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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第4章 魔焔少女
31/115

【1】 発現

山の魔王の宮殿、火祭り、三日目。

最後の三日目は花火と音楽の饗宴だったが、ゲルンは家に引きこもっていた。

それは二日目の夕刻からニレの体調が回復せず、「熱いです」と言いながら、フラフラしていたからだ。

フリーダに治癒術をかけてもらうと、しばらくは楽になるのだが、数刻するとまた全身が燃えるような熱に包まれてしまう。

そんなニレにつきっきりだったため、ゲルンは祭りどころではなくなってしまった。

(妙な不安感はこのせいか?)

と考えながら、寝台に眠るニレの汗をぬぐってやっている。

幸いなことに、病状(?)は進展せず、熱を帯びて減退感や虚脱感が覆いかぶさっているだけ。

命に別状はなく、単に始終濃い疲労に包まれているような感じ、だと言うのだ。


「ご主人様、ご迷惑かけてごめんなさい。奴隷である私なんかのために」

ゲルンに汗を拭いてもらい、寝台の傍らにいるのを見て、ニレは申し訳なさで涙がで出てくる。

「そう思ってるんなら、早く元気になってくれ」

ゲルンはそう言いつつも、ニレの傍らを離れることなく、見守っている。

トルカやフリーダ、ルルたちが見舞いに来てくれるので、ゲルンもよほどのことがない限りニレの側を離れなくても良い、と言うのがあったからだが。


「時にトルカ、なんでお前は昨日家に入ってこれたんだ?」

三日目の夕刻、ニレが眠り始めたのを見て、手伝いに来ていたトルカに尋ねた。

フリーダの結界で、ゲルンとニレ以外は中からの承認がない限り家には入れなかったはずだったのを思い出したのだ。

「えーと、それは...」

トルカが視線を外して、言いにくそうにしているのを見て、ニレに何度目かの治癒術を施したフリーダが言う。

「あら? 剣士様のご要望じゃなかったんですか?」

「どういうことだ?」

ゲルンが尋ねると、

「トルカから剣士様の要請で、自分も自由に出入りができるようになっている方が便利だろう、という言われたので、トルカを三人目に書き換えておいたのです」

それを使ってトルカは難なく就寝中のゲルンの寝台に忍び込んだ、と言うわけだ。


「あ、いや、その、こんな広い邸宅に剣士様とニレちゃんだけだと人手も足りないだろうし、使用人が決まるまで、その...」

と慌てて弁解するトルカ。

「やっぱりね、そうじゃないかって気はしてたけど」

そう言ってフリーダもゲルンに陳謝する。

「剣士様、確認しなかった私も悪かったです。ごめんなさい。結界は元に戻しておきますね」

しかしゲルンは

「いや、ニレがこんな様子だから、お前たち三人も入れるようにしておいてほしい」

と力なく言う。

いつもなら強く叱られるのに、今日は注意だけですんでいる。

それだけニレの憔悴が心に応えているのだろうか、と思い、逆に心配になったトルカとフリーダ。

そこに元気よくルルが買い出しから帰ってきた。

「剣士様、とりあえずしばらく食いつなげるものを買ってきました」

「ああ、ありがとう、足りなかったら言ってくれ。もし残ってたら、お前たちが自由に使ってくれて構わない」

と、そちらを見るでもなく、伝える。

「え、十分足りましたけど」

と言って、ルルはこの重い空気に耐えかねて、フリーダを見る。

「トルカが私に嘘をついて、結界に自分も無許可で入れるように修正させられたのよ」

と報告。

「トルカ、あんたって子は」

ルルがギロリとトルカを見るが、トルカも反応できないくらいにしょげかえっている。

「ルル、もういいわ。剣士様が、私たち三人には結界に入れるようにしても構わない、と言われたのよ」

それってトルカが強引にやったんじゃ、と思ってトルカを見るが、いつもとは違う落ち込んだ様子。

ルルも、この部屋の重く、のしかかるような空気が伝染したのか、言葉を継げない。


「ニレちゃん、そんなに悪いの?」

ルルがフリーダに声を殺してこっそり尋ねる。

「いえ、全然悪くはないのよ。ただ治癒をかけても、休んでも、全然元気にならないの」

小さな声で話していたが、それでも少しはゲルンの耳に届いたらしく、

「三人ともありがとうな、ずいぶん助かったよ。今晩はもういいから帰ってくれ」

と言ったので、三人は後ろ髪を引かれながらも、退出することにした。

「フリーダ、もし容体が急変したら連絡するので、また迷惑をかけるだろうが」

ゲルンにこう言われて、フリーダが強く言い返した。

「迷惑だなんてとんでもありません。ニレちゃんは私たちにとっても大切な旅の仲間、友達じゃありませんか」

「そうだよ、私にとっては家族と同じだし」

とトルカも言ってくれた。

ゲルンにはそれに応えず、じっとニレを見つめていたので、三人は退出していくことになる。



夜が訪れる。

体力が減退しているように見えるだけなので、ゲルンはいつものようにニレとともに寝台に入り、眠りに入ろうとした。

最初、ニレを引き取ってきた時の方が容態は酷かった。

それこそ衰弱死してしまうのではないか、と思えるほどで、実際あの奴隷商は次の日にでももう処分してしまうつもりだ、と言っていた。

それを思うと、今はただの体力減退、軽い衰弱に見える。

しかしニレがその前日に見た悪夢。

そして今日、治癒術師としてかなりの腕があるフリーダが治癒をかけても一向に戻らないこと。

さらに、自分の胸に沸き起こる強烈な不安感。

そう言ったものが渦巻いて、あの奴隷商から買い取った時と同じかそれ以上の不安に満たされていく。

(何かが起こっている。もう既に)

その考えが頭の中を駆け巡る。

宝玉を無事取り出すことができて、自分の使命も終わったし、ニレの心配要素もかなり消えたように思っていた。

しかしまだ宝玉は残っている。

これが今の状態に関係しているのだろうか

ニレが夢の中で告げられたという

「枷が外れた」

ということば。

これが宝玉を一つ取り出したことと関係しているのか。

そんな想いが頭の中を駆け巡り、ゲルンはなかなか寝付けなかった。


「うぅ...ん、う...」

ニレが声を漏らし始めた。

ゲルンはそれに気づいて半身を起こし、ニレを見る。

「ニレ、どうした? 苦しいのか?」

そう言って、ニレの額に触れようとするが...

熱い!

額が体温を越えたような熱さ。

上半身を抱え上げ、頭を起こそうとすると、首が、頭部が、額が、燃えるように熱くなっていることに気づいた。

「ニレ!」

呼びかけても返事がなく、苦しそうにうめくだけ


「だめ、連れて行かないで」

そんな言葉が切れ切れに零れる。

「助けて、ご主人様、助けて」

ゲルンはその高熱にも関わらず、ニレを抱え上げ、呼びかけを続ける。

「ニレ、しっかりしろ、私がわかるか?」

すると、ニレの身体が軽くなったように感じた。

そしていっそう全身が熱を帯びてくる。

とりわけ頸部が、首の付け根の部分が、赤く発光するように赤い光を放ち、熱を放射し始める。

「ニレ!」

ゲルンは少女を抱き留めようとするが、上からの力に引っ張られるように、ニレはさらに軽くなり、浮き上がっていく。

寝室の窓がいきなりバタンと音を立てて開け放たれ、夜風が舞い込んでくる。

その夜風の中に、ニレの身体はゲルンの手を離れて浮き上がり、周囲に赤い熱の壁を作り始めた。

宙に浮くニレをなんとかつなぎとめようとするが、その熱に手を弾かれる。

やがてニレは窓から外へ飛び出すように出ていき、屋敷の外に浮き上がるように漂っている。

頸部を中心にして、赤い光を鈍く放ちながら。


見るとニレの顔から苦しそうな表情は既になく、落ち着いた、やけに大人びた表情が浮かんでいる。

そして、目が開く。

その瞳は黒ずんだ赤から真紅の色に代わり、まるで赤く発光しているかのよう。

そして、ニレの声で、ニレとは思えない言葉を発した。

「ついに、ついに枷が外れた。私は力の半分を取り戻した」

そう言ってさらに浮き上がり、全身を包む熱の球体がさらに広がっていく。

ニレは寝衣のままである。

つまり、ニレの身体から発した熱は、肌の上の寝衣を焼くことなく、体の周囲に高熱の球体を発生させ、そこからさらに外部に熱を放とうとしている。

あまりの熱さに、ゲルンが窓から身を引くと壁が、庭木が、門が焦げ始めた。

熱球によって熱風が渦巻き、それが周囲に強い風を産んでいく。


ニレはさらに上昇し、夜空の真ん中に別の星が現われたかの如く、赤く光っている。

見ると、肩口から赤黒い翼のようなものが生まれで、その飛翔を助けているようだ。

さすがにここまでくると、宮殿の何人かが気づいたようで、騒ぎになり始めている。

ゲルンは連絡用カードでフリティベルンを、ベルカを呼び出して、この異変を告げる。

その間にも、ニレはどんどん上昇していき、その熱球は巨大になっていく。


熱い。

北国の冬の手前だと言うのに、熱球の熱が大地に降り注ぎ、まるで南国の暑熱のような暑さが大地にふり注ぐ。

隣接する農家の者も何人か驚いて出てきている。

だがこの巨大な夜の熱球が全天を覆わんとしている時、ニレに異変が起こった。

「助けて...」

ゲルンの耳には、ニレの声が聞こえた。

すると熱球の中の存在が、両手で自分の身体をつかみ、抱きかかえ、苦しそうにしている。

熱球の温度が高すぎるため、中の人間はもはや陽炎のようにゆらめいて、シルエットだけが見える状態になっていた。

「ハァーーーッ」

と言う、高い音を発して、熱球が動き始めた。

東へ、やや東南の方向に飛んでいったのだ。

ゲルンはその軌跡を目で追いながら、急いで服を着替えて飛び出していく。


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