暗殺者の最期
広場に大勢の民衆が詰めかけている。みな興奮した顔で大声をあげていた。
そして、民衆の前には赤い着物を着た役人が直立して巻き物を読み上げていた。
「この者は、隣国単の国の刺客として、恐れ多くも皇帝陛下を暗殺しようとしていた。幸いにも暗殺は優秀な親衛隊により未然に防がれ、暗殺者もこうして捕らえることができ……」
民衆は磔にされた男に向かって罵声を浴びせながら石を投げ始めた。
(残念だ…殺しきれなかった)
磔にされた男は小さくつぶやいた。
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小国であった単の国は常に隣の大国超の国からの侵略の危機にさらされていた。
その超の国は現在の皇帝になってからさらに勢いを増し、周辺国を蹂躙し、異民族を従え、天下を統一する勢いであった。
小国である単の国が滅ぼされるのも時間の問題。
単の国の王は最後の望みとして男に皇帝の暗殺を命じた。
単の国の使者として謁見が許された男は皇帝に対して単の国の貢ぎ物を差し出してこう言った。
「皇帝陛下の望むの錬将軍の首をもって参りました。」
錬将軍は超の国の将軍であったが、異民族との戦いに敗れた後、処罰を恐れて超の国には帰らず、単の国に隠れていたのだ。
男は錬将軍を見つけ出して説得し、錬将軍も超の国の皇帝の暗殺のためならばと自らの首をはねた。
「うむ、確かに裏切り者の錬の首だ。もっと近くで見せろ」
皇帝が箱に覗き込んだ瞬間、男は箱に仕込んであった短刀を取り出して叫んだ。
「お命いただきます!」
決死の覚悟で皇帝に切り込んだ。
短刀は皇帝の顔をかすり血が噴き出した。
皇帝は何とかよけたものの、よろめいて突っ伏した。
「皇帝陛下危ない!!」
宦官の一人が皇帝に覆いかぶさり、暗殺を止めようとした。
男は宦官を蹴飛ばし、もう一回と振りかぶったところで、間に合った親衛隊に取り押さえられてしまった。
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超の国はこれ幸いと単の国を滅ぼすだろう。
長々と演説をする役人を見下ろしながら男はため息をついた。
単の国の王は逃げ切れるだろうか。
単の国の父や母は、友人たちは、妻は生き残れるだろうか。
「早く殺せぇ!!」
「天罰だ!!」
民衆が喚き散らしている。
娯楽がない民衆にとっては、ちょうどいい不満の発散になるだろう
「我が皇帝陛下に歯向かった者はこのようになる。周辺の蛮族どもよ。よく見ておけ!」
執行人が大きな槍をもって立っている。
超の国では磔にした体に槍を突きさすのか
牛車で引き裂くうちの国より良心的だな
民衆の罵声に負けないように役人が叫んだ。
「やれぇええ」
私は後世どのようなことを言われるのだろうか。
暗殺に失敗して単の国を滅ぼしたまぬけか、超の国の皇帝に最後に歯向かった英雄か。
まあどうでもいいことだ。
男は最後の意識の中でそう思った。