【40】秘密特訓
スムカもトーラインに泊まる事が出来た。
ルーシは身体を拭いてから部屋を出て受付に行く。
「ルーシ君、今日は遅かったね。」
受付では看板娘のセルヴィが待っていた。
ここに帰って来た時は彼女とお話してから寝るのが日課になってる。
「うん。遅くなっちゃった。」
スムカがその理由の1つなのは分かってるがあえて聞く事はしない。 ルーシも話はしない。
「今日はね、ボブゴブリンとオーガを倒したんだよ。」
「ホント?すごいじゃない。」
セルヴィはルーシの話を楽しみにしてくれてる。 彼女はルーシにとって初めての友達ね。
彼女の母で店主のチェイオさんは近い内にホテル業を廃業するつもりらしい。
客室の半分をツインブレスが月極で借りてるし、それがほぼほぼ。 併設されてるカフェ&バーの売上が大半だから、だったらそっちを増設して賃貸+社宅なシェアハウスにした方が良いって考えてる見たい。
年頃の愛娘が仕事に時間取られて外に出る機会が少ないのも理由の1つではあるみたい。
「もう遅いから寝ましょっか。」
「うん。また明日ね。」
「うん。おやすみ。」
午後一の到着を目指して、ブランチしてからガイウス邸に向かう。
スムカはちょっと落ち着かない様子。
「ガイウスさんてどんな方ですか?」
人見知り発症してるのね。慣れない場所だから無理もない。
「軽い人かな。」
「悪戯っ子でいじられキャラ?」
ヴィオラとリネットがガイウスさんの評価を口にする。
どっちも正解だけどスムカ困惑してるわよ。
「ガイウスさんは優しいよ。」
ルーシがフォローする。
「そっか。なら良かった。」
「彼が元締めなのかとかは俺達分からないけど、彼なら良くしてくれると思うよ。」
セドもフォローしたので少し安心した見たいね。
ガイウス邸の広さにスムカが又もや緊張する。
「やぁ、初めまして。」
ガイウスさんとロジィさんが出迎えてくれた。
「は、初めまして。スムカ・ヘンジェースと申します。」
「話は聞いてるよ。早速で悪いけど、中入って君のスキルを確認させてくれるかい?」
「はい。宜しくお願いします。」
ガイウスさん、スムカ、ロジィさんが屋敷に入っていく。
「ルー兄!」
入れ違いで出てきたカシウスが駆け寄る。
「「おはよう。」」
「ナナチャもおはよ。」
カシウスにアタシの頭を撫でてくれる様になったのよね。
「ルー兄、西町公園の先に使われてない倉庫見つけたんだ。今度行こうよ。」
カシウスは前々から2人で秘密の特訓をしたがってる。真剣でやると強くなると思ってるのね。 止められるから秘密基地をずっと探してたみたい。
「うん。いいよ。」
2人なら何かあっても血が使えるからいいかなぁって、甘いかも知れないけどアタシはおもってる。
太極拳もどきで体温めてから軽く組手をしていると、ガイウスさん達が戻って来た。
「出掛けてくるね。」
そして早々に出掛けていく。
「あの人は誰なの?」
とテルティア。
「スムカだよ。仕事紹介してあげるみたい。」
「そうなんだ。」
「2人居ないとなると、今日は何しようか。」
「じゃぁ、おれルー兄と出掛けて来るよ。ルー兄いいでしょ?」
「うん。いいよ。」
「え、どこいくの?」
「内緒。」
「なにそれ。」
テルティアは不満そう。
「エイミーいいでしょ?」
「ええ。構わないと思いますが、ハマールは連れて行って下さいね。」
「え、2人だけでいいよ。」
「そうは行きません。それが嫌なら行かせませんよ。」
護衛だから仕方ないか。ハマールなら最悪恐喝して黙らせればいいわ。
「カシウス、ボクはいいよ。ナナチャも大丈夫って言ってるし。」
「・・わかったよ。」
「んだら、ちょっと待ってて下さい。支度してきます。」
ハマールが小走りに屋敷へ戻る。
「2人だけズルい。」
「そう?逆に邪魔者居ないからニコラにもっと複雑な魔法教えて貰ったら?」
「あ、うん。そうする!」
ナイス、リネット。さすが面倒見ナンバー1ね。
カシウスの言っていた倉庫は西町から北西に行った、通称『うんこ街』のすぐ側にあった。
『うんこ街』は、下水処理を生業にしている人達が暮らす街区で、国王から『国民に優劣があるとするならばこの者達が最上位である。』と言われたものの、文字通り言葉だけだったので、職業柄敬遠されるのは変わらないし、低所得層で街並みも良くないので素行の悪い奴等が溜まりがち。
そんな所の側だから不安になるけど、明るい時間からヤカラが出たりしないだろうし、そもそもそこに暮らす人達が素行悪い訳じゃないから大丈夫でしょう。
何の倉庫だったのか分からないけど、大きな木造平屋で床は無く、馬車が中に入れる仕様。
ツインブレスの馬車が中に入ってUターンする為の広さを確保しても左右に同じ以上のスペースが残る位。
枯れかけの草が茂ってて火を使ったら大火事になりそうだわ。
「いいでしょ、ここ。」
カシウスが彼の愛槍ロンギリオンを振り回わす
「ハマールは外見張っててよ。」
扉は1頭引きの馬車が通れる位開いた状態で動かなくなってる。
「ナナチャもお願い。」
今日はポカポカしてるからハマールの隣で寝そべって見る。
せめぎ合う音が響く。
2人とも大人を相手に練習して来たからか、力で押すよりも流れを利用する攻撃が多くて2人で演舞してる見たいにも見える。
突いた矛先をすくい上げられたカシウスは、それに逆らわず槍を回転させて石突きを振り上げる。
それをルーシは石突きで払い、その流れで小刃を左から斜めしたに薙ぎった。
カシウスも薙ぎられたロンギリオンを振り下ろすが、あえて流れ殺してディアボロスを上から地面に叩き着けた。 その時の跳ね返りを利用してルーシに差し込む。
これには堪らずルーシも後ろに飛ぶ。
「カシウス、すごい。 上手になったね。」
「でしょ。 毎日練習してるからね。」
ちょっと体に刺さったんじゃないかしら。
傷は直ぐに治っちゃうから分からないけど、服の切れ具合が穂先の幅はある。
「ルー兄、大丈夫?」
「うん。なんともないよ。」
「じゃぁ続きやろ。」
「うん。次は負けないよ。」
2人は楽しそう。男の子はちょっと危険な位の方が燃えるものよね。
万が一は無いだろうし、何かあってもハマール居るし。
ポカポカ陽気でアタシの眠気は限界よ・・
「そろそろ帰りましよう。」
ハマールの声で目を覚ますと、日が暮れかけてる。 3時間位寝てたかしら。
「もう少しいいだろ?」
とカシウス。
「夕食に間に合わなくなっちゃいますよぉ。」
それは大変。みんなを待たせるわけにもいかないわ。
「カシウス、今日は帰ろ。」
「、うん。分かったよ。」
ルーシには滅茶苦茶素直になったなぁ。 突っ掛かって来てた頃が懐かしく思えるわ。
「これ少し飲んで下さい。」
ハマールが懐から小瓶を取り出す。
「ポーションじゃないか。どうしたんだ?それ。」
「ガメて来ました。」
ハマールが悪そうに微笑む。
「怒られるぞ?」
「そんな傷だらけの方が怒られますだ。」
確かにカシウスの体には真新しい、軽い切り傷が無数にある。
「これ1本しか無いから2人で分けて、、あれ、ルーシさんは傷ないな。」
まぁルーシはね。 ただ2人共、服はボロボロ。
「困った。着替えは用意してなかったです。」
傷が出来るだろうって思ったんなら、服も破けるだろうって分かりそうなもんだけど。
ハマールのそう言う所、可愛いわ。
「服ならボクに任せて。」
ルーシがそう言って自分の服をスキルで直して見せた。
「おお、すごいだよ。」
ハマールは熱がこもると訛りが濃くなる。
「それじゃぁ、帰りましょう。」
カシウスがポーションを1口飲んでる間に洋服も直して、3人とも馬車に乗り込み帰路に着く。
「だいぶ汗かいたんじゃない?帰って時間あったら、カシウス誘ってお風呂入りましょ。」
「うん。そうする。」
馬車の中でルーシとそんな念話をした。
「カシウス、帰ったら一緒にお風呂入ろ。」
「え、あ、うん。。いや、遠慮しとく。」
だいぶ歯切れが悪いわね。 そんなに人と入るの嫌いなのかしら。
ルーシちょっと聞いてみて。
「一緒にお風呂入るの嫌いなの?」
「そんな事ないけど。」
「カシウス様が皆さんと入らないのはオイラの所為です。」
ハマールが操縦席から割り込む。
「オイラ毛深いくて、抜け毛も多いから。」
人とお風呂に入るのを遠慮したいのはハマールだったみたい。
1回で排水溝が詰まる位毛が抜けるみたいで、どんなに先に体洗っても湯船に浮いてしまうから、不快な思いさせたくないってのがあるみたい。
だからって側役が主人差し置いて1人で入るのもバツが悪いだろうからってカシウスが最後に一緒に入ってくれてるらしい。
「カシウス様は優しいんです。」
今はカシウスがバツ悪そうにそっぽ向いてる。
「じゃぁ、ボクも2人と一緒に入る。」
ルーシがそう言うと、カシウスはこっそり嬉しそう。
「遅かったですね。」
屋敷に帰るとエイミーがちょっとご立腹。
「父さん達は?」
「まだお帰りではありません。 カシウス様も遅いので、皆さん先にお風呂入ってしまいましたよ。」
「じゃぁ、俺達も風呂行こっか。ハマール。ルー兄も。」
「・・・そうですね。行ってらっしゃいませ。」
エイミーのお小言を逃れる為にそそくさと浴室に向かう。
後でハマールは怒られるんだろうなぁ。
毛深いとは思ってたけど、服脱ぐと予想以上でビックリ。
喉元から足首まで肌の見える場所がない。
足の毛触って見たらふわっふわ。気持ちいい。
「ひぇっ!」
突然触ったものだからハマールがビックリして変な声を出す。
その瞬間柔らかかった体毛がごわごわに硬くなる。 これが彼のスキルなのかしら。
差し詰め『熊の加護』って所かな?
「ルー兄はもう家で暮らさないの?」
ルーシとカシウスは湯船に浸かり、ハマールは一生懸命に体を流してる。 全身毛だらけだから泡立ち良すぎて流しきるのに苦労してる。
アタシ位のサイズなら桶1杯ですむけど、彼は大きいからね。
湯船に浸れる迄に子供達は上がっちゃうんじゃない?
「うん。パーティーの側にいた方がいいしね。」
「じゃぁ皆ここに住めば良いじゃん。」
帰ってこなかったり、遅くに帰って来たり、生活スタイル違うから気を使うし、使わせちゃうから無いかなぁ。
「それは無理じゃないかなと思います。」
やっと湯船にこれたハマールが言う。
「何でだよ。」
「みんなさんがここに住むなら使用人にならなきゃですから。冒険者さんが嫌がるんじゃないかと思うです。」
「じゃぁ、客として迎えればいいじゃん。」
「それだと、一緒に暮らすにならないです。」
確かにね。 ハマールは抜けたとこ多いけど、以外とちゃんと見てるのね。
カシウスも本当は理解してたんでしょう。これ以降はそんな話をしなかった。
お風呂から出るとガイウスさんとロジィさんはすでに帰って来ていた。
「今日は3人で何処かに行ってたんだって?」
とガイウスさん。
「カシウスったらどこに行ってたのか教えてくれないのよ。」
知りたがり病のテルティアは不満そう。
「それじゃぁ、ルーシ。何処に行ってたんだい?」
「内緒だよ。」
「ルーシも教えてくれないのかい?」
「うん。秘密だから。」
「そっかそっか。」
ガイウスさんは嬉しそうにルーシとカシウスを見る。
「スムカさんは?」
「彼女はカタスティマ・ジューイットで働く事になってね。 今日から泊まり込みで商品開発する事になったんだよ。」
あら。それは何よりだわ。
「彼女から皆に試作品預かってきたよ。お礼にって。」
5人に渡されたのは小さめのショルダーバッグ。サコッシュって言った方がいいのかな。
セドが肩にかけて剣を入れて見ると、とても入る長さではないのに収まってしまう。
ルーシのディアボロスも入った。
「不思議ね。」
「帯刀出来ない街中だったらとても便利じゃない?」
「そこが問題かなって思うんだよね。」
とガイウスさんが腕を組む。
「その中に武器忍ばせてたら誰も分からないから、一般流通させられないかもしれないんだよね。」
「じゃぁ商品に出来ないって事?」
「とりあえず貴族階級に広めて、その間に一般に卸せる様やってみようかなって思ってる。」
「そこはガイウスさんの商人としての腕の見せ所なんじゃないかしら?」
ニコラに言われてガイウスさんは頭かいてる。
ガイウスさんの目がいつもより鋭い気がするから、たぶん彼はやる気になってるわね。




