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空に響け  作者: 遠野由羅
16/17

第12話 少しでも・・・





美結#





 期待と不安が胸に広がる。

緊張とか、そういうのじゃなくて勝ち負けが決まるときの体が疼く感じに似てる。

「美結、どうしたの?震えてるけど」

椿が心配そうにホールのクーラーで冷え切った私の手を握り締め、言う。

「大丈夫よ。なんともない」

「そう、なら良かった」

ほっと安心したように柔らかい笑顔になる。

 私は彼女の暖かい笑顔が好きだ。

こう言うと変態みたいに思われるかも知れないけど、好きなものは好き。

それは彼女が普通の人よりも可愛いからとか美人だからとかいった理由じゃなくて、彼女の笑顔を見ると安心するから。

「椿せんぱーい、パーカの配置ってどうしますかぁ」

「はーい」

椿は他の部員に呼ばれて私の元を離れて行く。

部員たちに慕われて、この学校の皆から好かれている椿がうらやましかったりもする。


 サマーコンサート。

詩丘中が演奏する曲目は全日吹奏楽コンクールの課題曲と自由曲。

課題曲は「青空と太陽」、自由曲は「ルーマニア民族舞曲」だ。

 2,3年生合計35人と、23人いるうちのほんの一握りの1年生7人が舞台に上がる。

残された1年生は舞台裏で楽器運搬の手伝い係に当てられる。


 ホルンパートは1年生の麻妃ちゃんが4thで、奈子ちゃんはお手伝い係。

麻妃ちゃんは真っ直ぐな音で、1年生にしては上手すぎるくらい柔らかい音を奏でる。

奈子ちゃんも下手な方ではないのだけど、やはり麻妃ちゃんの方が上手い。


 さっきリハーサル室で奈子ちゃんにもらった応援の手紙が、ポケットの中でくしゃりと音を立てた。


――――――もうすぐ、始まる。


 前の学校の演奏が終盤に差し掛かった。

脇に抱えたホルンをギュッと深く抱え込む。

体中の血が冷めていく感じがした。











 指揮棒タクトが振られてから下ろされるまでがあっという間だった。

気が付いたらもう、安堵感で胸の中がいっぱいだった。


「お疲れ様です、すごかったですよー」


奈子ちゃんが私と私の隣に居る椿に言う。

そして晴佳ちゃんの方にも声をかけるために足早に去っていく。


「美結、緊張してたでしょ?音裏返ってたよ」


「うん。目立ったかな」


「大丈夫、そんなちっちゃなこと隣の私しか気付いてないよ」


「だといいけど」


 嘘つき。


本当はかなり目立ってたよ。

優しい言葉をかけてくれる椿が鬱陶しいし、愛おしい。



「ルーマニアのソロ、すっごく良かった」


 私が落としていた目線を上げて、椿の顔を見て言った。

不安げ、というより私を心配してか曇った表情だったのに一瞬で笑顔になった。


「ありがとう」


なんていうか、この笑顔を見るたびに思うんだ。

女の子ってすごいな、って。

自分も女だけど、こんなに愛くるしい笑顔はできない。


女の中の女っていうんだろうか。


こんな笑顔で見つめられたらひとたまりもないな。

きっと私が男子だったら惚れてしまう。

いや、もう惚れてるか・・・。



「部長、指示出してくださーい」


 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

つかの間のおしゃべりも、終わりを告げた。



「楽器が片付いたら、トラックに乗せてください。それが終わったらパーカッションの手伝いに行ってください」


 椿が指示を出すと、それに答えて部員たちがぞろぞろと動き出す。

私もその後に続く。


 楽器を片付けながらふと思う、こうやって見られる景色も次が最後になる。

全国大会に行けるほどの実力があったら、夏休み中に引退することはないのだ。

だけど、一昨年の先輩たちのような実力が今の詩丘中にはない。


 こんな程度の演奏しかできないのじゃだめだ・・・。

変わらなきゃ、少しでも長くみんなと一緒に舞台に上がりたいから。


そう、呪文のように自分に言い聞かせていた。






















美結を励まそうとする椿がどこか空回りしてしまっているような感じがしますね(笑)コンクールの結果に期待しましょう。

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