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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
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【7】 異文化交流

魔物の上半身から放たれた獣毛が、針のようになってマルシュ達の上に降り注ぐ。

ザックハーだけが建物の影で、自分の武器が使える準備をしていたが、彼以外の戦士たちは建物の影から四方に散ってこの針を躱す。

しかしその獣毛は針というよりは、杭と言った方が良く、大地に着弾するや、ドンッ、と地面を削っていた。

直撃すれば、一本であっても即死級と言えるだろう。

しかも、その巨体に似合わず、モグネスの毛針は敏捷に四方へ放たれ、速度も速かった。

とはいえ、メルシュ、トルカ、ルル、ダイクなどは勝負慣れしていることもり、難なく躱していく。

随行していたダイクの部下二人も、ダイクとともに散らばって、この針のような獣毛を躱している。

炭焼き小屋の影では、ザックハーが子飼いの「白い怪物」達をゾロゾロと地面に下ろし、機会をうかがっている。

もう一人、フリーダも影に隠れて戦況を見守っていたが、彼女はザックハーに、そのタイミングを知らせるべく、戦を見ている。


モグネスの毛針を軽快に避けていたトルカが、湾曲刀を抜きモグネスに投げつける。

湾曲刀は回転運動をしつつ円形運動をとり、モグネスの頭部を狙った。

ガキン、とまるで金属音のような音を立てて、湾曲刀が頭部を打つ。

その湾曲刀は、さながらブーメランのように回転してトルカの手元に戻った。

モグネスは頭部を打たれたが、ほんの少し毛針となる獣毛が飛び散った程度。

全身を覆う体毛は、見た目通りの強靭さを持っていた。

「このガキ!」

モグネスは反撃を食らって頭に血が上ったか、トルカ目掛けて毛針を集中する。

トルカはそれも織り込み済みとばかり、華麗に、軽快に躱していく。

トルカの剣舞は、攻撃のみならず、守勢に回ったときでも軽快に、華麗に攻撃をかわしていく。

実際、毛針を飛ばしてくるのでモグネスの武器は飛び道具のようにも見えるが、そういった戦いにも経験があった。

すると今度はルルとダイクが左右から槍を使ってモグネスのからだを刺した。

しかし今度も剛毛に弾かれて、皮膚の上にすら届かない。

モグネスもこれにはどうということもない、と言うがごとくに全く問題にもせず、四肢を動かし、槍の攻撃を払おうとする。


ルルの軽槍はトルカ同様、走り回り、跳ねまわる攻撃に適していて、モグネスの毛針や四肢の攻撃を避けつつスキをついて突き出す戦法だ。

もちろんその獣毛が槍を通さないことはわかったのだが、相手を刺し貫くよりも、注意を引き付ける効果を狙っているのだ。

それに対してダイクやメルシュの槍は重槍で、どっしりと構えて刺し貫くことを目指しているが、獣毛のお陰で突破できない。

そこでダイクの部下も含めた四人は、その立ち位置を替えつつ、軽い攻撃になっている。


「あの剛毛をなんとかしないとダメね」

建物の影に身を潜めていたフリーダが呟くと、

「それくらいならできるかもしれん」

と、ザックハーもまた小さな声で呟く。

「じゃ、お願いね、次の攻撃のあと、私がタイミングを知らせるから」

フリーダがこう言って、ザックハーの前、建物の影ギリギリのところに移動する。

正直言ってフリーダも、ザックハーのあの白い怪物に近づくのは嫌だったが、そうも言っていられない。


トルカがモグネスの周囲を右に左にと駆け回りながら、湾曲刀を繰り出す。

湾曲刀は命中しなくてもその動きが大きいので、モグネスの目を引き付けられる、

それに気取られると、ルル、メルシュ、ダイクらが槍攻撃を行う。

この連携した動きに、モグネスは苛立ってきた。

ちょこまかと動き回るトルカとルルに照準を絞って身をかがめた時、メルシュがその頭部に槍を投げつける。

槍は一直線にモグネスの目に向かっていったが、そこで驚くべきことが起こった。

眼球が槍を跳ね返したのである。

モグネスは槍を投じたメルシュの方を向き、得意げに言う。

「へっへっ、俺の目玉が弱点だとでも思ったか?」


「鋼膜ね」

それを見ていたフリーダが呟く。

「鋼も弾く魔物の生体膜...普通の動物の粘膜とは全然別のシロモノってわけか」

ザックハーもモグネスの眼球に驚いていたが、フリーダが、

「でもチャンスだわ、そろそろ出番よ」

と言ったので、ザックハーが白い吸血鬼達を、音もなくモグネスの背後に放った。


嬉しそうに自分の利点を語るモグネスに対して、トルカがまたもや湾曲刀を投げつける。

今度は頸部を狙ったが、これは位置が低かったせいか、視覚でとらえられ、右手ではねのけられた。

コースを変えて落下してきた湾曲刀を受け止めるべく、トルカがモグネスの前肢の下に潜り込み、キャッチする。

だがモグネスは待ってましたとばかり、今度は両手で拳を作りトルカに振り下ろそうとした。

その時、ギャッ、という叫びを発して、モグネスの動きが止まる。

ルルがそれを見てその場へと跳躍し、トルカを抱えて脱出。

「何が起こったの?」

二人がモグネスをもう一度見ると、その尻尾の部分に、白い斑点がついているように見えた。


モグネスの尾は短く、尾と言うより尾てい骨が延長している程度にしか見えない。

だがその短い尾に、ザックハーの白い吸血鬼達が取りついたのだ。

鋼のような剛毛をかいくぐり、肌に到達した彼らは、一斉にその皮膚にかみつき、引きはがそうとする。

痛みと衝撃に動きをとめたモグネス。

するとそこへさらに、残りの吸血鬼達が群がってくる。

ザックハーの吸血鬼は成人男性の腰程度の背の高さなのだが、白い芋虫のような凹凸のない体型、巨大なモグネスとの対比から、寄生虫がたかっているように見える。

白い吸血鬼は腰、下肢の上部、といったあたりへ上って行き、モグネスが転げまわってこれを押しつぶそうとするが、効果がない。

吸血鬼は地面に押しつぶされようとしても、相手の肌に食い込んでいき、その重圧をあまり苦にしない。

モグネスはたまらん、とばかりに地面を掘り始めた。

やはり体型から予想できるように、地中棲だったのだろうか、ものすごい速度で地面を掘り返し、その中へ逃れていった。

掘り返された穴からは、ザックハーの白い吸血鬼達が、モグネスの尻尾の皮を引きはがして戻ってきた。


「よくやった」

とザックハーが嬉しそうに子飼いの白い吸血鬼達を胸の中に収めている。

トルカはその情景に顔をしかめていたが、それでも

「大したものね、助かったわ、気持ち悪いけど」

と言って、礼にならないような礼をしている。

「お前たちが注意を引き付けてくれたので、簡単にとりつけた。そうでなかったら、おの獣毛が薄そうな尾にとりつくのは難儀だったろう」

「尾が弱い、ってわかってたの?」

とルルが尋ねると、

「まぁな、あそこだけ獣毛が細いというか、薄そうに見えたのでな」

とザックハーは答える。

「剣、打撃系の武器がまったく通らないので、もし今度会った時の対策も考えておかないといけないかもしれません」

とメルシュが分析していると、

「願わくば、もう二度と会いたくないわね」

とトルカが言って、全員の意識は、屋根の上のニレの方に移っていく。



その屋根の上のニレのからだの中では、ゲルンと魔焔公の意識戦が長引いている。

「そいつが俺の娘? 俺が巫女を愛していた?」

魔焔公と呼ばれていた、ニレのからだの持ち主を主張する者は、そこで考えが止まっていた。

「おまえの言ってることはよくわからん。俺を混乱させて、ここから追い出す算段か?」

ゲルンは目の前の「魔焔公の意識」が、人間とは違う考え方、あるいは文化を持っているのか? と考え始めた。

「女のからだを使ってこどもを産ませれば、それはその者のこどもだろう」

混乱している魔焔公に、ゲルンは言葉を重ねていく。

「そして、子どもを産ませたい、産ませた女なら、それは『愛した』ことになるのではないか?」

「おかしいな、おまえの言葉はわかるのに、言っている意味が理解不能だ」

魔焔公の声が力弱くなってくる。

「女にこどもを産ませたら愛したことになるのか? 愛? なんだそれは。わからなくなってきた」

「父親なら、自分の娘の存在を消そう、とは思わないものだ」

「おまえたちの世界ではそうなのか?」

理解不能だと言いながら、魔焔公はゲルンの言葉にはつきあってくれている。

それは魔焔公の許容力、というより、好奇心なのだろうか。


しばらく考えた後、魔焔公は譲歩したような形になった。

「おまえは俺を誑かそうとしているのではないな?」

「もちろんだ。お前がニレの身体を占有したり、ニレを追い出すような真似さえしないのなら、私は好んで戦いたいとは思わない」

「それについてはひとまず保留してもよい。お前らの言う、愛とかこどもとかについて、もっと聞きたい。教えろ」

魔焔公が譲歩した。


「私はここから出ていくが、おまえも別の者を使って、ニレの外側で議論できないか」

ゲルンの説明、提案についてはまだはっきりしない様子だったが、

「まぁな、この肉体が心地よさそうだったからだが、もっと心地よいカラダが用意できるのなら、別にこいつに拘りはない」

「ニレ、今はこれでいいか? 根本的な解決にはなっていないが...」

「はい」

「それでは、ニレにこのカラダを返してやってほしい」

「しかしまだ外に移れるカラダはないのだろう? 俺にどこにいろと言うのか」

そうだな、と考えていたゲルンだったが、ここでニレが

「もう一つの宝玉には住めないのでしょうか」

と聞いてきた。

「この宝玉は、私にとってあまり価値はありません。でももしあなたに価値があるのでしたら」


「ちょっと待ってろ」

と言って、一度魔焔公の姿が消える。

しばらくして戻ってくると、

「今見て来た。こちらは封印石ではないので、ここに住めるようだな」

と言って、少し機嫌がよさそうである。

「おまえの提案を飲む。しかし俺はあそこに定住しようとは思わぬ。俺が住める肉体を探してこい。それが条件だ」

「けっこうだ。我々も、あの宝玉はいづれ外に出そうと考えていた。したがって必要なものではない」

ゲルンがそう言ったのち、いくつか質問をする。

「その移り住む肉体、カラダについて、何か条件、あるいは適性みたいなものはあるか?」

「そうだな、意識を乗っ取って住み着くので、死にかけ、もしくは死んだ直後で、魔力が豊かなものがいいな」

「それで宝玉に住んでいる間は、ニレの肉体には干渉しないでいてくれるんだな?」

「おまえらが望むならそうしてもいいが、この肉体が生死のピンチになったらこのカラダの支配を預かるぜ」

などと言っているが、肉体を先に見つければ良いということなのだろう。

「断っておくが、封印石がない今、おれの魂魄が封印されたり眠ったりしているわけではない。そこのところは条件にはないことを忘れるな」


「私はいったん外に出る。おまえも今後その宝玉の中からアクセスしてほしい」

こう言って、ゲルンがニレの意識の外に出た。

炭焼き小屋に戻ったゲルンは、天井近くの高い位置にある窓の隙間からゆっくりとニレのからだが降りてくるのを確認した。

ニレの身体がゲルンの腕の中に戻ると、ゲルンの頭に魔焔公の声が響く。

「今はこいつを下ろすために心臓の付近にいるが、これから宝玉の中に入る」

すると、ニレが意識を取り戻し、

「ご主人様!」

と言って、ゲルンの腕に抱かれたまま、胸にだきついてくる。


炭焼き小屋から外をうかがうと、モグネスとの対決も一段落したらしい。

ゲルンはフリーダの姿を認めて、

「どうやらこちらはうまくいったようだな」

と声をかける。


ニレが無事な様子を見て、フリーダも、

「剣士様の方もうまくいかれたのですね」

と言うが、実はまだうまくいってないのだ、とゲルンは言う。

メルシュ達が集まってきたのち、簡単にニレの心臓付近で起こったことを説明する。

「問題が先送りになっただけなのだが、しかしどうやら相手は話を聞く耳は持ってくれているようだ」

そう言ってニレを抱えながら、炭焼き小屋を出てきた。


ここからいったんオストールの町へ戻り、それから『山』へ戻る、そういう予定だったのだが...。

「何か、来ますよ」

と、フリーダが言う。

全員の気迫が一瞬で元に戻り、警戒態勢を取り戻す。

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