表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
38/115

【8】 テトロ

コートブルクに到着したブレンダのキャラバン隊が、東へ向かった。

早朝に出てオストールに到着。

ラーベフラムの水晶珠による千里眼で、宝玉はさらに東、森の方角を示した。

「森か...」

巨漢ギュルケスが少し嫌そうな顏をした。

あのペスター一味との戦いがどうしつもチラつくのである。

それを聞いて戦闘部隊の指揮官フーゴが肩をたたいて、

「あんな化け物どもはもういないさ」

と言って慰労する。

聞かれてしまったか、という顔をしてギュルケスが詫びた。

「いや、すまない。俺たちが気弱になっちゃいかんよな」

ギュルケスはブレンダたちが乗る別の幌馬車をチラりと見た。


そのブレンダの乗る幌馬車。ラーベフラムが先ほどから難しい顔をしている。

それを見たエレオノーラが年老いたかつての老巫女に声をかける。

「どうした、おばば、何か異変でもあったか?」

ラーベフラムがこの声にハッとなって、曲芸団のリーダーでもあるエレオノーラを見返す。

「いや、少し変化が出てきてな」

それを聞いていたブレンダが

「どうしたの? 方向が間違っていたとか?」と聞くと、

「いえ姫様、方向はおそらくこれで間違いありません。依然として強い宝玉の反応を東から感じます」

「じゃあなんだよ。不安になるからちゃんと聞いておきたいな」

と、広い幌馬車の床に寝そべっていたパスカラがこの会話に参加してくる。

この幌馬車にはブレンダとその重鎮たち、そして軽業師の少女が数人乗り込んでいる。

馬車と言ってもほとんど乗合馬車のような大きさで、まるごと部屋が移動しているような広さがある。


「あまり千里眼を細かなところまで信用されても困るんじゃがな」

ラーベフラムが顔を起こし、この幌馬車に乗る全員に語るように言った。

「姫様もその前提で聞いてくだされ。どうも宝玉の反応が変化しておるようなのです」

「変化って?」とブレンダ。

「はい、これまで我々が接触し、あるいは戦ったあの宝玉の少女の一味。少女の体内にはふたつの宝玉を感知しておりました」

「そうだったわね」

「ところが今、というか昨日から、宝玉反応が一つしか感じられないのです」

何人かはふうん、という顔つきだったが、その意味を理解しかねていた。

「それは、宝玉を持つ者が変化したってことなのかい? 別の宝玉持ちがひっかかったとか」

エレオノーラの問いに、ラーベフラムがこうべを振って続ける。

「いや、色がまだ赤色なので、恐らくあの少女で間違いないと思う。だが二つあった宝玉が一つになっておる」


「つまり、宝玉が一つ失われてしまっている、ということなの?」

「かもしれませんが、わかりません」

ブレンダの疑問に答えつつ、ラーベフラムは自分の考えを述べた。

「宝玉が一つ失われた、あるいは取り出されたか、もしくは二つが一つに合わさったか、いろいろ考えられますが、わたしは取り出された、と思います」

「あの連中に、一つ利用されてしまった、ということね?」

ブレンダの言葉に、床に寝っ転がっていたガラがからだを起こして

「それじゃ、急がないといけないじゃないか。もう一つも取り出されてしまったら」

と勇み立つのを見て、

「だから最初に言ったように、わしの千里眼をそこまで細かく信用せんでくれ。わしは魔女どもが使う千里眼ほどには習熟しておらんでの」

と熱を冷ますように言うが、

「何を言う。おばばの千里眼のすごさは、あたしたちみんな知ってるよ」

とガラが言うと、床に寝ころんでいた軽業少女たちが一様に頷く。


「で、おばば様、おばば様のお考えはどうなのです? 残った宝玉も取り出されるとお考えですか?」

年少の美少女スーディアが尋ねる。

「ここから先は推測じゃ。そのつもりで聞いてほしいが、もう一つの方は取り出されないと思っている」

「おばば、根拠を聞いていいかい?」とエレオノーラ。

「うむ、まず一つになったと感じたとき、つまり昨日から時間が経っているのに取り出されていないこと、そしてあの噂話」

「女の子が火焔球を出しながら飛んでいった、というアレ?」とガラ。

「さよう、それは宝玉を使っていたということではないかな」

ラーベフラムの考えを聞いてエレオノーラ。

「なるほと、それで一つに感じてしまった、ということか?」

「そうかもしれんしそうでないかもしれん。しかし未だに宝玉反応は感じている」

「それならばやはり急いだほうが良いのかもしれませんね」

スーディアの言葉に頷いたラーベフラムは、御者席へ向かって言った。

「そんなわけじゃから、少しでも早く頼む」


幌馬車が速度を上げたのを見て、別の馬車群も速度を上げてついていく。

「速度が上がりましたね」

ブルーノがこう言うと、同乗していたジャック・パレやパエトールが

「急ぐ、ってことか」と言う。

「あの剣士どもが近いのか、急ぐ用事があるのか」

パエトールが言うのを聞いて、

「ともかく、すぐ戦いになってもいいように備えておく必要があるね」

ブルーノもこう言って緊張を高めていく。



「フリーダ、何かわかるか?」

遠くから迫る気配を感じたフリーダにゲルンが尋ねる。

「けっこうな数です。こちらに向かってきます」

「この森に?」

フリーダが感知した気配に、違和感を感じたのか、メルシュが不審そうに尋ねる。

「派手に火球が飛んだから、軍隊でも出て来たか?」

「いえ、そんな感じじゃありません、軍隊と言うより、馬車隊のような」

フリーダのこの言葉に、トルカがハッとしてゲルンに言う。

「剣士様、もしかしてあの曲芸団が?」

トルカの言葉に一同緊張が高まる。

「なんだ、その曲芸団と言うのは」

ダイクにはまだ詳細を伝えてなかったので、疑問の声が上げった。

「俺たちが南方で戦った相手だ。ニレを狙っている」

ゲルンがダイクとその二人の部下に簡単に説明すると、

「そうか、で、逃げるのか? 戦うのか?」

と聞いてきた。


「逃げよう。あの数と戦うのは不利だ」

「でも剣士さま、あいつらは馬車だよ」

トルカが心配そうに声を出すが、

「森の中でやりすごしませんか?」

とメルシュがさらに深い東へと続く森を指さす。

ゲルンがその提案を受け入れ、森の中へ入っていく。

だがゲルンは知らなかった。

キャラバン隊のラーベフラムが、ニレの宝玉をしっかりと感知していたことを。


森の中に入っていくゲルン達。

それを見つめる目が、炭焼き小屋横の藪から屋根の上に少しずつ移動していく。

それは、鳥のように羽ばたきながら、じっと見ていた。

ゲルン達が森の中に入り終わると、その鳥のようなものは、今度は西の方に視線をやる。

「モグネスもだらしないわね」

そう呟きながら。



しばらくして東の森に到達したキャラバン隊は、森の中を進み、炭焼き小屋に到達する。

少し切り開かれたところだったので、主だったものがパラパラと馬車から降りて来た。

地面がえぐられた痕、屋根に残る焦げ跡を見て、

「誰かが戦った痕のようですな」

とジャックが言う。

地面にめり込んだ鋼のような獣毛を拾ったエレオノーラ。

「魔獣の毛だね、こりゃ」

と言ってブレンダに報告する。

「やはり魔物の巣か」

そう言ってロースやジャッケルたちが身構えていると、上の方から声が聞こえた。

「魔物の巣なんかこの辺にないわよ」


可憐な少女の声が、炭焼き小屋の上の方から聞こえた。

一同は、そこに美しい虹色の羽を持ったクジャクのような鳥が蹲っているのを見た。

「おまえは何だ? 人語を解する魔鳥か?」

ギュルケスの言葉を聞いて、キャラキャラキャラと小さな打鐘を打ち鳴らすような笑い声をあげて、その鳥がバサッと翼を広げた。

屋根の上に浮かび上がったと見るや、ゆっくりと舞い降りてきて、一同の前に着地する。

「あなたたち、魔焔公を追ってきたの?」


魔焔公、その言葉に聞き覚えがなかったため、

「魔焔公?」

と聞き返したフーゴ。

「あら、するともう一方、黒衣の魔剣使いの方を追ってきたのかしら。わたし、一部始終を見てたのよ」

と、その孔雀のような鳥が言った。

護衛の剣士達が対応に困っていると、ブレンダが後ろから出てきて、

「私たちは黒衣の剣士と幼い少女を追ってます。見たことを教えていただけませんか?」

と問うと、鳥は

「あなたがこのパーティのリーダー?」

と言って、少し首をかしげる。

どこから見ても鳥なのだが、言葉を話し、その頭部はすこぶる美しい。

白から薄青を経て頭頂部で朱色に変わる顔。

金色の嘴と、虹色、としか表現のしようがない、見る角度によって多彩な色に変化する瞳。

頭頂部には暗青色の鶏冠がついているように見えるが、まるで羽毛のように揺れている。

「これは失礼しました。私の名はブレンダ。確かにこのキャラバン隊のリーダーです」

ブレンダはそう言って、キャラバン隊の前にすっかり姿を見せて、その鳥と向き合う。

「私はテトロ。森を住処とする、千年鳥よ」

その鳥はそう言って、まるで自分を誇示するかのように翼を広げて、震わせて見せた。

薄いレモン色から先端に行くに従って濃い赤や銀色や青、緑などの色彩が広がっている。

立ち上がると、人間のこどもの背丈より少し高く、成人女性よりは少し低い高さになる。


「それではテトロさん、差し支えなければここであなたが見たもの、顛末を教えていただけないでしょうか」

「かまわないけど、ただで、というのは嫌だわ」

この言葉にフーゴが後ろで少しムッとした表情になるのがブレンダにはわかったが、

「情報の代価ですか、それは当然ですね」

と言って、譲歩して見せる。

「しかし見ての通り私たちは旅の途中です、それほどの大金を持ち合わせていません」

「お金なんていらないわ。それは人間の世界の代価だもの」

そう言ってテトロは胸をそらす。

「私が求める代価、それは情報。情報には情報。私の見たいもの、知りたいものを教えてほしいの」

「それは、何をお教えすれば」

「私があなた達についていき、見聞きしたい。それを邪魔しない、それの手伝いをする。そんなところでどうかしら」

少し意味が分からずに詳しい説明を求めると、

「私は変身術とかが使えないの。単身で人間社会へ入ると危険。あなた達と同行して、他の人間から守ってほしい、ということよ」

「そんなことでしたら」

「もちろん私は戦闘には参加しないし、させないでほしい」

こう言って、またもやその翼をはばたかせ、広げて見せた。


ブレンダが了承すると、テトロは目の前で起こったできごと、そして少女と剣士たちが、さらに森の奥へと逃げていったことを教えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ