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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第5章 宝玉
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【2】 調髪問題

自室に戻ったニレは、自室に運んでもらった軽めの夕食を食べたあと、眠気が襲ってきたので、寝台に潜り込んだ。

ゲルンはまだ書机の前でいろいろ考えているようだったので、

「ご主人様、お休みにならないのですか」と声をかけた。

ゲルンはその声に少しハッとして、

「そうだな」

と言って、寝台に潜り込む。

ニレはその左腕に抱き着いて、頬を左肩につけて目を閉じた。

ようやく着いた『山の魔王の宮殿』

しかしそこで再び災厄に巻き込まれてしまい、息つく暇もなく激しい展開に巻き込まれてしまい、ようやく落ち着けたのだ。


ニレが安堵の微笑みを浮かべていると、ゲルンは髪をそっと撫でた。

「もうだいぶ伸びて来たな」

そう言って頭頂部から側頭部へ、優しく掌を動かしていく。

「そろそろカットするか? もちろん伸ばしていってもかまわんが」

「御主人様は、ショートとロング、セミロングではどれがいちばんお好きですか?」

「うーん、特にそういう好みとかはないなあ。似合ってたらどっちでもかまわないよ」

「私は何が似合うでしょうか?」

「ニレはなんでも似合うよ」

具体的な答えが聞きたかったのに、うまくはぐらかされてしまった感じがしたのだが、

「可愛い娘は、どんな髪型だって似合うものさ」

そう言われて、頭を布団とゲルンの腕の間にうずめてしまった。

「そういうことにはやかましい、じゃなかった、詳しい連中が多いから、明日報告が終わったら相談してみよう」

と言って、その頭部をまた優しくなでてみる。

頭を抱きかかえられるようにして、ニレは眠りの中に落ちていく。



翌朝。

予定通り、ゲルンはニレを連れて、フリティベルン、エルゼベルトとともに魔王への謁見に臨む。

今回は時間的に余裕があったこともあり、ゲルンは剣士の正装だ。

黒衣の剣士として登録していたこともあり、黒を基調にした装束である。

漆黒のチュニック、パンツの上に、肩当や礼服用の銀色ベルトを締め、これまた黒の鞘に納められた礼刀。

父から受け継いだ黒の魔剣は執事に預け、臨んでいる。

ニレはドレス仕様ではあったが、軽めのもので、こちらは白とピンクの可愛い組み合わせ。

フリティベルンとエルゼベルトも魔王の血族ではあっても正式の謁見の場となるため、礼装に身を包んでいる。


一方の魔王も、ゲルンとよく似た黒衣の礼服が基本ではあったが、こちらはゆったりと、トーガのように着こなしている。

ゲルンが、ニレに起こった変化について語る。

そして、ベルトルド以下の戦士に協力してもらい、トルカ達も加わって対岸へ追撃したこと。

誘拐犯の一味は多くを切り伏せたものの、肝心のニレが何者かに操られるように、森へ飛び去ってしまったこと。

ようやく追いついた時、ニレの中に魔物が宿っていたこと。

森の中での巨大なハリネズミのような魔物と戦ったこと。

ギデオの町で襲われたキャラバン隊に再び追撃されたこと。

ニレの中にいた者と交渉をして、敵にならないようにしたこと。

などを語り、いよいよニレの中にいた魔物について、まとめてみた。


「そいつは『魔焔公』と呼ばれていて、今もなお、ニレの中の宝玉に宿っています」

「今もいるのか?」

ここでようやく魔王が口を開いた。

ゲルンが肯定すると、魔王が

「直接聞いてみよう」

と言い出した。

ゲルンが頷いて、ニレを近くに呼び寄せると、そのカラダを支える。

魔王がニレに、正確にはニレの中にいる何者かに話しかける。

「魔焔公フラメルよ、我が前に目覚めてくれ」


これを聞いてゲルンは(やはり魔焔公とは知己であったのか)と考えた。

なにしろ、魔焔公の名前は、自分たちもまだ明かしてもらってなかったから。

しかし魔王が呼びかけても、ニレに何も反応が起こらなかった。

昨晩からまるで消えてしまったかのように出てこなかったので、少し不審に思い始めた頃、

「俺を呼んだのか? 誰だ?」

と、眠そうな声がニレの口から発せられた。

(ひょっとして眠っていたのか? しかし昨日の話では、眠りなど必要がないような感じだったが)

そう思いながらゲルンはニレを見ていた。


ニレは頭をコキコキと動かすような仕草のあと、魔王を正面から直視する。

「うん? おまえ、もしかしてドヴレ王か? 名前は確か...」

こうもらすと、魔王の方も、

「わしだとわかれば、別に名は思い出さずとも良いぞ」

と軽く応答している。

「ふん、お前が先に俺の名前を呼んだんじゃねーか」

相変わらずニレのカラダからニレの声で言葉が出てくるので、違和感たるやこの上ない。


「魔王様、やはりご存じでしたが」

フリティベルンがそう言って、説明を求める。

「いや、儂もこいつの存在を知っておっただけで、それほど詳しいわけではないが...そうか、あれから肉体を失っていたのか」

「まあな、南方でいろいろあってな」

ニレはゲルンの手を離れて、魔王の玉座に近づく。

「それでこの黒い剣士と契約を交わし、俺の肉体を探してくれる契約を結んだんだ」

ゲルンの方をちられと見て、また魔王の方に視点を移す。

「それにしてもドヴレの王よ、老けたのう」

「自分の肉体を失ってしまった者が、何を言うか」

魔王の方も薄笑いを浮かべている。

「ともかくそういうわけなんで、出力先が決まるまで、しばらくここにやっかいになる。その間、この黒衣の剣士の下にとどまることになった」

ふむ、といって魔王はしばらく考えたあと、

「まあ良い。その辺のことはゲルンにまかせよう。そういう契約になったんだな?」

ゲルンの方に確認すると、ゲルンが頷いた。


「そこで魔王さま、今から報告することはたいへん心苦しいのですが...」

そう言ってゲルンが、恐らく近日中に上陸し、攻めてくるであろう、二つの戦闘集団について語った。

「キャラバン隊の方は、数こそ多いものの一度ならず戦ってますので対抗策も練れるのですが、もう一方の背後関係がわかりません」

「ふふ、さようか」

何故か魔王が嬉しそうに声を出す。

「黒衣の剣士よ、やっと儂を頼ってくれる、というわけだな」

「はい。恐れながら、ニレをさらった連中への対処をお願いしたく」

「コートブルクとの戦争以来、ここには腕がなまっている者も増えたからのう。儂としては大歓迎」

そう言って、フリティベルンにフレーボムからやって来る者に対しての防衛、諜報を強化するように命じた。

すると魔焔公が、ゲルンの方をチラと見て

「俺も参加していいか?」

と言い出してきた。

「俺ならあの程度ならすぐにカタがつくぜ」

しかしこれにはゲルンが渋い顔をする。

「あなたの力は強すぎる。この山を燃やされて、はげ山にされてはかなわん」

これを聞いて魔王か

「そうそう、お前はその娘の中にいるときは、ゲルンの指示に従ってくれ。儂とゲルンの考えは、ほぼ同じと思ってくれて良いぞ」

と言ってくれたのだが、ゲルン自身は(過分な評価だ)と感じていた。


報告が終わり、四人が立ち上がって戻ろうとすると、魔王がゲルンだけを呼び止めた。

ゲルンはニレを先に帰らせて、謁見の間から少し離れた魔王の居室に招かれた。

小さな小部屋だったが、入室するや、扉がしまり、部屋全体に魔王の強力な遮蔽結界がはられた。

ゲルンが驚いていると、

「魔力的に聞き耳をたてられても困るのでな」

魔王がそう言って、さらにその顔をゲルンに近付けて来た。

「念のためだ。確認したいことがある」

そう言って、少し黒くなった白銀の髭面を近づけてきて、耳打ちするように言う。

「魔焔公が、ニレの中で、さらにその中の宝玉に住んでいるのは間違いないか?」

小声で聞いてきたので、ゲルンもそれにあわせて小声で答える。

「はい、そのはずです」

すると魔王は

「魔焔公に『新しい肉体』を用意すフリだけは続けていろ。しかしできるなら、それは用意せずに、宝玉の中に住まわせておけ」

意味が分からず、少し顔を離して魔王を見る。

「内密にな。やつに気取られるな」

とゲルンの瞳をじっと見据えて、魔王が言う。

「なに、悪いようにはせん。もし万一キレられた時はそれはそれで新しい肉体を用意してやっても良い。しかしできるだけ引き延ばせ」

呪文のような、意図がよくわからぬ命令だったが、命令それ自体は大して難しいことでもないように思えたので、ゲルンは了承した。


はなれに戻ったあとに、ゲルンはニレを連れて新居へと戻る予定だった。

ところが戻ってみると、ニレはフリーダと女官たちに取り囲まれてしまっていた。

「御主人様、助けて」

ニレがゲルンの腰に抱き着いて、助けを求めてくる。

「なんだ? 何が起こったんだ?」

するとフリーダが、

「剣士様、ニレちゃんを調髪するんですか? それなら私たちにぜひまかせていただかないと」

と言って、連れて来た数人の女官に目で合図した。

「待て、いったいどういうことだ」

ゲルンが状況が飲み込めず、ニレを見ると

「ご主人様が私の髪をカットしてくださる、と少し言ったら、フリーダさんが...」


「フリーダ、気が早すぎる。お前に頼もうとは思ってたが、今すぐにってわけではない」

「剣士様! 女の子の髪は生き物なんですよ。日一日と変化しています。思い立ったときこそ、すぐにやってしまわないと」

すると後ろの方からフリーダより少し年上の女官が目をギラギラ輝かせながら、

「こんな美しい髪をいじらせていただけるなんて、もう一刻も早く!」

などと言っていて、目がかなり怖い。

「あーあ、エルマリダのエンジンに火が点いちゃったよ、フリーダったら」

女官たちの背後で、ルルがトルカに呟いている。

「しかしなんでエルマリダを引き込むかなぁ」とトルカ。


「待て、おまえら。まだ今は髪の長さをどうするか、というのを考えていた段階だ。切りそろえていろいろとか、髪型とかはまだ先だ」

ゲルンがたまらず声を出すと、フリーダの熱が少し下がってきたようである。

しかしエルマリダという女官は、かなり鼻息荒く、ニレの髪を触っている。

「そ、そうですわね、ニレちゃんの髪をいじれる、と思って少し興奮してしまいました」

そう言ってニレに抱き着こうとしているエルマリダを引きはがす。

「髪をいじるとか、ニレはお前たちの人形じゃないぞ。少し頭を冷やしてくれ」


エルマリダ以下の女官も少し落ち着いてきて、フリーダの後ろに隠れてしまった。

「剣士様、恥ずかしいところを見せてしまいました。ニレちゃんのファッションが担当できると思って、つい」

しおらしく謝っているが、エルマリダの瞳の中には、まだ危険で妖しい炎がチラチラ燃えているように見える。

「髪型とかは今はまだいい。少し伸びてきたので、そろえてやってほしいだけだ」

ゲルンがニレを自分の元へ引き寄せる。

その肩に後ろから手をおろし、

「まだロングは無理だろうから、ショートかセミロングか、その辺のところも考えといてくれ」

こう言って、ニレを自分の手元へ戻した。



ゲルンがニレを連れて自宅へと戻ったあと、はなれではさっそくフリーダとエルマリダ達女官やメイドが、喧々諤々の髪型論議。

「おーい、髪型はカットしてからのはずだぞう」

とルルが鎮めようとするが、フリーダたちは聞く耳持たず、論議は続く。

「あそこにいる二人みたいに、ガサツに育ってしまってはいけないから、最初から綺麗なロングを目指すべきなんです」

相変わらずフリーダはルルとトルカを例に出して言いまくるので、ルルとトルカにもかなり飛び火してしまったのだが。

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