専属 エーベルside
あと少しです。
ついにだ…
お嬢様に会えるという胸の高鳴りから早く起き過ぎてしまった。
身なりをいつも以上に整えてお嬢様の部屋の前に着いた。
フゥー一呼吸してノックをする。
「お嬢様、失礼します。」部屋からの反応はない。
クリスさんには反応がなくても起きている時刻だろうから入っていいと言われているので部屋に入る。
見えた姿は昨日と変わらない、ベッドの上に布団が盛り上がっている状態だった。
それを確認し、ベッドの近くまで数歩近寄る。
そして膝を折り、布団から顔を上げたら俺の顔が見える位置まで体の角度を調整する。
「お嬢様、本日からお嬢様専属のメイドになりました。エーベル・ホールと申します。これからよろしくお願いします。」
聞こえただろうか。まだ自分が「エーベル・ホール」だということに慣れない。
布団の中の主はもぞもぞと動くとピタッと止まる。
そろーと塞がっていた布団の入り口が開き、視線が俺の顔に向いた。
そして俺と目が合うとササっと入り口が閉まり元の状態に戻った。
やはり最初に俺の顔が見える位置にしておくのは間違ってなかったと思った。
俺は目が合った時のお嬢様を見逃さなかった。
綺麗な青紫色でまるで消えてしまいそうな儚げな感じだった。
美しい。なんだ、あの守ってあげたくなるような可愛さは。
こんな可愛い姿を見たら誰もがお嬢様の虜になってしまう。
それから俺はこの「お嬢様の専属」を守る為にお嬢様の周りのお世話は全て請け負った。
誰かがお嬢様を目に入れるなんて許せない。
この一心で仕事をした。相変わらずお嬢様は布団に籠もっていたが…
ある時お嬢様は布団から出た。
「ねぇ…?エーベル…?エーベルは…どこ…にも…いかな…い…?母…様みたい…に…いな…くなら…ない…?」
お嬢様はそう言って布団にぐったりと倒れた。
俺は頭がパニックに陥っていた。
え?お嬢様は俺がいなくなる事を心配していた?
だめだ!それよりもお嬢様を優先させろ。俺の頭が警鐘を鳴らしている。
お嬢様の頭に触れると「アチッ」
お嬢様は熱を出していた。
急いで旦那様を呼びに行き、ことの顛末を話した。
旦那様は仕事をしている手を止めドアの近くにいたクリスさんに大声をあげて
「クリス!今すぐ侍医を呼んでこい!今すぐにだ。
エーベルはシャロの所まで案内しろ。」
俺は旦那様をお嬢様の所へ案内し、侍医の到着を待った。
クリスさんと侍医が走ってお嬢様の部屋に到着した。
侍医はお嬢様を診断していき、何かを決したように旦那様に向き直った。
旦那様は侍医が診断している間落ち着きがどんどん無くなりベッドの周りを行ったり来たりしていた。侍医が向き直ったのを見てピタッと止まり「シャロはどうなる?」っと聞いた。
「お嬢様は高い熱を出されています。このまま上がり続けるならもしかしたら…」と侍医は下を向いた。
旦那様はサッと顔色が悪くなりお嬢様の方を向いた。
「解熱剤を打ちますが、効くかどうかは分かりません。そうなれば覚悟をした方がいいでしょう。安静にした方がいいので旦那様達は下がった方がいいと思われます。」
「分かった。エーベルは定期的にシャロの頭のタオルを変えなさい。クリス、私達は部屋に戻るぞ」
旦那様と侍医は部屋を出た。
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