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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【5】 舞姫と魔王

「トルカさん、ちょっと」

翌朝のフレーボムへの買い出しに出かける直前、宮殿所領の城門前でトルカがヴィルトシュネーに呼ばれた。

どうやら内密な話らしい、と悟って、トルカは門の影に移動する。

「なんですか、ヴィルトシュネー」

二人っきりになったのを確認してトルカが尋ねた。

「私の部下を同行させますので、顔合わせしておいてほしいのです」

ヴィルトシュネーがそう言うや、己が影から三人の人影を浮かび上がらせる。

「既に一度、ゲルン様の居間で顔合わせは済ませておりますが」

そう言って三人を紹介した。

赤髪の少年、ラムゼ。

黒髪の長身青年、ウォリス。

そして短髪ブルネットの女性、ディーダ。

確かに前日居間で会った顔ぶれだが、トルカは疑問を口に出す。

「なぜ、私だけに紹介するの?」

「この三人は、隠れて皆さまをお守りします。それでもし敵が網にかかって交戦するような時に、お間違えなきように、ということです」

ヴィルトシュネーはこう言って三人を見て、

「見ての通り、愛想笑いができない者もおりますので、いきなり現れて敵だと思われたくはないですからな」

などと言うが、三人はピクリとも表情を変えない。

確かに不愛想な、見ようによっては仏頂面にも見える。

「そこじゃなくて、なぜ私だけに、という点なんだけど」

「それは貴女がゲルン様から一番信用されているからです」

そう言ってヴィルトシュネーは(なんでそんなわかりきったことを)という表情になる。


「ニレ様は常にゲルン様の御側におられるし、そもそも攻撃に転じることはないでしょう」

と言うが、トルカは「一番信用されている」という言葉に、少し動揺している。

それにも構わず、ヴィルトシュネーが続ける。

「私は少し遅れて出立します。ですので、この三人をゲルン様と貴女でうまく使ってやってください」

ここでようやく、ラムゼが口を開く。

「そういうことです。近くの影に潜んでおりますので、呼んでいただければ、すぐに参上します」

続いてディーダ。

「衣装の買い出しということですので、女性の更衣などの際には私が控えております。御遠慮なくご命じください」

ウォリスは沈黙を守っていたが、特に付け加えることもなかったのだろう。

三人は「では」と言って、朝の長く伸びたトルカの影の中に入っていった。


続いてヴィルトシュネーはゲルンの元に行き、伝える。

「剣士様、私は少し遅れて合流します」

「何か、大事があったのか?」

ゲルンが小声で尋ねるが、やんわりと否定するる

「いえ、大事ではなく、少し胸騒ぎがしますので、解決し次第、追いつき、合流します」

そう言って、トルカの影に三人の手勢を潜ませたことを打ち明けた。

「わかった。それでは先に行っている」

そう言ってゲルンは馬車に乗り込み、トルカ達とともにフレーボムの町へと向かった。


ゲルン達の馬車が南下してフレーボムへと向かったのを見届けたあと、ヴィルトシュネーは城門に戻る。

城門詰め所に来て、門衛と少し話をする。

「それで、面会希望、というのは?」

魔王直属のヴィルトシュネーにこう聞かれて、門衛は緊張しつつ、報告した。

「こちらで待機しておられます」

と、さらに奥にある控室へ案内した。


ドアをあけると、そこには南方系の女性が少し派手目な多彩な色相の服を来た女性が椅子に腰かけていた。

「こちらの方が魔王様への謁見を求めていらしてて」

と、門衛が困ったような顔をしてヴィルトシュネーに取り次ぐ。

女はヴィルトシュネーを見ると立ち上がり、近づく。

「ようやくお話の通じそうな方が来られましたね」

そう言って手を差し出す。

「私の名はアニトラ。ベルベリアの舞い手です」



フレーボムへ向かう車中、ここでもエルマリダが興奮してしゃべり倒している。

だが衣装のことなど全然わからないゲルンとニレは、まるで違う言葉で話さられているような感覚に。

もっともエルマリダは、相手が相槌を打とうが打つまいが関係なくしゃべっていることに気づいたので、それからは少し楽になった。

それでもフリーダは友達だからだろうか、適当に相手をしていたが。

狭い車内で観察する機会ができたからか、ニレはエルマリダの座り方が少しぎこちないのに気づいた。

するとフリーダがその視線に気づいてか、

「ニレちゃん、これこれ」

と言って、エルマリダのスカートの中から尾の本体を引っ張り出した。

「ぎゃっ!」

と大声を出すエルマリダ。

車窓風景を見ていたゲルンもこの声に吃驚して、フリーダを見る。

「フレーボムにも宮殿周辺にも、有尾人は多いから、慣れておいてね、ニレちゃん」

「な、な、な、何をするんですか! フリーダ」

今まで得意満面にしゃべっていたエルマリダが顔を真っ赤にしてフリーダに抗議する。

「乙女の尻尾を、下半身の素肌を衆目に引きずり出すなんて、信じられない!」

「だって、ニレちゃんにほんとのあなたを見せなくちゃ、信頼してもらえないわよ」

「肌を見せないと信頼されない、なんてことがありますか!」

「フリーダ、今のは良くないと思う」

とトルカも話に割って入り、ニレは目を白黒。

さすがにゲルンも会話に入れず、こちらもどうしたものか、目が泳いでいる。

馬車の中が大騒ぎになってしまい、御者担当に

「すみませんが、騒がないでいただけますかね」

と注意されてしまった。



フレーボムへ着くと、ゲルンはニレを観光させてやりたかったのだが、エルマリダに強引に市門近くにあるブティックに引っ張り込まれてしまった。

「あいつ、自分の服を買いに来たんじゃないのか?」

ゲルンがフリーダに耳打ちすると、

「それはたぶんないでしょう。あの娘、大概のものなら自分で縫っちゃいますし、それに...」

そう言ってると、そこの店主が出てきてエルマリダに頭を下げている。

「宮殿にずっといるとわかりませんけど、あの娘、デザイナーとしていろいろな店に卸しているんですのよ」

と、知らなかった情報を出してもらい、驚いた。

「ただの騒がしいファッション・バカじゃなかったのか」

「まぁ」

フリーダもゲルンの評価に笑みをもらしてしまう。


「エルマリダ、私にも見立ててよ」

トルカがこう言って、エルマリダに話しかけると、馬車の中での騒動がなかったかのような、満面の笑みとなるエルマリダ。

そして今度はニレをそっちのけでトルカにいろいろと試着させ始めた。

「見ていてください。ニレちゃんとは違うトルカの魅力を引き出してくれますよ」

フリーダに言われてゲルンが見ていると、いくつか選んでトルカを試着させている。

出てきたトルカを見て、ゲルンは感心した。

金髪をやや高い位置でポニーに、そして首筋がはっきり見えるようにして、肩口が少しふくらんだ淡いピンクの上衣。

一方腰はペブラムで軽く絞られて、フレアっぽい、しかし布地は軽そうなミドルスカート。

トップスときれいにあっていて、いかにも快適そうな雰囲気が伝わってくる。

「へえ、可愛いじゃないか」

とゲルンが感想をもらすと、

「きゃん、ほめられちゃった」

と言いながら、トルカがくるくる動いている。

軽快にステップを踏んでいると、さながら妖精が踊っているようだ。


「トルカは素材はいいんだから、こうやってちゃんとこだわれば、女の子らしい魅力がしっかり出るはずなのよ」

とエルマリダも満足そう。

確かに、単に自分が好きと言う以上に、相手に合わせることも巧みだな、とゲルンは感じる。

フリーダが言っていたように、こういう特技があれば、あの性格も目をつぶれるのかな、などと思ってしまった。

「ニレちゃんのもちゃんと考えてあるから、心配しないでね」

と言うエルマリダ。

しかしその前に、と言って、トルカの衣装を何点か組み合わせていた。



山の魔王の宮殿、玉座の間。

そこに魔王、フリティベルン、アニトラ、そして護衛の大男二名。

謁見用の玉座は他にもあるのだが、ここは一番南、入り口に近い比較的小さな広間だ。

上座に座る魔王の前にアニトラが進み出て、膝をつく。

「魔王様におかれましてはご機嫌うるわしゅう」

謁見の辞をいろいろ述べたあと、魔王の許可を得て話し始める。


「宝玉はまだ全てここには集まっていない、と聞いております」

「よくもぬけぬけと」

と魔王は言って、口元に笑みを浮かべる。

「破魔の悪神を取り込んだことは、こちらにも伝わってきましたゆえ」

アニトラの言葉を受けて、魔王は椅子の中へ沈み込むように身を引いていく。

「それで今日は何の用事で来た?」


アニトラは持参した背負い袋からごそごそと探りつつ、布に包まれたものを差し出した。

「これを、魔王様にご返却したく」

フリティベルンが目で合図をして、警備兵の一人にそれを受け取らせる。

警備兵はそれを魔王の前にある卓に移して、布包みを解く。

中から現れたのは、先日アニトラの仲間によって盗まれた水晶塊だ。

「盗み出しておいて、いまさら返却とはどういう意図だ?」

「盗んだのは彼らの意図であって、私の意図ではありませんゆえ」

「つまり、あいつらの目を盗んで勝手に持ち出した、ということか?」

「どうせ彼らにも使いこなせませぬ」

ふん、と言って、魔王はその水晶塊を手元に引き寄せる。

「儂ももう老いた。それは自覚している。これの助けを借りねば、あれを取り除くことはできなかった」

「しかし、宝玉はまだもう一つあるとも聞いております」

「それを知ってどうする? おまえらにあれが使いこなせるのか?」

「私にはとてもとても。しかし...」


魔王は次の言葉を待たずに、言った。

「おまえの主人、もしくは巫女の末裔があれを使うというのなら、儂は最後の力を振り絞って抵抗する」

「これは失言でした。私はあるじからそのようなことは承っておりませんし、魔王様と敵対したいとも思っておりません」

「ならば、おまえのあるじに所有している宝玉をここへもってくるように伝えろ」

魔王の声が次第に厳しく、鋭くなっていく。

だがアニトラは

「伝えておきます」

と淡々と受け流した。


「ここにまいりましたのは、我があるじの使者としてでも、誘拐犯の手引きをするためでもありません」

アニトラはあらためて居住まいを正し、魔王と向き合う。

「魔王さまに、この水晶塊を手土産に、ぜひ教えていただきたいことがあってきたのです」

「ほう、申してみよ」

「この破魔の悪神は、死んだのですか?」


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