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死後の世界

 死は突然訪れた。

 誰かが車を利用すれば、交通事故の可能性が生まれる。

 偶然、自分がその対象となっただけ。

 特に珍しいことではないので、当事者と関係のある人物以外は気にも止めないだろう。

 それを悪いとは思わない。

 テレビや新聞で見知らぬ人が死んだと聞いても、泣くほど悲しむことはない。

 自分と影響があることしか考える余裕がない、それが人間なのだから。

 人と関わることは好きでも嫌いでもなかったが、人と接してストレスが溜まることがあるのは事実だ。

 そもそも異なる自我を持つ者同士が完全に受け入れあうことはできないのだろう。

 だから、小学生の頃から友達と遊ぶより、一人で本を読んだり、ゲームをしたりすることが多かった。

 些細なことで衝突し、罪悪感を抱くことなく他人を傷つける者もいれば、他人のために行動できる親切な者もいる。

 それを理解していたから、人間は好きでも嫌いでもない。

 だが、圧倒的に前者の利己的な人間の方が多いと考えていた。

 差別、貧富の差、地位の差、詐欺、戦争等がなくならないことが、その根拠だ。

 誰もが協力的なら、全て話し合いで解決するので人に向ける武力は必要ない。

 お互いが相手に譲歩し、妥協点を作り出せるだろう。

 この考えも間違っているかもしれないので、その価値観を他人に押しつけることはしない。

 だが、無条件に信じられる存在を得ることが難しいことは理解してくれると思う。

 だから、もし自分を決して裏切らず、常に側に寄り添って、どこまでも尽くしてくれる存在が現れれば、できる限り報いるのは当然のことだ。




 死後の世界のことはわからなかったが、別の世界に行くのは意外だった。

 これもある意味、死んだ後に来たので死後の世界と表現できるのだろうか。

 そんな取り留めも無いことを思いながら、モンスターという怪物が出現するダンジョンの入り口に立っていた。

 交通事故で失った命を再び取り戻せたのは、星一キャラクター達のおかげだ。

 目の前にある装置、《ガチャ》から生み出されるキャラクターカードの中で、最も弱い星一キャラクターはこの世界の人々にとってゴミのような存在らしい。

 それでも大切に扱ってくれる者がいつか現れる、と星一キャラクター達は期待していたが、どれだけの時間が経っても現れなかったので、別の世界から俺を召喚したようだ。

 死んでいた俺を蘇らせてくれたのだから、できる限り星一キャラクター達に協力するつもりだった。

 それに、このゲームのような世界は楽しそうだ。

 星一のキャラクターは力を貸してくれるなら、絶対に俺を裏切らないそうだ。

 人間と違って約束は必ず守ると言っていたが、それが本当なら前から求めていた信頼できる相手を得られるかもしれない。

 世の中には山ほど信用できない人間がいるので、とてもありがたい。

 星二以上のキャラクターも基本的に指示に従ってくれるらしいが、人間と同じように信頼関係を築かないと裏切られることもあるようだ。

 何か事情がない限り星一キャラクターしか使うつもりがないので、あまり関係ないことだが。

 星一キャラクターカード一枚でもダンジョンの一番弱いモンスターなら倒せると聞いたため、ダンジョンの一階層でモンスターを倒すことにした。

 自分とキャラクターの強さを把握できるステータスを見る。


――――――――――――――――――

 ミスト・アスリール

 種族 人間

 レベル1

 召喚コスト 1/1

 スキル 《精神感応テレパシー

   ・他人やキャラクターの心に話したいことを直接伝えられる

   ・他人やキャラクターの心を読める

   ・距離制限なし

――――――――――――――――――


 名前は星一キャラクター達に決められていた。

 まだ一度もモンスターを倒したことがないので、レベルは1のまま。

 召喚コストはキャラクターを召喚するために必要で、キャラクターの星の数だけコストが消費される。

 つまり、今の俺は星一キャラクターを一体召喚できる状態だ。

 スキルは様々な種類があり、何のスキルを覚えるかは運に左右される。

 《精神感応テレパシー》のスキルは戦闘での指示出し、電話のように遠距離で会話など使い道は多いだろう。

 所持している星一キャラクターのステータスも確認する。


――――――――――――――――――

 シーナ

 レア度 星1 

 種族 人間

 職業 軽戦士

 レベル 1/10

 スキル なし

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

 ガーノルド

 レア度 星1

 種族 人間

 職業 重戦士 

 レベル 1/10

 スキル なし

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

 マリナ

 レア度 星1

 種族 人間

 職業 魔法使い

 レベル 1/10

 スキル 《火魔法Ⅰ》

   ・火魔法を使用できる

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

 セシル

 レア度 星1

 種族 人間

 職業  神官

 レベル 1/10

 スキル 《回復魔法Ⅰ》

   ・回復魔法を使用できる

――――――――――――――――――


――――――――――――――――――

 ケビン

 レア度 星1

 種族 人間

 職業  斥候

 レベル 1/10

 スキル なし

―――――――――――――――――― 


 魔法を使う職でなければ、星一キャラクターはスキルを覚えていない。

 現在のレベルは左側の数値で、モンスターを倒して右側の数値までレベルを上げれば、進化してレア度が上がる。

 だから、各キャラクターのレベル10を目指してモンスターを狩る。

 だが、金がなく、何も食べる物がない状態なので、その前にモンスターを倒してドロップ《落とした》アイテムを売り、金を稼ぐ必要がある。

 職業が斥候のケビンを召喚して、言った。

「モンスターを発見したら、殺せそうなら仕留めろ。無理だと感じたら戻って知らせてくれ」

「了解」

 斥候は偵察を行なう職業で、召喚すればモンスターの居場所を突き止めて不意打ちを防いだり、無駄にモンスターを探すことなく効率的な狩りができたりする。

 ケビンは軽薄そうな男という印象だが、仕事はできるようだ。

 ケビンはモンスターの足音にも注意しながら前を進み、曲がり角で死角となっている所で、無防備に歩いてきたゴブリンという人型のモンスターの首を気づかれることなく、短剣で掻き切った。

 一瞬でモンスターを処理したその技量は、星一キャラクターが最弱と評されているのが信じられないほど素晴らしかった。

 その後もケビンは一階層に生息する唯一のモンスターであるゴブリンを素早く発見し、急所を正確に狙い、死神のように一撃で死を与えていた。

 特に見通しが悪い曲がり角を利用して短剣を振るうことが多いようだ。

 数十体のゴブリンを殺したケビンのレベルが2に上がった。

 少しケビンの身体能力が上昇し、ゴブリンを倒す作業がより捗った。

 ゴブリンがドロップしたアイテムは、鉄製の剣、槍、黒色の外套、軽い傷を癒やすローポーション三つ、魔石一つだ。

 魔石のドロップ率は低いのだが、運良く手に入れることができた。

 何も装備が持っていなかったので、剣と外套を身につける。

 このように一般的な冒険者は、ダンジョンのモンスターを倒してレベルを上げながら装備を整え、階層を一つずつ下っていく。

 また格上のモンスターを倒せば、より多い経験値が得られるのでレベルアップが早い。

 だから、優れた装備やキャラクターカードを購入したり、高レベルの冒険者に手伝ってもらったりして、自分の実力を上回るモンスターが生息する階層に行く冒険者もいる。

「ケビン、ダンジョンの入り口まで戻るぞ」

 ケビンが振り返って、ミストに尋ねる。

「どうしたんです?」

「初めて魔石を入手したから、《ガチャ》をやってみたい」

「星一キャラ以外が出たら、それを使うんですか?」

 ケビンが嘘は許さないという表情を見せる。

「まさか。お前達以外使うわけないだろう? カード屋に売って今日の食事と宿代にするさ」

「高レア度のキャラが出たとしてもですか?」

「ああ、そうだ」

 その答えを聞いて、ケビンは可笑しそうに笑う。

「この世界に強力な兵器である高レアキャラを自分から手放す奴なんか、そうはいないですよ?」

「お前達を星五まで育てると約束したからな。約束は必ず守る」

「まぁ、高レアが当たる確率はものすごく低いですから、当たらないでしょうけどね」

「そうだな。お前達の仲間が増える可能性の方がずっと高い」

 ――と、冗談のつもりで話していた。

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