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空に響け  作者: 遠野由羅
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第1話 パート練習で

妃菜子#




 見上げると、青い空と白い雲。

飛行機雲が入道雲の隣に架かってくっきりと浮かび上がる。

 季節は夏。

夏の始まりを告げる蝉たちもいよいよ本格的に騒がしく鳴き出した。

首筋に汗が浮きあがって長い髪がはりついた。

タオルを出すのが面倒くさくて手で振り払う。

それからまた、開け放された窓の向こうを見つめた。

「こらぁ、妃菜子っ。練習しろっ」

大きな声が耳に響く。うっとうしくなって声の主である夏美の方を向いた。

「ああ、分かってる。今だってちゃんと練習してたのに」

夏美とは私の親友なのかもしれない。

家が近所だったために小さい頃から一緒にいたから、

いつも一緒にいて当たり前になっている。

「よそみする時間じゃないんだって、個人練習の時間だよ?」

夏美は暑さでイライラしているのか、私にくいついてくる。

「はいはい、アリアの練習すりゃいいんでしょっ」

「よーくお分かりで、最初からやってくれてたらなぁ」

二人ともだんだんむきになり、けんか腰になってくる。

そうすると、二人じゃ止められなくなる。

「あー、二人とも止めてよ。1年生も2年生も困ってるってば」

仲裁に入るのは栞。いつもぼんやりしていて大人しいけど、

いざというときは頼りになる。

「あ、ごめん。パーリーの私がこんなことしてたらだめだよねっ」

夏美はさっきまでしかめっ面をしていたのに急に穏やかな表情になる。

つられて私も表情を緩める。

「じゃあ、最初っからみんなで合わせよっか」

「はい!」

夏美の号令にみんなが大きく返事をする。

「1、2」


カチカチ


メトロノームの規則的なテンポに合わせてコラール調のメロディが響く。

隣のパート練習の教室ではホルンとフルートが暑い中で

自分たちの音を見つけようと練習している。

1stと2ndと3rdと低音のバスクラの心地よいメロディの中で

私は自分のメロディを奏でた。

 1分か2分くらい吹いた後で急に夏美が「ストップ!」と言った。

みんなが吹くのをやめると夏美はメトロノームを止めてから

「なんか、もうテンポが揺れてるよ」

と注意する。2年生は夏美の言葉を楽譜にメモする。

1年生は私たちと別の基礎練習をやってるから、メモすることはないけど

先輩が話している間は吹かないように言ってあるから静かにしている。

「妃菜子は高音だから、つい口を締めすぎちゃうかもしれないけど

音程が合わなくなってきてるからちゃんと合わせて」

「はい」

夏美はチューナーで合わせるようにと指示する。

チューナーとは音程を合わせるための機械で吹奏楽部には絶対に必要。

夏美が次々と課題を言っている中で私は教室を後にした。


B♭(実音はシの♭、ベイクラではド)――――――


クラリネットの丸い音が廊下に響く。

夏美の言ったとおり暑さのせいで楽器が温まり、少し高くなっていた。

管の長さを調節して音楽室の戻ると個人練習の最中だった。

「今からさっきできなかったところの個人練習だから、妃菜子も練習して」

夏美がバスクラから口を離して私の方を向く。

汗ばんだひたいが妙にくっきりと浮かび上がった。

「うん。わかった」

さっきできなかったところと言われてもいまいちピンとこない。

でも割と難しめな十六分音符のメロディを練習する。

だんだんと課題が見えてくるところが個人練習のおもしろいところ。

まわりのみんなも練習しているけど、楽器を吹いているときはいつも孤独だ。

その孤独と向き合いながら問題点を探すという課題を据えながらマウスピースに口をつけた。


妃菜子と夏美の関係を描いた作品を作れたらいいなと思っています。ふたりの関係は私の中でもお気に入りです^^

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