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魔女姫争奪戦  作者: 方円灰夢
第9章 王都の戦い
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【5】 プロイデル房

「あの小娘は、プロイデル房に監禁中」

シモンがエルゼベルトの問いに答えて、すらすらと語り始める。

「なぜ生きたまま捕えている?」

「あの小娘の頭の中に、魔王軍、山の魔王の宮殿、エギュピタス、器の少女のデータが数多くあった。これを順次利用するため」

ということは、あのトルカに化けた女だけでなく、この男も変身能力がある、ということか。

そう考えて、エルゼベルトは別の情報を探る。

「お前たちに命令を下しているのは誰だ?」


「聖トマソ教会所属、王都筆頭魔導官ゲオルク・ラメンタイン様」

ふん、予想通りの名前ね。

エルゼベルトもまた王都の魔法使いエーデルヴォルフから、同門の魔法使いが王都の魔導官をしている、と聞いていた。

「あなた達は王都の命令で動いているということ?」

「違う。ラメンタイン様は宝玉を持つ娘を南方の地へ解き放ってしまうことを憂いておられる」

「つまり王都の中には、エギュピタス許容派とラメンタイン派がいるということね」


ひとまず宿舎に戻って皆と合流した方がいいかもね、ゲルンの様子も気になるし。

こう考えて、エルゼベルトは残りの情報は宿舎に戻ってからにしよう、と考え、催眠状態のままシモンを立ち上がらせた。

ところがその時、これまでまったく無表情だったシモンが顔に苦痛を浮かべ、荒い息を吐きだす。

「どうしたの?」

エルゼベルトがこう尋ねても、シモンは答えられず、唇が紫色に変わっていく。

そして突然大地に倒れ伏し、こと切れてしまった。

エルゼベルトは、ハッと気が付いた。

滅身秘匿の法だ!

情報を共有する者が、お互いにその情報が洩れぬよう呪いをかけあう。

その秘匿した文言なり情報なりを紐づけておいて、それが外部に持ち出される時、呪いが発動して、自らの命を絶つ秘法である。

魔術教団の高位の者の中には、この法力を使って秘密を隠蔽する一派がいたことをエルゼベルトは思い出した。

「すると、もう一人の女の方も?」

そう考えて、エルゼベルトはシモンの死体を力場を使って運び、急いで宿舎に戻っていった。



宿舎ではニレがトルカに化けていたクララの頭の中を覗いていたが、こちらも突然苦しみだして死んでしまった。

訳が分からずに対処に困っていた時、エルゼベルトが男の死体を抱えて戻ってきた。

「エルゼベルト様、トルカに化けた女が突然呻いて死んでしまいました」

ルルがどうしていのかわからず、報告する。

「やっぱりね」

そう言って、エルゼベルトが滅身秘匿の法について簡単に説明する。


寝台の上にはゲルンが横たわり、毒抜きの最中。

その傍らには報告を受けてエギュピタスのブレンダも馳せ参じている。

「エルゼベルトさん、するとあのトルカさんのいる場所はもう...」

と言いかけたので、魔王の娘が情報を追加する。

「いや、私の方もこの男に死なれてしまったが、その直前にトルカのいる場所を聞きだしている」

「それではすぐに救出に行かなければ」

だがエルゼベルトはブレンダの言葉を制して、

「いや、ここを空けるのはまずい。少なくともゲルンが回復するまでは何人かがついている必要がある」

そう言って、ここにいる顔ぶれを一回り見渡して、

「フリーダとセルペンティーナは引き続きゲルンの介抱を」

と指示を出した。

するとフリーダと金色の小蛇は頷いて、了承する。

「ルル、メルシュ、ザックハー、お前たち3人は私と行動を共にしてもらうわ」

そう言って3人を引き連れて出て行こうとしたのだか、その前に幼い少女が立ちふさる。


「エルゼ様、私も同道させてください」

ニレが心配そうにエルゼベルトの前に立っていた。

「ニレ、これから行くところは暗殺者どもの本拠かも知れない。『宝玉少女』を探している連中の本陣にあなたをつれていくのは危険すぎる」

エルゼベルトがこう言うが

「いえ、エルゼ様。私の索敵術は必ず役に立つはずです。それにエルゼ様がいて下されば、決して暴走はいたしません」

そうなのだ。

強力な魔力・魔焔公の力を秘めたニレを連れていくことは戦力的にはむしろありがたいことなのだ。

しかし彼女はまだその力の加減ができない。

この街中で、あの魔焔術を解放することにより、せっかくうまくいきかけているエギュピタスの国土交渉に悪影響を及ぼすかもしれない。

今はエギュヒタスと同盟関係にあり、協力して動いている以上、彼らの足を引っ張ることは極力慎みたい。

その考えもあって、同道させるのが不安だったのだが、自分がいればある程度制御できるかも。

そう考えなおして、エルゼベルトは同行を許可した。

「そうだな、それでは一緒に来てもらおう」

意外とあっさりエルゼベルトが譲歩してくれたこともあり、ニレの表情が少しだけ喜びでゆるんだ。

トルカおねえちゃんの危機に、のんびり待ってなんかいられない!

と、強く思いながら。



聖トマソ教会南隣に設けられた、教父研修場。

その中に、ラメンタインが直々に運営している房がある。

その名をプロイデル房と言い、今そこには宿舎から拠点を移した器の少女たちが詰めていた。

その少女たちの一室。

それぞれに違う装束に身を包んだ10人の少女たちが、祭壇脇で西北に向かい祈るような形で膝まづいている一人の少女を取り囲んでいる。

ある者は中腰で、ある者は椅子に座り、またある者は背後から少女を支えるようにして。


「黒の剣士が毒剣で刺されたようです」

その少女ノクトゥルナが「千里眼」を使って視たことを伝えると、取り囲む少女たちの周りに小さなどよめきが起こる。

「ラメンタイン様に同行していた二人の人物のうち、女の方があの湾曲刀使いに化けて刺したようです」

「そりゃあ良い」

「あの女、クララとか言ったか? なかなかやるじゃねーか」

ノクトゥルナの報告を受けて、長身の二人、空間移動のレモナと、剛力変化のパーヴィエが声を上げる。

ノクトゥルナの傍らで蹲りながら聞いていたライラが、ミーヴァの方を見上げて言う。

「絶好の好機よね。すぐにでも皆で襲撃する?」

だが少し離れたところに立ってノクトゥルナを見ていた「器の1番」ミーヴァは、ノクトゥルナに重ねて質問した。

「待って。その前にノクトゥルナ、黒の剣士の死は確認できたの?」

感情が高ぶっている一同の中で、ミーヴァだけは冷静に状況を整理しようとしている。

「はっきりとはわかりません。たぶんまだ生きています。でもあの髪の長い女が治癒術をかけ続けている様子なので、少なくともすぐには戦闘には参加できないようです」


それを聞いて少し考えこんだミーヴァが、また尋ねる。

「剣士を刺した、あのクララって暗殺者とは合流できますか?」

「無理です。死にました」

「そう...」

ミーヴァがまた少し考え込んだ後、

「魔女姫誘拐の絶好のチャンスかもしれません、しかし」

と少し逡巡したように言葉を止めた。

皆、ミーヴァの決断を待っている。

「ミーヴァ、タイスが今いないので、あなたの判断に皆従うはずよ。もちろん私もね」

そう言ってアニトラが進み出る。

アニトラは「器の少女」ほど強い魔力には恵まれていないが、レモナ同様転移術を使うことができる。

タイスが席を外す時は、彼女が指揮をとることが多いが、明確な序列があるわけではない。

器の少女たちの中で一目置かれているのが、この器の1番ミーヴァと、器の4番ノクトゥルナなのだ。

ノクトゥルナは全体の行動に対して異議をとなえたり、指示を出したり、ということはめったにしない。

それゆえ、タイスが名目上のリーダー、ミーヴァが実働部隊のリーダー、そしてアニトラがそのパイプ役、と言ったところだ。

そのこともあって、アニトラもまたミーヴァに判断を一任している。


「そういやタイスはどこ言ったんだ?」

レモナがミーヴァに尋ねる。

「ラメンタイン様と、あの捕えた湾曲刀使いについてご相談中です」

こう言って、ミーヴァはようやく決心がついたように、微笑んだ。

「ガルニエ麾下の暗殺者達がほぼ全滅の今、私たちが動いても文句を言われないわよね」

これを聞いて、パーヴィエが立ち上がった。

「そうこなくっちゃ。やろうぜ」


「ノクトゥルナ、もう少しやつらの配置を知りたいわ」

こう言って、ローブに身を纏った小柄な少女に尋ねた。

「黒の剣士やあの湾曲刀使いと一緒に来ていた魔王軍の連中、特にもう一人の宝玉持ちがどこにいるのか、視てくれるかしら」

「はい」

そう言ってノクトゥルナがしばらく「視た」のち、その結果を伝える。

「魔王の娘、槍使い、吸血鬼使い、初老の槍使い、そしてあの宝玉持ちはやつらの宿舎を出て、こちらに向かってくるようです」

「こちらへ向かってくる?」

褐色の髪を持つニンジャ娘ポーシャが、不審そうに聞き返した。

「はい。会話ではまだ聞こえませんが、皆殺気立っています。ひょっとしたら、ここが私たちの拠点だと知ったのかもしれません」

「知った? どうやって?」

ポーシャが疑問の声を発すると、

「魔王の娘がシモンを捕らえて、何か暗示をかけていたようです。 ですがそのシモンも自害しました」

「なるほど。脳内を覗かれそうになったので、自身の命が自動的に切れる呪いを施しているというわけね」

爆裂弾の使い手、器の5番マレヴィーが皆に説明する。

「確か、滅身秘匿の法、とか言ったかしら」


「決着をつけようってことか?」

パーヴィエが拳を作って、パンパンと両手で打ち合っている。

「ミーヴァ、まずそいつらを」

ライラがこう言いかけたのを制して、ミーヴァ。

「何言ってるの。私たちは魔王軍と戦うために来たのじゃない。目的を忘れないで、ライラ」

気勢をそがれたようになって、しゅんとするライラ。


「そうだな、確かに絶好のチャンスのようだし」

ポーシャが不敵な笑みを漏らして、続ける。

「黒の剣士が負傷。うちのレレカと互角の勝負をした魔王軍の宝玉持ちは宿舎を離れて不在。魔王の娘もいない」

これを聞いて、ライラが申し訳なさそうに頭をかいた。

「そのとおりね、ごめん、ミーヴァ、ポーシャ」


器の少女達とアニトラは、それぞれの獲物を持って、エギュピタス宿舎への襲撃に出かけてるべく立ち上がった。



軽装馬車を駆り、シモンの口から聞いた「プロイデル房」を目指して進む、エゼルベルトとその仲間の魔王軍の面々。

だいたいの場所はメルシュとルルが王都の地理を頭に入れていたので、迷うことなく進んでいく。

しかし彼女たちが進行していく途中、宿舎襲撃に向かった『器の少女』達と入れ違いになっていることには気づいてなかった。

エルゼベルトとニレの索敵術、あるいは魔眼は、相手の魔力を感知して行うもの。

それに対してノクトゥルナの千里眼は、魔力の有無にかかわらず、はるか彼方から明確にその場面を見ることができる。

つまりノクトゥルナにはエルゼベルト達が見えていて、しかもその索敵術に引っかかることなく、すり抜けられるということだ。

一方ニレの魔眼は前方に固定されていたので、その傍らを自分達を見ながらすり抜けていく連中がいたとは気づいていない。

だが、方向とみるべき場所がわかっていれば、魔眼の力は千里眼のような異能を発揮する。

「アソコデス」

ニレはすでに魔焔公の力を解放していた。

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