿を不可視としていた妖精の一人に、アニトラの尾行を命じた。

「承知いたしました」

どこからともなく小さな声が、魔王の肩口から聞こえた。


舞姫が退出した扉をしばらく見ていたフリティベルンが、魔王に向き直る。

「魔王様、今の話は、第四の宝玉のことだったのですか?」

「おまえは儂の後継者だ。やがて魔王となる時、全てを知るだろう」

魔王もまたこうも言って、もう一度椅子に沈み込む。

「しかし、今が伝えておくべき時期なのかもしれぬ」

人払いをした後、フリティベルンにある話をするのだった。


何代も前、魔王が自分の死期を悟り、その力の永続がむなしいものであることを知った。

そこで次代の魔王に、力が盛りの時期にこそ、その力を封じ、後代に託すことを遺言とした。

次代の魔王は己が力を最も澄み切った、最も純度の高いある結晶に、己が力を封じた。

魔王は代を重ねるごとに、その力の封じ込めを課題としていった。

代を重ね、ついに4つの結晶を得るに至ったが、この『山』ではその力を鎮めておくことが困難になり、霊気の強い場所へと分散することとした。

その候補として選ばれたのが、聖なる大河ニイル。

そこに魔王の結晶が二つ、預けられることとなった。

さらに時代が下り、北に二つ、南に二つあったその力の源が徐々に忘れ去られていく。

その力は後に神話の中に伝えられるようになる。

だが二つが南へ移された時期に、ある神官が現われた。

その男は古き文書、古き経典を読み解き、その蓄積された力の結晶の存在を知ることとなった。

巧妙な話術、巧妙な詐術をもって、神官はその力の源を、譲り受けようとした。

だがその力の源は長い年月を経て意志を持ち、指向性を持つに至った。

そこで神官は、その力の源を鎮め、自らの意志の元に従わせるべく、その力を覆う入れ物を考案する。

そこにいくつもの条件を課し、いくつもの魔呪を込めて、ついにその結晶、魔力の源を外に出すことに成功した。

だがその力はあまりに強く、出した瞬間に、その神官の命を吸ってしまった。

神官は死の間際、自らの後継者にそれまでの経緯を語り、黄泉路へと旅立った。

神官の意を受けた後継者たちは、魔王の目をかいくぐり宮殿を出た。いくつもの難関を乗り越えて、残る二つの力の源のある土地にたどり着いた。

それがニイルの河の畔。

力の結晶を、入れ物として少女のカラダを使う技術を生み出していたその後継者たちは、そのニイルの畔で、次々と、その結晶を移し替えていった。


「もうわかったであろう。それが『宝玉』と呼ばれるもので、その入れ物が『宝玉少女』なのだ」

フリティベルンはこの話を聞いて、自分の予想以上に『宝玉』の問題が大きかったことに戦いた。

「では、魔王様は、あるいは後継者に指名された私は、しかるべき時に、第五の結晶を生み出すことになるわけですか?

だが魔王はこれを否定した。

「力の源を何代にもわたって移し終えたのは、はるか太古の昔。今はもうその技術は失われてしまっておる」

そう言って、次は「その後」の話を続ける。


宮殿の外に出されたことによって、『宝玉』の存在が少しずつ知られるようになってしまった。

魔王の系譜とは異なる神秘の力を持つ者たち。

魔界の者、妖精界の実力者、智を極めた賢者、地底の神官、天の巫女、そして破魔の悪神、などなど。

だが彼らの力をもってしても、その入れ物から力を抜き出す方法へはたどり着けなかった。

魔力を結晶に蓄える秘術は失われてしまったが、それを入れ物から抜き出す秘術は、わしの元に受け継がれておったのだ。

そしてそのことは、南方へ走った神官たち、ニイルの大河に使える巫女たち、あるいは概要を知る伝承者たちにさえ残されていなかった。

彼らができたのは、その所在と繋がる判別石を生み出すことだけ。

だがそれとても、手持ちの宝玉で試すことができず、いつしか外へと流れていった。


神秘の力を持つ実力者は、何ゆえ「外に出すことのできぬ『力の源』を欲したのか」

魔王は別の視点をフリティベルンに語る。

「では自らを、その入れ物の中に移し、その力を享受する、それを模索したのだろうか」

この問いを発して後継者の答を待った。

すると、フリティベルンがある考えを示す。

「宝玉を取り出して自分のものにするのではなく、自らがその入れ物の中に入って...?」

自ら出した答えでありながら、後半は自身でさえ信じられない、と言った表情になり、言葉が消えていく。

「そうだな、破魔の悪神もそれを考えた」

今度は魔王が自分の推測を語る。


おそらく神秘の力は代々の魔王の中にある、と考えたのだろう。

そこで自らを儂の中に忍ばせた。

だが儂の中で力を発揮するのは無理だったのだ。私の魔力の方が強いからな。

加えて、やつは「入れ物」の条件を知らなかった。

それは、女であること。

当然儂の中に宝玉などはない。


ここまで語って魔王は一息入れた。

「あとはもうわかるな?」

そう言ってフリティベルンを見るが、フリティベルンはそこから導き出せる結論に到達しつつあった。

「ここから次が宝玉の使い方、なのだが、今日はこれまでにしておく」

と言って、いったん話を打ち切った。

「ゆめゆめ、このことをもらすでないぞ」

と念を押すのを忘れずに。



フレーボムでショッピングを楽しんでいたゲルン達一行だったが、怪しい気配は一向になく、普通に観光気分になりつつあった。

もちろんトルカはエルマリダのチョイスに喜びつつも、このことを、今回の遠出の真の目的を、頭の隅に置いている。

だが、目立つように行動していたが、魔的な力で見られている、という感覚は起こらなかった。

(この日が、間諜も潜伏している日、とはまだ決まったわけじゃないしね)

と言う気もしていたので、行動を起こすのは間諜を見つけてからでいいか、と考えなおした。


ゲルンも同様に間諜の気配が感じ取れなかったので、今日の遠出は、まだ時期尚早だったかも、と思い始めた。

しかしゲルンの脳裏には、もう一つ重要なことが住み着いていた。

ここ最近、ニレの声を通じて、魔焔公がまったく現れない、ということだ。

今はまだ肉体を持たない魔焔公なので、外へふらふら出てしまったと言うのは考えられない。

まだニレの中にいるはずである。

しかし、眠りを必要としない、永遠の生を生きる魔焔公である。

外で起こっていることは見えているはずなのだ。

ゲルンと一時的な契約をしていたにせよ、プライドの高い魔焔公の言動を細かなところまで縛れるものでもない、とも思っている。

なのに出てこない。

呼び出しをかけると出てくることもあるが、ここ最近はそうやって呼び出しても、いつも眠たげである。

眠らないはずなのに、なぜあんなに、眠たそうなのか。

しかも最近はどんどん眠気が強くなっているように感じた。

単に確認のためにだけ呼び出したこともあったのだが、挨拶が住むとすぐに引っ込んでしまう。

話しぶりを見ていると、自分やニレに敵意が向けられているようでもない。

対岸で見せた、キャラバン隊や誘拐犯と戦った時の、強大で圧倒的な魔力。

なにか別人のようになってしまっている。

その起点はいつ頃からだろうか、と思い直してみると、どうもあの「宝玉に住」み始めた頃からのように感じる。

既に何かが起こっているのだろうか。

それがさっぱりわからない。

しかしわからないなりに、何かが起こっている、とも感じてしまうのだ。


トルカとゲルンがそんなことを考えている中、エルマリダの衣装選びはどんどん進展していく。

最初、着せ替え人形のようにエルマリダに言われるまま、服をとっかえひっかえしていってたが、数をこなしていくうちにその意図が伝わってきた。

エルマリダはニレを「女の子っぽく」しようとしているのだ。

生まれてすぐに産みの母と死別し、幼いカラダに打ち込まれて行った、奴隷としての生活、その刻印。

とても人並みにこども時代を送れなかったニレ。

そういったことは簡単にではあるがエルマリダは聞いていた。

そこで身の回りを整えていくことで、その失われた幼児時代、そしてそこから女の子の時代を取り戻してあげたい、という意図だったのだ。

かといって、もちろん、大人にとって都合の良い「子ども時代」でもない。

自分で選び、自分で考え、自分でその人生を歩いていく。

そういった一貫としての選択を提供してやること。

自分を綺麗に着飾るのは、単に誰か大人を喜ばすためのものではない。

自分の価値を自分の感性、知力で磨き上げていくこと。

その一つでもあるのだ。


いろいろと選んで着せてくれる衣装は、ニレにとって初めての経験。

服装に、実用以外の面があることを教えてもらい、ニレも少しずつエルマリダに協力的になっていった。

「淡い色と濃い色を組み合わせると、どうなるんですか?」

「このトップスだと、下はスカートよりもパンツルックがいいんですか?」

「この帽子だとこのブラウスとは変になりませんか」などなど。

最初の方こそいろいろと声も出していたフリーダだったが、ニレが少しずつエルマリダに尋ね始めていたりするのをしっかりと聞くようになっていく。


「ニレちゃんはまだちっちゃいのに、すごく頭が回るんですね」

何かを思案しているように見えたゲルンに、フリーダが注意を引き戻そうと話しかける。

ニレの変化をフリーダに教えてもらい、ゲルンもニレに視線を向け直した。

「ああ、助かるよ。男の私ではあんなことは、とても思いつかないからな」

最初はただ驚くだけだったが、今のニレはかなり嬉しそうな表情になっていたのだ。

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