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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
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【6】 その肉体は誰のもの?

異形の魔物と対峙するゲルン達。

魔物が言う。

「お前たちの誰かが復活した魔焔公か?」と。

魔焔公だと?

その言葉を頭の中で繰り返しながら、目の前にいる怪物を改めて観察する。

成人男性の3倍は優に超えようかと言う、その巨大な灰黒のからだ。

全身を覆う針のような鋭い毛。

頭頂部にもそれは及んでいて、どこからか顔が判別しにくいが、その中で黒い目が二つ光っているのがわかる。

頭部から首を経て胴体へといたるラインはほとんど凹凸がない、つまり肩幅がほとんどないのだ。

だが腕が首の下と思われる場所から生えているので、恐らく肩の骨は真横に伸びているのではなく、首から下が前方に出ているのだろう。

この体形が示すところは、それが地中を掘り進むのに適しているのではないか、ということ。

この魔物は地中戦を得意とするのかもしれない。


ゲルン達が答えずに、ただ睨み合うだけになっていたため、

「そうか、おまえ達ではないのか」

と言って、その魔物が視点をはずし、周囲をキョロキョロと見て回る。

「モグネス、ここだ。よくきてくれた」

山小屋の屋根の上から小さな姿が現われたので、ゲルン達もそちらに視線を移す。

そこには寝衣姿のニレが立っていた。


「魔焔公、可愛い姿になっちまったな」

その巨大なハリネズミのような魔物が言う。

「生まれてまだ十年も経っちゃいねえからな」

と、ニレの姿をしたものが、笑顔で答える。

「ニレちゃん...」

その姿を見て、フリーダが思わずことばをもらしてしまう。


「ひょっとして、こいつらから逃げているのか?」

巨大な灰黒の魔物が、ゲルン達を指して言う。

「ちょっとまだカラダのコントロールがうまくいかなくてな」

そう言って、ニレの姿をした者が右手を横に挙げる。

掌を中心にして光輪が生まれ、そこに熱が宿り、拡大していく。

そしてそれをゲルンに向けて飛ばそうとするも、何かに遮られている。

ニレの身体の中で、この『魔焔公』と呼ばれた者と、ニレがせめぎあっているのだ。

ゲルンはそれを見て、ひょっとすると、と思い、ニレとの間に繋がっている契約の印に意識を集中する。

「メルシュ、トルカ! ニレにアクセスできそうだ。お前たちは、あの怪物の相手をしてくれ」

メルシュとトルカはその指示を受けて、他の仲間たちにも連絡をとり、メルシュがモグネスの前に出る。


「なんだ、貴様は」

モグネスがメルシュをにらみつける。

「我々は、あの少女の仲間です。あなたこそ誰ですか。私たちの仲間のカラダを乗っ取ろうとしている者の仲間なのですか?」

メルシュは話しかけた。

ゲルンの考えを察知して、時間稼ぎこそが肝要、と判断したのだ。

その意図を察したトルカは交渉をメルシュにまかせ、戦闘になったときすぐに応戦できるよう、炭焼き小屋の影に身を隠した。

「はん? 仲間だぁ? 確かに俺は魔焔公には勝てなかったさ。だがそれを持ってやつの仲間だとか、ましてや手下だとかは思われたくねーな」

モグネスはメルシュとの会話に入っていく。

これでゲルンがニレにアクセスしていくだけの時間がとれた。

「でしたらどうか、私たちとその魔焔公なる者との間の折衝に、どうか中立でいてくれませんか」

メルシュは続ける。

すぐに戦闘になる予感はしていたし、実際そうなるだろう、とは思ってはいたが、できるだけ下手に出て、その時期を送らそうとしている。

幸いなことに、このモグネスという魔物は、かなりの力を感じるものの、頭のめぐりがそう良いとも思えなかった。

「中立? おまえ、おれが魔焔公に呼ばれてここに来たってことを忘れてやしないか?」



「いや、出て行って!」

からだの中で対立するニレと、魔焔公。

本来の魔力なら、魔焔公が圧倒しているはずなのに、ニレの拒絶をはねのけられない。

そこにあらたな力が干渉してくるのを魔焔公は感じた。

「ニレ!」

その黒い気配に驚き、喜ぶニレの心。

「御主人様!」

これには魔焔公も驚いた。

「貴様、いったいどうやって?」

だがすぐに態勢を立て直し、ニレの心臓に、その位置に、内部から触れようとする。

強い抵抗を感じるが、強引に開かせようとする魔焔公。

「いやぁぁぁっ!」

激しく抵抗するニレの魂。

そこにゲルンの意識が切り込む。

「離れろ! 出ていけ!」

体内での意識戦なので、もちろんゲルンが細身の魔剣をふるったわけではない。

しかしその魔剣の気迫が、魔の力が、魔焔公を切り裂いた。

ぎゃっ、という声を発して、魔焔公の意識が後ろに遠のく。


ゲルンは刻印からニレの意識の中に入り、心臓付近で必死で抵抗しているニレに加勢し、肉体を奪おうとする魔焔公の前に立ちふさがっている。

ゲルンのからだ自体は炭焼き小屋に避難し、屋根の上にいるニレの肉体にアクセスしていた。

心臓付近にいた魔焔公の意識は、一瞬飛びのいて後ずさり。

「貴様、いったいなにやつ?」

「私はこの少女の所有者。この少女との契約者だ」

ゲルンが意識の剣を正眼に構え、ニレの前に立つ。

ニレはこの言葉を聞いて、感激に瞳を潤ませている。


「おまえの方こそ何者だ。なぜこの少女の中にいる?」

ゲルンの問いかけに、魔焔公は怪訝な表情をした。

「は? 何を言ってるんだ、貴様は。この肉体は俺に所有権がある」

「お前は10歳にも満たない幼女だとでも言うのか?」

ゲルンの切り返しに、魔焔公は戦意を鎮め、ゲルンと向き合った。

「何も知らんのだな。ならば教えてやる」

そう言って、彼は語り始めた。


俺はニイルの河の畔に祀られていた。

あの日、エギュピタスの神官どもが、国の崩壊を予言して、俺に宝玉の守護を頼みにきた。

あの河の畔で安住の地を与えてくれたこともあり、俺はその依頼を受けた。ただし、無償と言うわけではない。

俺も安住の地を去るのだ。それなりの代価、つまり俺の入れ物を求めた。

すると巫女の一人が、自分の肉体を提供する、と申し出てきた。

俺はそれに乗って、その巫女たちを守り、国を出たのだ。

俺はその巫女の胎内に入り、その巫女の子をいただくことにしたのだ。

なのにその巫女は子を産んだとき、俺を拒絶したのだ。

おれは契約違反を怒り、その娘、つまりこいつの中に強引に入り込んだ。

するとあの女は、自身の宝玉を使い、一つは封印石として、もう一つは魔石として、この娘の中に封じ込んだ。

どうだ? 俺の方が筋が通ってるだろう?

俺は入れ物として、この子の肉体を使用する権利があるのだ。


「なにが筋が通ってるだ。おまえは巫女のカラダを求めただけで、巫女の娘を求めたわけではなかったのだろ?」

「同じことだ」

「違う。巫女とこの娘は別人だ。母娘であっても、人格は別々だ」

魔焔公の動きがとまり、弁舌が途切れた。

「おまえはなぜ巫女の中に入らず、この娘の誕生を待ったのだ」

ゲルンが矢継ぎ早に問う。

しかし後ろにいたニレは、この魔焔公がしたことに気づき始め、不安な表情になっていく。

「それは...」

と言いかけて魔焔公は躊躇した。

言ったものかどうか、かなり逡巡していたため、ゲルンはじっと待っていたのだが、ニレが後ろから、ポツリと言葉を出す。

「ひょっとして...あなたは私のお父さんなのですか?」


この言葉に、ゲルンは驚いてしまい、思わずニレの方を見る。

そして再び魔焔公の方を振り向いて

「そう...なのか?」

と問いただす。

「王国の追手など、俺にとっては子供の軍勢に等しかった。だが、巫女は俺を頼ってくれた。正直嬉しかった」

「しかし、おまえはまだその時、カラダを持っていなかったのではないのか?」

ゲルンの問いに魔焔公が答える。

「バカか。だったら移動できないだろ」

そう言って、ポツリポツリと話し始める。


まだ幼い魔女姫は、別の年老いた巫女が連れて逃げた。

俺は二人の巫女の護衛を務めるべく、神官長から移動のための肉体を譲り受けた。

北方の傭兵で、王国での戦いで敗れ、死にかけだった。

そこで俺はその男のカラダを仮の住まいとして受け入れて、北方へ逃げた。

北方へ向かった理由は、その仮のからだが北方系だったため、その方が目立たないと考えたからだ。

俺がそこに宿ることによって、その瀕死の兵士はかりそめの健康を取り戻していた。

心は既に死んでいたがな。

だが途中で巫女の一人とはぐれてしまった。

それで残った一人を連れて、王国の町を逃げ回り、ギデオの町についた。

そこでその巫女に俺は言った。

ここで、代価のカラダを要求する、と。

だが俺はこの仮のカラダが朽ちる前に、巫女に子を産ませ、そこに入る考えに変わっていった。

さすがに兵士のからだは限界にきていたからな。

そこで俺は...。


ここで言葉を切った魔焔公が、悲しそうに、悔しそうに、言葉をつなぐ。

「あの巫女は、俺を信用してなかった」


あの女が俺の子を産んだあと、俺に知らせることなくすぐに宝玉を移していたのだ。

しかもその力、封印と力の継承を発現させたまま。

俺は約束通り、生まれたばかりのその子のカラダをもらい受けた。


だが、その子は、俺の思う通りに動かなかった。

俺は、そのからだの中に封じられてしまった。


こいつがニレの父親?

肉体としては、その北方の傭兵。

しかし魂としては、この魔焔公。

それを受け継いで生まれたのが、このニレだと言うのか?


ゲルンのみならず、ニレ自身も、驚嘆の目で魔焔公を見ている。

「だからこのカラダは俺のものなんだ。俺が作ったものなんだ」

しかしゲルンはそれを否定する。

「ばかっ! そんなことがあるものか。ニレのからだはニレ自身のものだ」

「わかりあえねーってことだな」

魔焔公も立ち上がり、ゲルンと対峙する。

だがゲルンは、魔焔公を見つめて言う。

「この娘は...、お前にとって娘じゃないのか。自分の娘を乗っ取って、自分のものにするつもりなのか」

「俺の娘?」

「おまえがナイラーガに産ませたのなら、おまえの娘だ。おまえのこどもだ」


この強い言葉で、後ろにいたニレは、顔に両手をあてて、戦きつつもただ聞き入っている。

「おまえが巫女を愛したように、自分の娘を愛せないのか。そこまで巫女が憎いのか」

魔焔公は答えない。

ただ時がすぎていくばかりだ。



「するとあなたは我々と戦う、ということなのですか?」

外で時間稼ぎをしていたメルシュの言葉を聞いて、トルカ達がそれぞれの武器を握る。

「あたりまえだろ。俺はここで殺しあいをするためにやってきたんだ」

「我々とあなたとの間には利害はないはずです。どうか、中立でいてくれませんか」

メルシュは戦いになることが不可避だとしても、少しでも遅らせたい、と考えている。

一方、モグネスは目前のモノしか見えていないらしく、メルシュの相手を続けている。

「利害? 小難しいことを言うな。おれは戦いたいから来たんだよ」

メルシュはここいらが潮時か、と思い、トルカ達に、小さく指で合図した。

一方屋根の上を見ると、ニレのからだをした者は呆然と立ち尽くしている。

剣士様はアクセスに成功し、今その中で戦っている。

そしてモグネスの注意はもはやそちらにはなく、自分だけを見つめている。

そう思って、メルシュもまた自身の武器、槍を背後に握っている。


モグネスの顔は針状の剛毛に覆われ、その二つの目しか見えない。

しかし、ニヤッと笑ったような気がした。

そして次の瞬間、モグネスの顔から、首から、胸から、無数の針が飛んできた。

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