ケビンの限界
クレインを撒くために冒険者ギルドを出たので、依頼を受注できなかったが問題ない。
ドロップアイテムを納品する依頼もあるし、そもそも金はある。
急いでドロップアイテムを売却しなくてもいいため、ストレアの《収納庫》に貯めておこう。
ということで、しばらく冒険者ギルドに行かないことにした。
普段から使うための鞄やダンジョンに必要な道具を購入して、ダンジョンの一階層で斥候のケビンを召喚した。
昨日、ケビンはレベル2になったので、一階層に生息する唯一のモンスターであるゴブリンくらい楽に倒すことができるだろう。
「レベル上げをやるから、ゴブリンを探して倒せ。マッピングはやっておく」
「了解です」
ケビンに索敵と戦闘を任せ、ミストはダンジョンの道を地図に書き込みながら、偶にゴブリンが落とすアイテムを回収する。
ポーション以外のドロップアイテムは、動きの妨げとなるので、ストレアの《収納庫》に入れる。
またケビンがゴブリンをダンジョンの角で待ち伏せて、そこにゴブリンが通りかかった瞬間、一撃で仕留めた。
相変わらず、素晴らしい技の冴えだ。
ケビンは足音だけでゴブリンの正確な位置がわかるらしい。
ケビンのように練習したらできるだろうか、と考えながらもミストはマッピングの手を止めない。
順調に二人がダンジョンを探索できたのは、ここまでだった。
ゴブリンを二十体くらい倒した頃に先行していたケビンが戻って来た。
「この先はゴブリンの集団がいるので、避けた方がいいです」
「そうだな。戻ろう」
ゴブリン一体ずつならケビン一人で倒せるが、同時に複数のゴブリンを相手にするのは、職業が斥候のケビンでは難しいだろう。
近接戦闘職の軽戦士シーナか、重戦士ガーノルドだったら、対処できるのだが――
地図を見ながら、ミストとケビンは引き返した。
「……後ろにもゴブリンがいるようです。数は複数としか……」
ケビンがミストに退路を断たれたことを伝える。
一つ前の曲がり角には二つ道があった。
自分達が通った道の反対側から、後方に存在するゴブリンの集団は来たのだろう。
シーナか、ガーノルドを召喚したいが、召喚コストが足りない。
ミストの召喚コストは1しかないため、ケビンを召喚した今の召喚コストは0だ。
だから、新たにキャラクターを召喚することができない。
あと十分くらいで召喚コストを消費して一時間経過するため、召喚コストは1回復する。
それまで前方と後方のゴブリンの集団と遭遇せずに済めばいいのだが――
「――後ろのゴブリンの集団が、こちらに向かって来ます」
「……戦いは避けられないか」
後方のゴブリンの集団との戦闘が不可避だと知り、覚悟を決めた。
「ここで戦うと、音で前のゴブリンに気づかれて挟撃される可能性がある。だから――後ろのゴブリンの集団を突破する」
「わかりました。先に行くので、ついて来てください」
キャラクターカードはどんな深手を負っても送還すれば、その傷が全て回復する。
そのため、ケビンは一番危険な先頭を務めることにした。
ケビンは姿勢を低くして、――疾駆する。
風を切りながら、ケビンはゴブリンの集団と接する。
ケビンは走る勢いが衰えない程度にゴブリンを短剣で攻撃する。
――最優先は首などの急所。
ゴブリンは短躯なので、首は狙いやすい。
――その次は足。
追いかけて来られなくなれば、殺す必要はない。
――最後は適当な部位。
余裕がなければ、痛みでゴブリンを怯ませ、足を止めるくらいでいい。
いつもの不意打ちで仕留める展開とは違って、正面から戦う状況にケビンは苦戦する。
さらにゴブリンが一体ずつ襲ってくるわけではないので、視野を広く保つ必要がある。
もし一体のゴブリンに集中すれば、他のゴブリンに対して無防備な状態となる。
その隙に攻撃され、足を止められてしまえば、自分一人の手ではゴブリンの集団による数の暴力に抵抗できない。
そして、ケビンは余計なことは考えずに戦闘に没頭する。
ケビンが切り開いた道にミストは躊躇無く飛び込んでいた。
命を失うかもしれないため、とてつもない恐怖を感じる。
しかし、ゴブリンの集団に取り残される方が死ぬ可能性が高い。
だから、恐怖という感情を抑えながらミストは突き進む。
一瞬だけ前で多くのゴブリンを引きつけてくれているケビンの姿を見て、己を奮い立たせる。
全力で走りながら、まだ手に馴染んでいない鉄の剣をゴブリンが来たら振るう。
体を裂かれたゴブリンの血が、その剣と地面に付着し、血の臭いが辺りに立ち込める。
――気分が悪くなりそうだ。
激しい動きで急速に疲れも溜まっていく。
ケビンのおかげでミストに向かってくるゴブリンは少なめだったが、それでも辛い状況だった。
もっと剣も練習しないと、生き残れないか――
剣の軌道が狙い通りにいかないため、とりあえずゴブリンに当たればいい、とばかりに剣を扱っていた。
自身とキャラクターのレベル上げだけでなく、合理的な剣の技術も学ばないといけないことを実感する。
だが、それもこの場を切り抜けてからだな――
またゴブリンが襲いかかって来たので、息を整える時間もなかった。