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三題噺もどき

ずる休み

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくよんじゅうきゅう。

 お題:試験管・口笛・ずる休み



「……」

 涼しい、静かな風が、さらりと頭をなでる。

 夏とは思えないほどの。

 この教室は角にあるせいなのか、電気をつけずにいると、心地いい薄暗さが部屋を満たしている。

 眩しいのは苦手なので、かなりお気に入りの場所だ。

 ―まして今、教室に人は居ない。騒がしい教室と違って。静かなこの空間は、逃げ込むには丁度いい。

「……」

 三階建ての校舎。

 その一番端にある、この教室。

 三階の廊下の突き当りにある教室。

 ―理科室と呼ばれる場所。

 ガラス棚には、よく聞くホルマリン漬けとか、ビーカーとかいろいろ並んでいる。数個その器具たちにホコリが被っているというか曇っているというか、そんなのもあったりする。まぁ、ここもそれなりに古い所だし。大量にある備品を使い切れていないのもあるんだろう。ひびが入っているものがないだけ、いいんじゃないか(何がだろう)。

「……」

 黒板は上下に二つある、スライド式?のやつ。

 いつも思うのだが、黒板を上下二つに置く必要とか、あるのだろうか。他の学校がどうなのかは知らないが、私の通ってきた学校の理科室は大半この形だ。上下に二つ。先生によるんだろうが、あまり二つ使っているところを見たことがない。正直。まれに使うが、ほとんど一つで事足りている気がする。

 今の先生なんて特に。書いてすぐ消すから、あの先生。おかげで板書は間に合わない。先生のスピードに合わせると、ホントに汚い字になってしまって、自分ですら読めない。

 ―まぁ、その代わりに、授業内容が分からなかったから、教えてくれと会いに来ることはできる。

「……」

 その理科室に。

 私は1人。

 一番奥の机に座り、腕を枕に伏せて、黒板の方―もとい、準備室への扉を見ている。

「……」

 窓という窓をすべて開け放していると、いい風が吹く。休むには丁度いい。特にこの夏は。

 ちなみに、今は数学の授業時間だ。私の居るべき教室は、ここではなく、クラスの教室だ。…けれど、あそこはもとより、私の居る場所ではない。だからきっと、あの教室では、私が居ないことなど当たり前のように受け入れ、誰も気にせず。数学の教師が、滔々と眠くなるような呪文を唱えている事だろう。

「……」

 私は普段、保健室通いをしている。

 別にいじめられてるとか、そーゆーんじゃない。

 単に人が多いのがだめで、ダメになってしまって。その日の体調にもよったりはするが。

 ―それで今日は、割と調子がいいので久しぶりに教室に行くことにして。行ったはいいものの、一時間でダメだった。久しぶりに来た私に、なんだかんだと世話を焼くような人間が居る。あそこは。ありがたいが、ありがたくない。余計なお世話だ。押しつけがましいのだ、ホントに。自分の体裁の為にそうやってるんだっていうのが、目に見えて。囲んでくるからなおダメだった。

 無駄な緊張と、恐怖が襲ってきて。教室中の声が、ざわざわという音が、頭に響いて。

 ひゅっ――と、息が止まった。

「……」

 それでまぁ、1人になりたくなって。

 ほんとは今日、一日クラスにいる予定だったので、保健室に行くのも気が引けてしまって。

 それでふと、この教室を覗いたら、人がいなかったから。1人、ずる休みを満喫中である。―単なる休みとは言えまい。本来授業を受けるべき時間に、こうして1人。何もせずにぼーっと、しているだけなのだから。ずる休み。

 それでもこれが、悪いとは思っていないから、私もなんだかよく分からない。

「……」

 教室には、大きな机が六台。それぞれに丸椅子が六つ。

 本来は、授業終了時に椅子を机の上に置いているはずなのだが。きっと、次の準備をしておきたくて、先生がそのままでいいとか言ったのだろう。

 ずぼらなのか几帳面なのか、よくわからないんだ。先生は。なぜか、あの人は生徒たちに器具の準備をさせたがらない。何のこだわりがあるのか知らないけど。

 事実、机の上には、それぞれ三本ずつの試験官が置かれている。

 何するんだろう…。

「……」

 もちろん、私が座る机の上にも、並んでいる。

 試験官立てに、三本。真横一列、六本並べることができるタイプのもの。その真ん中に三本。私から見て左端に一つ、右端に二つ穴が残っている。

 これは、パッと見た限り、どの机もそうなっている。―どこで几帳面発揮しているんだろう。ほんとによくわからないなぁ。

「……」

 ふと―爪でその試験管をはじく。

 カリン―と、ガラスのこすれる、小さな音がした。

 これで気づいてくれないかなーなんてことは、思っていないけど。

 だって多分、いくら音を立てても聞こえないと思う。チャイム張りの大音量でないと。何せ、隣の準備室にいる先生は、この時間―授業を持っていない時間―は、イヤホンをつけて何やら作業をしている。

「……」

 ご機嫌良いな先生。

 こっち側にも聞こえるレベルの口笛を披露している。

 そして若干へたくそだ。

「……」

 なんの曲だろう。

 何せ年齢が違うし、流行りものでもなさそうだ。

「……」

 先生は、あまり授業以外の話はしてくれない。

 そのせいで、趣味も好みも分からない。

 それが分かれば、もう少し。

「……」

「………」

「…………」

「……………」



 すきだなぁ。


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