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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【4】 練り直し

「本国からの増援を待つべきだと思う」

コートブルクに集結したメーネムの部下たちの中で、ツァハリアスが提案した。

「そんなに強かったのか?」

誘拐作戦に参加しなかった戦士の一人がメーネムに問うた。

「ああ。ペロンやスロックがあんなに簡単にやられるなんて、予想外だったからな。それにこの戦力では、それ以上にやっかいな『山の魔王の宮殿』勢力圏に入るのは、無謀もいいところだ」

メーネムが出した結論に従い、フレーボムへの、この遠征部隊はしばしの間を置くこととした。


「メーネム、間に合うかどうかについては心配いらないと思うよ」

アニトラが意見を述べた。

「あの南方部隊に、魔王の堅陣は抜けないと思うから」

「そうか、あいつらを良く知るお前の意見だ。確かにそうなのだろう」

メーネムはそう言って、作戦の立て直しを始めた。

はたして彼らの本国とは?

いったいいかなる者たちが増援部隊として現れるのか。


会議が終わりかけた頃、アニトラが立ち上がって提案した。

「それまでの間、私が潜入しておくよ」

ツァハリアスがぎょっとして言う。

「しかし、お前だって顔は知られてしまっているんだろ?」

「そうだね」

アニトラは動じることなく、この老軍師を見つめている。

「確かに顔は見られたさ。あのお嬢ちゃんにも接近したしね。しかし、戦の場、そのものでは遭遇しちゃいない」

「何か気になることがあるんだな?」

メーネムに言われて、アニトラがニヤリと笑う。

「くれぐれも、俺たちの再集結と、増援を得ての上陸進行を悟られるんじゃねーぞ」

そう言って、メーネムはアニトラの潜入を許可した。



一方で、エギュピタスのキャラバン隊でも似たようなことが起こっていた。

「するとおまえは対岸への進軍は見合わせるべきだ、と言うのか?」

フーゴとギュルケスが、ブルーノの意見に不快感を示している。

「フレーボムの向こうはあの剣士たちの故国ですよ。どんな腕利きがいるか知れたもんじゃないです」

厳密にはゲルンは客人なので、故国ではないのだが、ブルーノ達の目には魔王配下と映っていた。

「音に聞こえたあの『山の魔王の宮殿』です。全員で攻め入って、勝算があるとはとても思えません」

「数年前の、コートブルクと『山の魔王』の戦闘。あれを思い出すと、確かにそうさね」

エレオノーラがブルーノの意見に乗っかってくる。

だが、フーゴがブルーノを睨みつけながら言った。

「まさか貴様はここであきらめて、おめおめと引き返そう、なんていうんじゃないだろうな」

「僕がそんなことを考えているとでも?」

ブルーノも、フーゴを下から睨み上げるように見ている。

キャラバン隊に合流した頃はこの強面の顔には恐怖を感じていたこともあったが、三年の月日を経て、十分に意見を戦わせられるようになっていた。

「何か、考えがあるのね」

ブレンダがブルーノを見つめながら聞いた。


「まず我々の目的を再確認したいです」

「目的?」とブレンダ。

「あの少女を確保するのか、それとも宝玉を手に入れるのか」

「そりゃあ宝玉よ」とエレオノーラ。

「今まではそれは同じ意味でした。しかしこれからは違ってきます」

ブルーノは会議に参加している一同を見回して、続ける。

「あの少女以外からも宝玉を手に入れる道が開けました」

「おまえ、まさか姫様を!」

ペリオラが抗議の声を上げ、一同の中にもざわめきが起こる。

「おばばは、ブレンダ姫に危険が及ぶことからそれを考えなかったのでしょう?」

話を振られたラーベフラムが頷く。

「しかし我々は『山の魔王の宮殿』に、解除コードがあることを知りました」

「だがそのコードは個別対応なので、姫の宝玉に使えるかどうかはわからんのだろ?」

フーゴが問い、ブルーノが答える。

「そうです。しかし、それを改変して、姫の宝玉に適応させることができるとしたら?」

再びざわめきが、会議に参加している者たちの中に起こる。


「改変して、姫の中から安全に宝玉を取り出すことができる、と?」

エレオノーラが慎重に、確認するように尋ねる。

「それはわかりません。しかし、宮殿の奥深くにかくまわれているであろう少女を奪取するより、コードの情報を得る方が現実的なのでは?」

「難易度は変わらないような気もするが...」

黒髪ポニーテールのシリアがポツリともらす。

「わかりました」

ブレンダがこう言って、まとめに入る。

「とにかく情報が必要ですね。ブルーノ、対岸への進行、諜報、情報収集、あなたにまかせても良いのかしら」

「僕は一介の鍛冶屋ですから、そこまでは。でも何人かの協力が得られれば」

「よし、じゃああたしの隊が同行しよう」

とエレオノーラが進み出たが、

「いえ、エレオノーラさんや興業の方々は顔を覚えられていると思います」

ブルーノはこう言って、先の戦いで矛を交えなかった者たちを選抜した。

「あとは連絡要員ですが、こちらは顔を覚えられていても良いので、姫、誰かお願いします」

ブレンダは少し考えて、パスカラとムルダを指名した。

ムルダはペリオラ隊の娼婦だが、衆に溶け込むのがうまく、ゲルンにも顔は覚えられていないだろう、という判断だ。

そしてパスカラは連絡要員にはうってつてけの蜘蛛糸使い。

ジャックやパエトールも同行するので、索敵、隠密、連絡には良い人選となった。


「ただしやつらは我々がここに来ているのは承知しているだろうから、慎重にな」

フーゴは自身も乗り込んでいきたかったが、自ら最前線で戦って、顔はしっかり覚えられているので断念した。



ゲルン一行が『山の魔王の宮殿』に戻ってから数週が過ぎた。

『山』では警戒を重ねていたが、対岸にいる二つの戦闘集団に動きがほとんど見られなかった。

「剣士様、いかがお考えですか?」

ゲルンの家に定期訪問していたヴィルトシュネーが尋ねる。

「おまえの警戒網を信じるよ。まだ『山』には入っていないだろう。フレーボムはわからないが」

「恐れ入ります。しかし...」

「そう。あの組織力を見ると、彼らが断念して帰国したとは思えない」

「いづれ確実にやって来る、しかしその日時がわからない、というのは、いささか気をもみますね」

「そういうことだな。面倒をかける」


部屋にはモーリーとシュリクもいて、この会談をじっと聞いていた。

「いっそのこと、こっちから攻め入っちゃうのは?」

横からシュリクが提案するが、モーリーにギロッと睨まれてしまった。

「...すみません」

思ったことがすぐ口に出るタイプなのだが、上司であるモーリーやゲルンには頭が上がらない。

「私は剣士様の許可さえいただければ、それでもかまいませんが?」

ヴィルトシュネーが微笑みながらゲルンを見るが、相変わらず笑っているのに表情がくみ取れない。

「コートブルクを敵にして、魔王さまに迷惑をかけたくないな」

ヴィルトシュネーに、と言うより、シュリクに向けてこう言った。

「しかし、こうも何もないと、動いてみるのも手かな」

こうも付け加えたので、ヴィルトシュネーが

「それは許可していただいた、という意味でよろしいのですか?」

こう言うと、ゲルンが首を横に振る。

「あいつらは増援を待っていると思うんだ。我々がそれに付き合うこともなかろう、って意味さ」

「と言うと?」

モーリーも会話に入ってくる。

「その間にすることと言えばなんだろう。情報収集じゃないかな」

「なるほど、この『宮殿』にはまだ来ていなくとも、フレーボムには間諜が来ている可能性がある、と」

ヴィルトシュネーがそう言って、ゲルンの返事を待つ。

「そうだ、その辺から探ってみるのはどうだろう?」


「剣士様、大変です!」

そこへ勢いよくトルカが入室してくる。

今日はヴィルトシュネーとモーリーが来る少し前に、トルカとフリーダがエルマリダを連れてやって来ていたのだ。

要件は、ニレの外出着ほかを仕上げるため。

「あ、ごめんなさい、大事なお話中でした?」

場の空気をいち早く読んで、謝罪するトルカ。

「いや、かまわんが、いったい何だ?」

「エルマリダが、その、暴走しちゃって」

やれやれ、という顔になり、ゲルンはヴィルトシュネーに

「それじゃその線で頼む。いまのところはフレーボム限定で」

と言って、二階へと向かった。



その頃二階ではエルマリダがニレを追いかけまわしていた。

エルマリダの過激な性格を見て、彼女が来るときにはフリーダの同行をゲルンが厳命していたが、どうにも止まらない。

「フリーダさん、助けてください」

部屋の片隅へ下着姿で追いかけまわされていたニレが助けを求める。

「エルマリダ、少しは落ち着きなさい。そんなだと、剣士様に出禁くらっちゃいますよ」

その瞬間、ニレは戸口の方に勢いよく走り出す。

「御主人様!」


扉が開くとそこにはゲルンが立っていた。

(剣士様が来ることがわかるのね)と、フリーダ。

「剣士様!」

エルマリダは委縮するかと思いきや、ニレの外行きの服装について、堰を切ったようにまくしたて始めた。

ここのつとおの女の子が、いつもいつも着の身着のままでいいわけがありません」

「私はご主人様がギデオで選んでくれたこの服で十分なんですけど」

ニレが半泣きになって、ゲルンの腰に抱き着いている。

「ニレちゃんには五日分くらいの外出着を常時ストックしておかなくてはいけません。剣士様からも言ってやってください」


どうしたものか、と考えていたが、ふとある考えが思いついた。

「エルマリダ、おまえが全部仕立てるのはさすがに大変だろう?」

「え、まぁ、そうかもしれませんけど、私は女の子の髪いじりだけでなく、衣服も好きなので」

「そこでだ。フレーボムまで出かけてみるのはどうだ?」

「え」

ニレ、エルマリダ、トルカと、口々に声をもらす。

「あそこは布地やら服やらも売ってただろう。ニレも観光かたがた、どうだ?」

「いいわね、それ」

最初に反応したのはトルカ。

「ニレちゃん、まだこの近在や、フレーボムの町は知らないでしょ? いい機会じゃないかしら」

この声で、瞬く間に翌日のフレーポム行きが決まった。

「ただし、エルマリダ。おまえは今後、私の許可なく『私の』ニレに触れたり、追い回したりすることを禁ずる」

ゲルンが強い声でエルマリダに言うと、

「はあい」と言って、苦笑いのような表情。

一方ニレは

「私のニレ...」と呟きながら繰り返し、両手で頬を包んでいて、フリーダはニヤニヤしながらそれを見つめていた。


計画をフリーダにまかせて、ゲルンはトルカを連れて一階に下りてくる。

まだヴィルトシュネーが残っていたので、自分たちが観光名目でフレーボムへ行くことを伝えた。

「剣士様、ありがとうございます」

何故かヴィルトシュネーが礼を言ったので、

「え? どういうこと?」

とトルカが二人を交互に見つめている。

「剣士様は自ら、囮役を買って出てくれたのですよ」

とヴィルトシュネー。

「そういうわけだから、おまえはニレの護衛をしっかり頼むぞ」

ゲルンがトルカにこう言い渡すと、少しずつ理解していく。

「はいっ! おまかせあれ!!」

元気よく、敬礼姿勢を取って、目を輝かせながらゲルンに応えるトルカだった。


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