過去 エーベルside
初めての主人公以外の視点
「エーベルはなんで貼り付けたような笑顔をしているの?私は今エーベルから大好きだって言われて、心の距離が縮まったみたいで嬉しかったよ。だからエーベルは何を隠しているの?」
お嬢様に言われた言葉が頭に離れない。
たった3歳の娘とは思えない洞察力だ。俺は内心焦りと驚愕で何も言えなかった。いつものニコッとした笑顔も浮かべる事ができない。どう乗り切るか。お嬢様は俺が今誤魔化したからといって追及するような事はないだろう。
けど、俺はお嬢様に嘘を吐くなんて事はしたくない。
だってお嬢様は俺を初めて人間にしてくれた人だから。
俺はフランチェスカ家でメイドをやらせてもらっている。男なのにメイドというのは変だと思うが、それは成り行きだからしょうがない。お嬢様以外の屋敷の人間は俺が男なのを知っているから問題はないだろう。
俺は男爵家の子どもとして生まれたが、本妻ではなく愛人の子だった。愛人の子なんて微妙な立場の人間を誰も優しくしてくれるはずもなく、屋敷での生活は酷いものだった。屋敷の使用人は俺の事をまるでいないかの様に振る舞い、食事は残飯でもありがたいと思う状況だった。
本妻とその息子達は愛人である母を「娼婦の女」と蔑み、俺のことを「卑しい血の息子」と嫌った。俺は蔑むくらいだったら町に返してほしかったが、男爵は母の事を大層気に入っていて離そうとしなかった。
それが、本妻は癪に触ったのか益々俺に対して態度がエスカレートしていった。食事は残飯すら与えられず、井戸の水をんだり、生えていた草を食べて生活していた。住む場所も倉庫のような建物になり雨風を防ぐのがやっとだった。息子達からは顔を合わせる度に罵詈雑言をかけられ、暴力を振るわれた。
俺は全てが憎かった。
助けてくれない、会う事すら出来ない母
日々暴力を振るう本妻と異母兄弟
見て見ぬ振りをする使用人
そしてその元凶の男爵
でも、復讐をする力はもう俺の体にはどこにも残っていなかった。このままの人生か…と思っていた時救いの手が現れた。
力尽きて倒れている俺に見知らぬ小さい女の子は手を差し伸べた。
「だいじょーぶ?イタイイタイしてるの?
シャーが助けてあげりゅ。」その小さい女の子は齢2歳のお嬢様だった。
その時の俺には眩い天使に見えた。
小さい女の子は俺の反応がなくて困ったのか何回かペチペチと頬を叩いた。
「こんな所でおねんねしてたら風邪ひいちゃう。」と。
違うんだよ。
俺は寝たい訳じゃないよ。
イタイ訳じゃないよ。好きでここにいるんじゃないよ。
そう思っていると俺の目から涙が出てきた。小さい女の子を見ると何故か小さい女の子の目にも涙がこぼれていた。
「あれ?なんでシャーまで?悲しくもないのになみだがでてくるの?」
そう言っている間にも小さい女の子の目から涙が溢れて出ていた。
俺は少し心が救われた気がした。
今まで生きていて俺の事を思って何かしてくれた人は1人もいなかった。
そんな俺に涙を流してくれる。
俺の存在を認めてくれる。
俺もこの小さい女の子と一緒に居たい。
ガサガサっと物音が聞こえてきた。
また、息子達が嫌がらせに来たのか。
俺は何をされてもいいが、この少女だけは守りたい。動かない体を叩き起こして少女の前に立ち塞がった。
俺と少女の目の前に現れたのは見知らぬ男性だった。誰か分からないが、少女は守らなくては…と思った時だった。少女は急に立ち上がり見知らぬ男性に走り寄った。
「パパ〜。」と泣くのをやめ、笑顔で。
「どこに行ってたんだい?シャロ。探した よ。さあ、家に帰ろう。」
男は少女の父親らしい。父親から守るなんて阿呆らしい。
「パパ〜?このおにいちゃん、どうしたの?どこかイタイイタイしてるの。だから治さないとパパ見て。」
「どれどれ〜?あぁ君は…この家の3男か。 大丈夫かい?そういえば、ここの家の3男は確か愛人のとこの出だったか。たぶんだけど、家でまともな扱いを受けていないのだろう。」少女の父親は俺を観察するように見ていった。
少女は俺を心配するような目で見てきた。
「パパ〜?治る?だいじょぶなの?」
俺は掠れた声で一生懸命言葉を紡いだ。
「連れて…行かないで…小さい少女…を…。俺を…初めて…心配してくれ…たんだ。俺は…小さな少女…を守り…た…い…」
だから俺に取り上げないで?
俺の唯一なんだ。
「そうかい。じゃあ来るかい?我が家へどうせこのまま死ぬ命だ。せいぜい娘の為に果てろ。」
こうして俺はフランチェス家の使用人になった。従者じゃなくて、メイドだったけど。
やっとそれっぽい人が出てきました。




