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空に響け  作者: 遠野由羅
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第8話 ティータイム

「道子ちゃんはどこの高校を受験するの?」

 クーラーでよく冷えた部屋の中でアップルミントのハーブティーをすする。

夏なのに肌寒い部屋で温かいハーブティーを飲むのはどこか異質だ。

「私は高校はどこでもいいんです」

「あら、そんなこと言って。道子ちゃんは勉強がよくできるから県内でもトップの高校をうけるんでしょ」

お母さんの姉。私のおばさんで私の名付け親である椎香しいかさんは私を過大評価している。悪い気はしないけど、なんだか申し訳なく思う。

「姉さん、道子は高校でもフルートを続けたいんですって」

「まぁ、そうなの?道子ちゃんには特技があっていいわね。家の琴子ことこに分けてやってほしいくらいだわ」

琴子とは私のひとつ年下の従妹。吹奏楽部でクラリネットをやっているらしいけど椎香おばさんはフルートをやってほしかったと思っている。琴子だってピアノを弾けるじゃないか。

なにはともあれ椎香さんの自慢の娘だ。

「それじゃ、私用事がありますから。失礼します」

残っていたハーブティーを一気に飲み干すとキャミソールのワンピースの上から半袖のパーカーをはおるとお辞儀をして家を飛び出した。

 私は正直椎香おばさんが苦手だ。あのおっとりした雰囲気といい、私を過大評価するところといい。身内にこんなことを思うのもどうかと思うけど・・・。

 今日は同じフルートパートの3年生たちとショッピングに行く約束をしている。

みんな受験勉強で忙しいけど、今日みたいに1日まるごと部活がないという日はとても珍しいからこの機会を逃してはならない。

「あ、奈那にのぞみ。ごめん待った?」

手を合わせて駆け出す。おばさんの相手をしていたから遅れたのだと思った。

「大丈夫だよ。うちらも今来たところだから、ねぇ?」

「うん。道子も忙しいだろうし。無理に誘った私が悪いんだね」

のぞみが奈那に同意を求めて、奈那が自分を犠牲にして言う。

本当に変わりない、ここは居心地のいい私の居場所だ。

 自転車で風を切って午後の街を走る。日差しはちょうど真上で照っている。

ショッピングセンターに到着して自転車に鍵をかける。

みんな念入りにチェーンをかける。この辺りでは自転車盗難が多いためだ。

私も以前1度だけ鍵をかけ忘れて取られたことがあった。

お母さんにこっぴどく叱られ、それからは鍵をかけ忘れるということはなくなった。

「まずはお茶しよーよ。話したいこといっぱいあるんだぁ♪」

のぞみが鼻歌交じりに言う。いつもショッピングセンターのなかにあるカフェでお茶をすることがこの辺りを訪れる中高生の日課になっているらしい。

「私はカフェモカで」

「私はカプチーノ」

「じゃぁ、エスプレッソ」

3人ともそれぞれ別のものを注文する。そしてお菓子はブラウニーを分け合うのが当たり前になりつつあった。

「まずはフルートパート1年の話でーす」

のぞみが上機嫌で話題を持ちかける。奈那はブラウニーをつまむ。

「最近さぁ、練習不足だと思うんだよね。だっていつもしゃべってるよ」

「確かに。最近第1音楽室から練習する音が聞こえないと思ってたんだよね〜」

奈那も肯定して付け加える。私もその意見には賛成だった。

「2年生はまじめにやってるみたいなんだけどね」

「そうそう、知尋ちゃんなんか最近すごくうまくなったよね。まぁ、元から習ってるってこともあるだろうけどさ」

「あっ、そうそう。次のパーリー誰にする?」

奈那が別の話題に入ろうとする。その話は前々からしようと思っていた話だった。

「私は知尋ちゃんが良いと思うなぁ。フルート上手だしぃ」

「え、でもね。私は麻結ちゃんが良いと思うよ。だって知尋ちゃんって気分屋じゃん」

「麻結ちゃんもいいけど。どこか控えめ過ぎると思う」

さまざまな意見が飛び交う。これもフルートパートの特色なのだ。

クラリネットはもう桜ちゃんと佳乃ちゃんのどちらにするか決めてあるらしい。

そんなスムーズに決まれば苦労はしない。

「知尋ちゃんは2年生の中でも扱いにくいよ。その点、麻結ちゃんはすぐに慣れるから」

「慣れとかの問題じゃないよ。もうパートの中で定着してるし」

知尋ちゃんはマイペースで気分屋で怒りっぽいし性格の変化が激しい。

麻結ちゃんは温厚で親しみやすいがどこか控えめで自分を表に出さない。

パートリーダーにどちらを出すかというのが本当に悩みの種になっている。

「うちらのパートの場合はさ、難しいよね。だって決められないもん」

奈那がここのカフェ独特の赤いストローで二杯目のアイスコーヒーをすする。

唇を尖らせて不服そうに目を細めている。

「じゃぁ、明日1年生に聞いてみようよ。どっちがパーリーに向いてると思う?って」

私はみんなに提案してみる。2人とも少し考えてから、

『あ、それいい〜』

と見事にハモった。

 今日のショッピングはこれでお開き。ショッピングと言っても買い物はしてないけど、

それもいつものこと。カフェをするためだけにここに来るようなものだから。

 それにしても久しぶりにみんなで話し合うのも気持ちよかった。

引退まであと少しかぁ。

そう考えると寂しくてみんなと離れるのが恐くなってくる。

 



カフェのイメージは某コーヒーショップです。あそこのバケットサンドは私の好物のひとつでもあります。

道子たちの好物はブラウニーのようですね(笑)

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