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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第2章 魔女姫ブレンダ
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【10】 港町へ

ゲルンと打ち合っていたペスターも、周囲の霧が晴れ始め、森の入り口付近にいたことがわかってきた。

「ち、アンネルルがやられたのか?」

ゲルンが周囲の変化に気を取られた一瞬、ペスターは退却。

追撃しようとしたゲルンは、近くに二人の少女が抱き合うようにして現れたのが視界に入る。

そのスキをついて、ペスターは錫杖を地にあてて大きく飛び下がり、森の中へと退却していく。

ペスターを追いたかったが、ニレの安全を優先して、ゲルンは二人の少女の元へと向かった。


二人のうち一人がニレだと確認して近寄ろうとすると、もう一人の少女が剣を抜いてゲルンの前に立ちはだかる。

ゲルンが一瞬ひるむと、こちらもまた身を翻して現場から逃走する。

なんだったんだ? と思いつつも、ニレの元に駆け寄ると、ニレは意識もしっかりしていて無事だった。

「ニレ」

力強い抱擁に驚くニレだったが、すぐにゲルンの胸の中にしがみついていく。

霧が晴れたことで、メルシュの方も馬車を立て直し、フリーダたちを回収していく。

そして現場がまだ混乱しているのを見て、一気にこの場をつきぬけよう、とゲルンは判断した。

フリーダ、ザックハーが乗り込んだ後、ニレを抱えて乗り込み、前線で頑張っていたトルカとルルも回収。

一気に馬車は北へと逃げていった。


ブレンダはフーゴ達の元に戻ると、すぐさま宝玉の少女一行を追いかけたかったのだが、負傷者も多く出て混乱しているため、態勢を立て直すことを優先する。

しかし、ここは森の魔物たちの真ん前である。

怪我人を回収し、こちらもできるだけ早くこの場を離れるように動き出した。


森の魔物たちもすぐに攻勢に転じたかったのだが、時刻はまだ昼前である。

どちらかと言うと夜の活動を好む者も多く、こちらも態勢を整えるのに時間がかかってしまった。

かくしてペスターの仲間たちは追撃もできず、森の中へ引っ込んでいく。

彼らにとって時間の流れは人間以上に悠久である。

森を出て昼日中の追撃は気が乗らないので、またの機会が訪れるまで、じっと待つことはできるのだ。

魔女姫を食べることに気が急いていたスタッチの一族なども、かなわなかったからと言ってペスターにあたりちらすほどの知恵もなく、再び泥のような眠りの中に帰っていく。



メルシュが馬車を走らせ、客車ではフリーダが戦士たちの傷を癒していた。

とは言っても戦が決着するまでには至っておらず、ルルもトルカも軽傷。

ニレも少し傷を負ったが、これとても軽傷の範囲で、皆フリーダの治癒術ですぐに快癒した。

「結局まともに戦ったのは剣士様とトルカだけかよ」

とルルが戦い足りないのか、少し不満をもらせる程度までは回復していた。

「まぁそう言うな、ルル。突っ込む前にも言ったけど、とにかく突破することが第一の目標だったんだから、皆、うまくやれたさ」

とゲルンが宥めている。


一息ついてところで、車中ではあったが、ゲルンはニレから話を聞き、情報を整理、共有することにした。

そこでドリアードの少女が放った霧の中で見聞きしたこと、とりわけそのアンネルルとブレンダが言ったことをゲルンに報告する。

「向こうにも、宝玉持ちがいたのか...」

ゲルンが呟くようにもらすと、フリーダが疑問をもらす。

「剣士様、すると敵の頭目であるその少女も奪わなければならない、ということですか?」

「いや、それは必要ない。そもそも我々が必要なのは、妖しの宝玉一つだけなのだから」

そう言ってニレを傍らに抱き寄せる。


だがニレは、いささか体をこわばらせている。

「剣士様、私はその...『山の宮殿』で解剖されてしまうのですか?」

と不安をもらした。

これには一同驚いて、

「そういや魔物は力づくで宝玉を読みだして、死体にしてしまおう、みたいなことを言ってたんだよね」

と、トルカが言う。

「ニレちゃん、私たちの『山』には、そのドリアードが言ったコードを読み出せる人がいます。心配ありません」

フリーダが柔らかな笑みを浮かべてニレに言った。

「え? 誰のこと? 私はその辺、聞いてないわ」

とルルが言うと、ザックハーが

「自分もベルカから剣士様のお手伝いをしろ、と言われただけで」

と言って、ゲルンを見た。


ゲルンは「そうだな、情報は共有しておくべきだろうな」

と言って、ルルたちの疑問にも答える。

「今回、私に『宝玉持ち』を探すよう依頼してくれたのは、フリティベルン殿下だ」

「殿下の命令だったの?」

トルカが驚いて声を上げる。

フリティベルンとは、山の魔王の嫡子で、優れた魔術師でもある。

「知っての通り、私は山の一族ではないから、命令ではなく依頼だ」

そう断ったうえで、剣士が続ける。

「殿下が私に依頼されたのは、私がこの『判別石』を持っていたからだ」

と言って、一同に赤い石のはまったペンダントを見せる。

「私も両親の遺品として受け取っただけで、その意味については知らなかったのだが、殿下がこれは宝玉持ちを探す石だ、と気づかれてね」

「ええ、私もその時、その場にいました」

とフリーダが言葉を重ねる。

「もうわかったと思うけど、そのフリティベルン殿下ならおまえのコード読出しができるはずだし、またしていただけるだろう」

ゲルンがニレに説明すると、フリーダがそれに続ける。

「その宝玉の力があれば、魔王様の中に発現した、破魔の悪神を浄化できるのです。剣士様があなたを探し出したのは、それが目的でした」

「そもそも宝玉の力は一つで十分だ。あいつらの目的は知らんが」

そう言ってゲルンはニレを傍らに呼び寄せて、肩を抱きながら、

「さらにこの娘の中には、宝玉が二つある」

そう言うと、フリーダが驚いてゲルンを見た。

「それは私も聞いていませんでした」

そしてゲルンは、宿屋で簡単に説明した、ニレを買ったときのことを、さらに詳しく説明する。


「頸部と胸腔、ですか」

ザックハーがニレのからだをなめるように見つめる。

本人は真面目にそれについて考えているのだが、なにせ悪相なので、ニレが少し怯えた表情を見せた。

「ニレちゃんが怯えてますわよ、ザックハー」

フリーダがそう言って、ニレに麻の上衣を着せて、庇うように抱きしめる。

「そうだぞ、ザックハー、おまえの顔は小さな女の子には悪影響だ」

トルカにも言われて、ザックハーが少しムッとするが、

「ニレ、ザックハーに悪意はないんだ、そんなに怯えないでやってくれるか」

とゲルンがとりなし、さらに

「はい、ザックハーさん、助けてくれたのに、ごめんなさい」

ニレが謝ったこともあり、それ以上にはならなかった。

ザックハー自身も、自らの悪相と戦術が女性に嫌悪されるというのを自覚しているので、矛を収めてくれた。


「ニレに首帯を巻かせているのも、外からの魔眼よけだ」

ゲルンがそう言ってニレの頸部を示す。

「ニレちゃん、そういうことだから心配しなくていいのよ。そのドリアードはコード読出しでも死ぬみたいなことを言ったようですけど」

フリーダがこう言ってフリーダの少し伸びた髪に触れると、

「フリティベルン殿下は目的のためにそんなことはしない。ま、会えばわかるが」

とゲルンもまた優しく髪を撫でた。


その後、今後の計画修正。

戦力に自信があったため、追いつかれても大丈夫、と踏んでいたが、敵が増える可能性を実感したので、少し速度を上げることにした。

「まずはコートブルクに急ごう」

となって、再び車中泊で進むこととなった。

ただし、さすがに眠っている間も御者を交代して、という強行軍ではなく、馬車を止めて休んだのではあるが。

こういうときは少人数の方が速度が出せる。よって数日でコートブルクの町が見えてきた。



港町コートブルク。

王国北方の港町で、北方における海路の中心地である。

内陸都市だったストレボーンとはとても比較にならない広さと賑わいだ。

当然のごとく異邦人の方が多く、人ならざる者も法さえ守れば、普通にここで商売ができる。

そういう事情もあり、軍隊と裁判所が持つ力、権限は強い。


町に下りたつと、ゲルンはベルトルドが滞在している宿へ向かった。

今はルルが御者台に座っていて、メルシュが客車で寛いでいる。

そのメルシュがゲルンに言う。

「ここまでくれば一安心ですな」

「ニレちゃん、海の旅は経験ある?」

トルカがニレに尋ねると、ニレは首を横に振る。

「自由の効かない環境にいたんだ。そのあたりはあまり聞いてやるな」

とゲルンが言ったものだから、トルカが困った表情になる。

「その...ごめん」

「いえ、トルカさん、気になさらないでください。むしろ海って見たことがないので、少し楽しみだったりしますし」

そう言って微笑みかけるニレを見てトルカが抱きしめる。

「ニレちゃん、ええ娘やのう」

それを微笑みながら見ていたゲルンだったが、少し付け加える。

「だが、ニレには昔のことも思い出してほしい。また少し厳しいことを聞くことになるが」

はい、と頷いて、ニレはまたゲルンになつき始める。


一行が着いた宿屋は市の西方にあり、『山』の一族が大陸に出てくるとき、常宿にしている場所だ。

店主を初め、従業員も『山』から来た者が多く、言ってみれば『山の宮殿』のコートブルグ側拠点と言っていい場所。

メルシュが「ここまで来たら安心」と言ったのも、ここに入ればほとんど逃げ込んだも同然だったからだ。

時刻は夕方。

そろそろ陽が沈もうとしている時だった。


宿屋に入ると、眼帯をかけた隻眼の男が目ざとくゲルンを見つけて話しかける。

「ゲルン、その様子だとうまくいったんだな」となれなれしく話しかけてくる男がいた。

「ああ。ベルトルドはもう着いてるかい?」

とゲルンが聞くと、

「二階の、階段を上ってすぐの赤扉の部屋にいるぜ」

と言って、階段を指さした。


階段をのぼりながら、ルルが聞こえないように小声でもらす。

「夕方なのにブフバルトが素面ってのは、珍しいな」

はは、とゲルンは笑いながらニレに説明した。

「今のはブフバルトと言って、この宿屋の責任者さ。ひでー飲んだくれだが、素面の時はちゃんと仕事をしてくれる」

「昔は魔王様の宮殿の衛士だったこともあって、腕も立つしな」

と、トルカが追加説明。


階段を登りきると、部屋の扉が色分けされている。

赤い扉というのは一番手前で、そこをノックして、一同入室。

中は外観と違って広く、いくつもの仕切りがなされている。

その一つを抜けて、部屋の主の元に出ると、

「待ちわびたぜ。よっぽど北街道を南下していこうかと思った」

と言って、筋骨隆々とした男が座っているのが見えた。

部屋にはほかにも二人の男がいて、この部屋の主にかしずいている。

ニレが何気なくその二人に目をやると、尾がのぞいているのが見た。

有尾人...と思い視線をどうしたものか困っていると、

「で、どうする? すぐに出るのか?」

と部屋の主、ベルトルドがゲルンと話しているのが聞こえた。

「いや、途中いろいろあって皆疲れているので、少し休んでからにしたい」

ゲルンはそう言って、メルシュを階下に行かせ、宿泊の手続きをさせた。


「こいつはベルトルドだ。主に『山』の水軍、輸送なんかを担当している」

ゲルンはそう言ってニレに紹介し、またベルトルドにも

「これが宝玉の少女だ。見ての通りまだ幼いので、あまりからかわないでやってくれよ」

と説明している。

「ふーん、宝玉持ちって、もっと年上かと思ってたぜ」

と言いつつ、ニレに向き直り、

「よろしくな、嬢ちゃん。俺が『山』まで運ばせてもらうベルトルドだ」

と言って、ニカッと笑う。

決して美男ではないが、その顔、表情には、何か安心できそうなさわやかさがあった。

「ゲルン様の奴隷にしていただきましたニレです」

と言って、ニレも頭を下げる。

「奴隷だって?」

ベルトルドもトルカと同じ反応をしたので、

「それについては後でゆっくりと説明してやる」

とゲルンはめんどくさそうに言って、話を打ち切った。


ゲルン達は、ようやく安心できる場所にたどり着き、その夜はぐっすりと眠りこんだ。

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