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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
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【3】 封印されし者

漆黒の空間に一人の少女がぽつんと突っ立っている。

きょろきょろ周囲を見回しながら、

「ここは...どこだ?」

と自問するように呟きながら。

やがて、ふむ、と頷いて、右手を前にかざす。

するとその掌の先に、等身大の楕円形の平面、姿見のようなものが現われ、少女の姿を映す。

「なんだ、このカラダは!」

少女は驚いて声を上げ、頭部を、顔を、肩を、胸を、腹を、足を両手で触り始め、全身を抱きしめる。

「まだこどもではないか、しかも女児か」

姿見を消して、少女はある方向へ歩み始める。

「ナイラーガめ、やってくれたな」

そう呟きながら、ある光る巨大な鉱石の前に出る。


その鉱石は、全体に青白い光を仄かに放ち、この漆黒の空間に孤立して存在している。

「あれから十年近く経っているというのに、まだ力が戻らぬ」

少女は光る鉱石をなで回し、そこから記憶を読み解いていく。

「それはそうだろう、俺の力がなければ幼女奴隷として衰弱死していただろうな」

だが自分は死ななかった。

それどころか、以前にもまして健康なカラダになりつつある。

にも拘わらず、自分が発現できない。

「うん?」と言って、鉱石のある個所で手を止める。

「こいつは...」

そう言って、右手を上に掲げると、鉱石から一人の男の影が浮き上がる。

黒衣の剣士。そしてその姿がとてつもなく美しい映像になっていく。

「そうか...幼くとも、こいつも女、ということだな」

くっくっくっ、と忍び笑いをもらすと、

「やめて、私の思い出に触らないで」

という声が聞こえ、何か強い圧力が、少女の右手を抑えた。

「ふん、無駄なことを」

少女は声のする方を見つめるが、もちろん何も見えない。

「ここにはおまえの味方はいない。やがて来るだろうが、その時は既に、おまえはおまえでなくなっている」

「いや、出て行って!」

またも響く声に対して、少女は強い意志で退けようとする。

「無駄なのがわからんのか? 今外にいるバカものどもは、俺を顕現させようとしているぞ」

そう言って、少女は高笑い。


漆黒の空間が戻り、光る鉱石も、か弱い方の幼女の声も消えてしまった。



コートブルクよりはるか東方。

ペロンたちが上陸した岸辺よりさらに東に進み、オストールという中規模の町に入った。

パロックはズタ袋に攫ってきた少女を失神したまま詰め込んで、その町に入る。

「どうやら町には入れたようだな」

ホッと息を入れるパロックだが、初老のツァハリアスなどは息が上がってしまい、もう歩けなさそうである。

「ツァハリアス、これ以上は無理か」

パロックがこう声をかけて、ツァハリアスが頷くと、

「それじゃここで別れよう。俺はこのままネーメム様の館へ向かう。お前たちは迎撃は無理だろうから、監視して情報をまとめてくれ」

と言って再び走り出した。


オストールの市門から中央に向かっていくと、市庁舎に出るが、その手前やや南方、庶民の下町が広がっている。

その中のひと棟、小ぶりな木造家屋に向かっていくペロンは、後ろからついてくる人影を感じた。

ふり向くと、そこには踊り子アニトラと、重剣士ウーデが認められた。

「あたしたちならまだまだ大丈夫」

とアニトラが言って、パロックに同行することとなった。

門扉をノックする。

しばらくして中から「入れ」と声がかかり、その住居へ入る。


コテージのような小さな家で、住んでいると言うより、なにかの集会所に使われているような家だ。

一階応接間のような場所で、一人の男が椅子に腰かけていた。

「御苦労」

と男は言って、壁際にあったソファにズタ袋を置かせた。

「うん? これだけか? ペロンたちはどうした?」

「思ったより追撃が早かったので、その迎撃をまかせている。ツァハリアスは疲れていたようだったので、別行動を許可した」

とパロックが答えるが、いささか不安げな表情だ。

「つけられなかっただろうな?」

とこの家の主人、ネーメムが問う。

「そりゃもう」

とパロックは言ったが、

「ツァハリアスがいないと、その辺かなり不安ね」

とアニトラが言う。


「ともかく、ブツを見よう」

と言って、ネーメムがソファに寝かせた袋の元に行き、中からまだ気絶しているニレを引き出す。

「こりゃ、まだガキじゃねーか」

この家の主人、ネーメムが言うと、アニトラ。

「だが私たちは見たわ。こいつが宙を飛んで光熱を発しているのを」

「それなら間違いないんだろうけど、なんか信じがたいな。この中にあれが入っているなんて」

と言ってネーメムはニレのからだをソファに横たえて、寝かせる。

「待って、ネーメム様、私たちはまだこいつをコントロールできていない。ここで覚醒させるのは危険だわ」

アニトラの言葉を聞いてネーメムは思いとどまり、考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

「まさか、もう追っ手が?」

と反応するパロックの言葉を受けて、ウーデが扉へ近づき誰何する。

「開けてくれ、俺だ、ペロンだ」

と弱々しい声が聞こえる。


ウーデが警戒しつつ扉を開けると、全身に切り傷を作り、血まみれになっている中年男が現われた。

「ペロン、その姿は...」

ウーデが抱きかかえるようにして、半死半生のペロンを中に入れる。

「スロック達はどうした?」

パロックの問いかけに、苦しげに答える。

「全員やられた。追ってきたのは宮殿一の剣士、ゲルンだ」

「あいつか...」

とネーメムが漏らすと、ウーデが「御存じで?」と問う。

「まぁな、コートブルクの戦の時に、その時はまだ傭兵の一人としてだったが、剣を交えたことがある」

「一瞬で部下がやられたので、なんとかこれをお前たちに残しておこうと思って、戻った」

ペロンが懐から水晶塊を包んだ布袋を差し出す。

「傀儡石か」

と呟くネーメム。

「俺の血を垂らしておいたが、俺はもうダメらしい。お前らの誰かがこれを継承して、俺の血を上書きしてほしい」

そう言うと、ペロンは大きく痙攣して、がっくりと崩れ落ちる。

「ここまでがやったのようだったな」

そう言って息をしなくなったペロンを傍らに抱えて、ネーメムは奥の部屋から部下を二人呼び、命令を下す。

「丁重に弔ってやれ」

ペロンの遺体が運び去られ、必死の思いで運んできた水晶塊がテーブルの上に置かれた。


「詳しくは聞いてなかったんだけど、こいつで魔焔公を操れるの?」

アニトラの問いに、パロックはそうだ、と頷いて、

「失活した宝玉は力を失う代わりに、他の宝玉と結びつく。そこに封印された血以上の血と魂を介入させ、その血を通じて支配し、命令を下せるらしい」

そう言って、パロックは自身の腕を少し切り、血を水晶塊に注ぐ。

ペロンがニレや自身の血を垂らした時以上の血液を、水晶塊に注ぐと、止血した。

「俺もやったことはないが、古代伝承書によるとそんなことが書かれている」

そしてその書に記載されていたという呪文を詠唱して、水晶塊、いまはパロックの血を浴びて傀儡石となったそれに、魔法をかける。

傀儡石が発光し、そこから漏れた光が一筋、ソファに横たえられたニレに届く。

ニレのからだが、ピク、ピク、と動き始めると、今度はのけぞるようにビクン、と反応した。

アニトラやパロックが遠巻きに眺める中、ニレの身体が熱を発し始めるのがわかった。



「おかしい」

オストールの町を前にしたゲルンは、ニレの反応を探りながらもらした。

「どうしたの? 剣士様」

ルルが尋ねると、

「ときどき反応に妙なものが混じるんだ。反応そのものは弱くなるでもなくいつも通り、ニレの所在を伝えてくれるんだが」

ともかく急ごう、とゲルンはニレの痕跡を追った。


東の空から太陽が見え始める。

まだ町の大半は眠りの中にいる。

ニレの反応を追って町に入り、追跡を続けると、下町の長屋の続き、ある小さな家の前に着いた。

「ここから?」

とトルカが尋ねると、

「おそらく、しかし反応が、今、変わった」

え? とゲルンの方を向くトルカ。

「突入には警戒が必要、と言うことですか?」

ベルトルドの剣士ダイクがゲルンに尋ねる。

「そうだが...」

と言いかけたゲルンが突如後方に退き、他の建物に身を隠す。

「何か来る。隠れろ」

その小さな家の一室から、高熱反応を感じた。


家の壁が、屋根が、燃えるように崩れ落ちていく。

瞬間的に強い熱を浴びて、燃えるよりも熔けていく、という感じだ。

その中から赤く光る光球が現われ、ゆっくりと浮かび上がってくる。

「ばかめ、俺を支配できるとでも思ったのか?」

その光球の中から、ニレの声で、ニレからは程遠い強いセリフが放たれていく。

「すぐに力を失ってしまったのは、ガキだからだと思ってたが、単に衰弱していただけだったか」

その目は今出てきた家の方を見ている。

そこから炎を突破して、数人の男女が逃げて来た。

「若いカラダは良い。少し休むだけですぐ回復し、無尽蔵に力を吸い上げることができる」

そう言って光球は街路樹の上に腰かけるようにして止まり、高熱を消した。

見ると、それは間違いなくニレのからだだった。

街路樹のてっぺんにちょこんと座り、燃える家から出てくるネーメム達を見ている。

「御苦労、お前たちのお陰で顕現できた」

ネーメムは両手で傀儡石を抱えながら、

「どうして効かないんだ」

と呟いている。

「そいつは俺と石をつないでいるだけだ。理屈の上では、そこに俺以上の魔力を注げば操れるかもしれんがな」

と言って、小馬鹿にしたような目つきでネーメムを見る。


現在の居場所を確認するように、視線を周囲に向けた。

早朝ではあったが、この騒動に気づいて飛び出してきた下町の町民が数人。

そして遠くに市庁舎を見て

「ほう、オストールか」

と言って、現在位置を把握した。

そののち建物の影に隠れていたゲルンに気づき、

「ほう、おまえが...」

とほくそ笑む。


だがその皮肉めいた声がもれると、体内から強い力が起こり、その声を塞ごうとする。

「驚いた、強い意志だな」

ニレのからだを奪っているモノがそう呟いて、再び町全体を俯瞰する。

「まぁいい、手始めにここをいただくか」

そう言って両手を広げると、そのからだはまたしても重力を失ったかのように浮き上がり、赤い光と光熱を発し始めた。

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