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人生の花屋

作者: 川里隼生

 雪に耐えて梅花麗し、という言葉がある。大雑把に言ってしまえば、辛い時期を乗り越えてこそ努力は報われる、という意味だ。


 私のこれまでの教え子の中で、一人だけ在学中に自殺した生徒がいる。いじめがあったわけではない。家庭内にトラブルがあったわけでもない。長髪の似合う真面目な女子生徒だった。遺書には、努力する意味がわからない、と書かれていた。彼女の葬儀で、私は彼女と、その両親への申し訳なさで押しつぶされそうになり、同時に自身の無力さを嫌というほど思い知らされた。


 彼女は将来の夢が定まっていなかった。『消去法で公務員しかないですかね』などと、冗談めかして言っていた。なりたいものがないのに、自分はどうして勉強しているのだろう。自分は何の為に生きているのだろう。意味がない人生なら、努力してまで生きなくても良い。もしかしたら、彼女はそう考えたのかもしれない。


 中学二年生だった彼女にとって、彼女の目に見える世界には魅力がなかったのだろう。中学生の世界とは大人から見れば狭いものだが、彼ら彼女らにとってはその世界が全てであり、三年間はその世界で過ごさなければならない。


 大人の我々にできることは、彼らにできるだけ多くの世界、多くの選択肢を提示することだと思う。優秀な高校、大学、企業に入ることだけが人生ではないし、世界には無数の生き方が存在する。人の生き方はそれぞれあって、必ずしも競争してトップを目指す必要はない。


 雪に耐えて梅花麗しというが、この世界の花は梅だけではない。梅に興味がないなら、桜を咲かせてみれば良い。チューリップでも良い。アジサイも素敵だ。そうやって、時に生徒から『多すぎて迷う』などと文句を言われたい。学校と花屋は似ている気がする。そう思いながら、私は今年も最後の教壇に立つ。卒業式後の最後のホームルームで、私は生徒一人ずつにスイートピーを渡し、この話をしている。

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