第11話 ホールにて
澄子#
「三笠先生、今日絶対成功させましょうね」
「ええ、そうね。約束よ」
「はい」
詩丘中吹奏楽部の部長で生徒会長でもある西島椿が言った。
彼女は私の返事を聞くなり、屈託のない笑顔でにこっと笑った。
そんな彼女につられて私も小さく笑う。
「西島さん、自身はあるの?」
「自信なんて、そんなものないですよ」
「そう」
「自信なんてなくても、最高の演奏をするための努力をすることはできます。私は今日、今までで最高の演奏をするまでです」
彼女は本当にしっかりしている。
彼女の答えにはいつも感心させられてしまう。
「へぇ、しっかり考えているのね。感心だわ」
彼女は照れ臭そうに白い歯を見せてはにかんだ。
「三笠先生、トラックがつきましたよ」
椿と他愛もない会話をしているうちに、パーかっションやその他大きな楽器を乗せたトラックが美空ホールに到着したらしい。
「ええ、今行くわ」
トラックの到着を知らせにきた副部長の春山有佳に返事を返すとトラックの方に小走りで急ぐ。
「詩丘中学校の三笠先生ですね、今から楽器をおろしますので生徒たちに指示の方をよろしくお願いします」
「はい」
トラックは詩丘中学校の校長の方が手配しているので、私は今初めて運転手と会った。
40代後半くらいの日に焼けた健康そうな小麦色の肌が目につく。
身長は180センチくらいありそうな大柄な男だ。
「1年生はパーカッションを舞台裏まで運んでちょうだい」
『はい』
「2,3年生は自分の楽器をおろして楽屋まで持って行って、フルートとクラの子はそのまま楽屋へ」
『はい』
1~3年全部合わせて60人ほどいるので楽器運搬はスムーズに行うことができる。
生徒たちの自主性が高いので、部長と副部長が出す号令に進んで行動できる。
それが私の誇りでもある。
10分ほどでほとんどの楽器の運搬を終えて本番までロビーで過ごすことになった。
「今日の演奏で全日コンクールの予選通過高の予想がされます。演奏会とはいえ、全力を出して演奏しましょう」
部長の西島椿が部員全員に呼びかける。
『はいっ』
それに部員全員が声を合わせて返事をする。
「まぁ、今日は本番じゃないしね。少々手を抜いてもだいじょーぶ」
副部長の春山有佳がチャラけた様子で言う。
さっきの椿の言葉と違ってずいぶん間の抜けたような言い方だが今まで緊張していたのだろう、肩に力を入れて恐ろしいほど真剣な顔をしていた部員たちの表情がさっきとは一変しておだやかになる。
それがこの子のいいとことでもあると思う。
「詩丘中学校、準備してください」
他中の案内係が呼びに来て、もうすぐ本番というところまで迫った。
「先生、行きましょう」
椿の言葉で各々が楽器を携えてホールの舞台袖へ向かった。
今回の視点は顧問の三笠先生です。初めて教師の立場になって小説を書いてみましたが、やっぱり難しいですね(笑)次回はやっと本番です。本番前が長くなってしまってすみません。