表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空に響け  作者: 遠野由羅
5/17

第2話 椿と桜

妃菜子#




 それからパートで音合わせをして移動するために廊下に出た。

「先輩、何時にコラールでしたっけ?」

「うーん、12時だと思うけど」

「いや、12時で合ってるんじゃない?」

2年生の桜ちゃんが夏美と栞に聞いた。

コラールとはパート練習が終わった後でする基礎練のクールダウン。

最近はコラールよりも「ふるさと」がいいって案も出ている。

「それじゃ、移動しまーす」

「はい!」

夏美の号令でみんなが歩き出した。


 コラールが終わって、それぞれが楽器を片づけに音楽室や準備室に戻る。

1、2年生は第1音楽室で3年生は準備室で作業をする。

私も譜面台を棚に戻すと、準備室に入った。

「今年のコンクール大丈夫かなぁ」

「うちらがこんなんだと無理なのかも」

フルートの奈那ななとのぞみが意見を言い合う。

「あ、よーことか受験を意識しすぎてて練習来ないもんね」

「でも仕方ないでしょ、うちら受験生だもん」

続けてホルンの美結みゆとサックスのゆかりが口々に言う。

 私はやれやれと思う。だって人のことを気にかけても仕方ないのに。

クラリネットのケースを開けて指紋拭きで楽器を拭いていると、椿つばきが聞いた。

「桜って、クラリネットパートでうまくやれてる?」

二重でパッチリしているけどすっきりとした印象を持たせる瞳。

ふっくらとした桃色の唇。

透き通るように白い肌と桜色の頬。

詩丘中学校一美人と言われる椿。

生徒会長も吹奏楽部の部長も務めている。

おまけに成績も優秀で男子からの人気も高い。

女子の私から見てもほれぼれするくらい。

「なぁに妃菜子、さっきから私の顔ばかり見て」

「いや、何も」

「何かついてる?」

「ううん、椿が可愛いなぁと思って」

「ふふ、ありがとう」

椿が照れくさそうに笑う。

ほめられるのには慣れているみたいだ。

「桜ちゃんは椿にそっくりだね」

「全然似てないよ。だって、気が合わないし」

姉妹きょうだいってそんなもんじゃない?私も夕菜とはけんかばかりしてる」

私はまじめに答えたつもりだったけど、椿は眼をぱちくりさせた。

「桜と仲良さそうに見える?」

肩よりも長い黒髪を手でいじりながら口を開いた。

「桜ね、なんだか変なの。あの子、一度だけ家族の前でかんしゃくを起こしたことがあるの。お父さんとお母さんが私ばかりひいきしてずるいって。

それから、私たちの前では何も言わなくなっちゃったの」

逸らしていた目線を私の眼に合わせた。

「同じパートの先輩たちとか後輩に相談できていたらいいんだけどって思うの。

ため込むのは良くないでしょ。だから、もし桜が妃菜に相談したらね。

優しくアドバイスしてあげて。桜はひとりじゃないって言ってあげて」

椿は弱々しく儚げに微笑んだ。

椿は妹想いのいい姉だなって思った。

「わかった。桜ちゃんがもし何か言いたそうだったら力になるよ」

楽器を片づけていた手を止め、椿の両手を握った。

「桜ちゃんは椿が思っているよりも弱くないよ」

私としては精一杯の笑顔で椿ににっこり微笑んだつもりだったけど

椿は私よりもずっとずっといい笑顔で「ありがとう」って言った。

私も夕菜のこと気にしなきゃだめかなって思った。




椿は本当に何でもできる子です。作者の私とは大違いです。少しうらやましく思っています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ