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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
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【9】 魔焔少女誕生

森の中、樹間に身を潜めていたゲルン達だったが、ブレンダの一行が正確に近づいてくる。

姿を知覚していたのはフリーダだけだったが、ゲルン達もその気配は感じ取れていた。

「正確に近づいてくるな」

ゲルンが漏らすと、フリーダもそれを認めた。

「この昼でも暗い森の中、偶然進路が同じだったとは思えません。もちろん私たちの痕跡は、移動の都度魔術的に消しています」

直線的に逃げているのではなく、時に曲がり、時に直進している。


「宝玉を感知されているのかも知れんな」

とゲルンがぽつりともらす。

「魔物の森付近で待ち伏せされていた時も、正確に我々の進路上におりました。向こうにも千里眼がいるのでは?」

メルシュが言うと、ゲルンも頷いた。

「そう考えるのが妥当かな」

「じゃあどうするの、剣士様。この森の中で迎え撃つの?」

「我々の武器ではかなり不利ですぞ」

ルルとメルシュが交互に口をはさむ。

「おいかけてきているのなら、彼らをこの森に残して、脱出する、というのは?」

ダイクの提案が適切なように思えたが、しかしそれは、その時まで追いつかれない、という前提が必要だ。


結論の出ないまま、ゲルンは遠回りしつつ、森の出口、西側の入り口を目指して迂回する。

だが、どんどん追っ手の気配が近づいてくる。

ここに至って、ゲルン達もかなりの数が動員されているらしいことがわかってきた。

焦りが見え始めた、その時。

「俺が蹴散らしてやろうか?」

突如ニレがニレの声で物騒なことを言い始め、ニヤリと笑った。

トルカとルルはぎょっとして、ニレの方を見つめ、口をパクパクさせている。

「魔焔公、約束をたがえたか? おとなしくしているはずではなかったのか」

ゲルンが思わず言ってしまうが、魔焔公はまったく動じない。

「約束は守ってるぜ。この娘の意識には干渉していない。ほれ」

そう言うと、今度はニレが声を発する。

「剣士様、私の意識は、カラダは奪われていません」

「どうだ? 俺様が力を貸してやれば、あいつらなんざ一瞬でこの森ごと、消し炭になるぜ」

ニレの身体から、ニレの声で交互に別人格の声が出てくるのに、一同しばらく言葉を継げなかったが、ようやくゲルンが口を開く。

「いや待て、それはダメだ。炭焼き小屋を見ただろう? あそこの住人、おそらく樵はまだこの森の中にいる。巻き込んではいけない」

そう言って、再び歩き始めた。



「それで、おまえさんの言う魔焔公ってのが『宝玉の少女』に取りついてるってことなんだね?」

キャラバン隊では森の入り口に幌馬車隊を残し、戦闘のできるメンバーがラーベフラムの指示を受けて、森の中を進んでいた。

ただしラーベフラムは老体ゆえ幌馬車に残り、伝心符を使って森に入ったエレオノール達に指示を出している。

その戦闘部隊にはテトロも参加し、後方で進撃を見つめている。

そんなテトロにエレオノールが話しかけたのだ。

「そうよ。でもこれからたいへんなことになるかもね。もし魔焔公が彼らに説得されて、あっちの側に立つと、あなた達は絶対に勝てないわ」

と言って、小さな鉄琴を打ち鳴らすように、キャラキャラと笑っている。


一方幌馬車に残ったラーベフラムはブレンダに、

「あの魔焔公がきゃつらと共闘しているのなら、フーゴ達の手には負えないかもしれません」

と不安を漏らしている。

「あの鳥が言う『魔焔公』は、ほんとにおばばの知っている魔焔公と同じ者なの?」

ブレンダは既にエギュピタスが崩壊した時のこと、四つの宝玉がそれぞれ分かれて持ち出されたことは聞いていた。

その中に、自分も含まれていたこと。

ブレンダ自身は幼かったため、全容は知らされておらず、ラーベフラムとともに逃げ延びていたこと。

持ち出された他の巫女の護衛にあたっていたのが、その魔焔公だった、ということ。

だが、魔焔公そのものについては、護衛が務まるくらい強力な存在、というくらいしか聞かされていなかった。


魔焔公の真性というか、実力は、わしも詳細には知りません。エギュピタス創建の、太古の昔からいる、という程度しか。

戦い好きで、強力な火炎神である、ということは知られていましたが、その精神は幼く、それゆえ危険でもあった、と。

永遠に生きるがゆえに、成長することなく純粋であること。

その純粋さが時に残虐さにもつながっていたこと。

それゆえ魔焔公を使う時は、国がそれに見合うだけの強さを持っていないと危険であったこと。

ですが、エギュピタスが滅びる時、魔焔公を使うと、我々も全滅しかねない、というのが、時の王の判断でした。

しかしかと言って、国自体がいままさに滅びの時。

それゆえ神官長が魔焔公の力を限定的に解除して、巫女の護衛につけたのです。

その後どうなっていたのかわからなかったのですが、こんなところで出会うことになるとは。


「あの鳥の話を聞くと、伝えられていた魔焔公の性格とよく似ていますから、間違いないと思われます」

そう言ってラーベフラムは話を終えた。

「ただ同時に、魔焔公が唯一宝玉を恐れていたとも聞いております。向こう側にいるのも、その辺に理由があるのかもしれません」



森の中では、幌馬車隊が待つ出口とは違う出口、その直前で、ゲルン達はフーゴ達に追いつかれた。

こうなっては戦って、個別に突破していくほかはない、そう判断してゲルンは各々に集結場所を伝えて散開しようとする。

ゲルンはニレを連れて散ろうとするが、その時魔焔公が言う。

「おい、テトロ、おまえ、そっち側についたのか?」

と、エレオノーラ達の後ろにいた鳥に向かって話しかける。

「まさか! 私は観察者よ。面白そうなことになってるじゃない」

と、鳥が人語を話した。


これを聞いてゲルンがニレの姿の中にいる者に尋ねる。

「あの鳥はお前の仲間なのか?」

「そんなわけあるかい。あんな弱っちいの」

すると鳥がキャラキャラキャラと、高い声で鳴いた。

「きゃはははは、戦いの強さでしか価値を判断できない、ハッピーな頭の魔焔公らしいセリフね」

そして後方に羽ばたいて飛びのき、

「でも興味あるわぁ、あなたがなんて言われてその汗くさいニンゲンに説得されたのか」

この魔物たちの雑談のような話の中で、ゲルンとニレはキャラバン隊に囲まれていく。


ゲルンに向かって魔焔公が嬉しそうに言う。

「さっき言ったよなぁ、俺の宿るこの肉体が危険になったときは、俺がこのカラダの支配権を握る、って」

ニレの顔が美しく、残虐に歪んでいくのを見て、

「待て、この森を焼くな」

ゲルンは言ったが、魔焔公が

「俺に命令するな」

と言って、ふわり、と宙に浮く。

「キャキャキャキャキョーン」

と叫んでテトロが後方に飛んでいく。

少女がゆっくりと浮き上がる姿を見て驚いていた戦士たちだったが、それもほんの一瞬。

浮き上がったニレを中心にして高熱の光球が形成され、そこから糸のような熱線が放たれた。

その細い熱線がエレオノーラ隊の戦闘員、フーゴ隊の戦闘員、何人かにピンスポットで的中し、ボッと燃え上がる。

沸き起こる悲鳴、驚く両者。


「どうだ、この森を焼くことなく、ピンポイントで始末してやったぜ。すごいだろ」

いかにも得意げに小さな胸を反らす、魔焔公。

「ついでに、道を作ってやる」

そう言って、右手を上げ、目指す方角を指さすと、その人差し指から先ほどよりもさらに細い熱線が放たれて、地面を焼いた。

その焼かれた地面は、周辺に熱をばらまきながら、直線の焼け跡を作る。

一定の幅で、森の木が、草が焼かれ、さながら道のような進路が生まれた。


「すごいな。賞賛するよ。だからもうしばらく、ニレに意識を渡してほしい」

さきほど命令されるのを嫌ったことを思い出し、頼みこむ形でゲルンが言う。

「もちろん命令じゃない。これはお願いだ、魔焔公」

穏やかに言われて気分が良いのか、魔焔公は引っ込んだ。

「剣士様?」

と戻ってきたニレの人格がゲルンを見ると、ゲルンはニレを抱きかかえて、一目散に魔焔公の作った道を走っていった。


フーゴが追撃しようとして立ち上がりかけるが、

「バカね。あんたたちも早く逃げた方がいいわよ」

と、舞い戻ってきたテトロが忠告する。

「あんたたちにはわかんないだろうけど、この戦いはあいつらが逃げたんじゃないわ。魔焔公が見逃してくれた、と解釈すべきよ」

フーゴはそれを聞いて、一瞬のうちに燃やされて灰燼と化してしまった仲間の痕跡を見る。

「そうだな、そうかもしれんな」

と言って、残存部隊をまとめ、いったん退却することにした。

「テトロ、あの化け物について、詳しいことを聞かせてもらうぞ」

「あーら、化け物だなんて。魔焔公が聞いたら、あなた、一瞬で消し炭よ」

追跡不能と感じて、迎撃隊はいったんブレンダたちの元へと戻った。

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