第9話 町へ
「条件ってなんだ」
「ヌカタとそこのデビル・スライムは、絆で結ばれているようだからこそ、お願いできる」
「絆だと? ふざけてるのか」
「私は呪術師だ、いろいろなものが見える。このデビル・スライムは危険だが、ヌカタに手を出すとは思えない。またヌカタに必要な人間にも手を出さないだろう」
「そんな頭があるのか?」
「デビル・スライムは普通のスライムと違って、かなり賢い」
マジかよ。
賢い方が困るんだよなあ。
俺が解放されようとしている、って悟ったら、とんでもないことになるじゃないか。
「わかった。条件があると言ったな。先払いか?」
「いや、私は優秀な呪術師だ、金には困ってない。殺してほしい人物がいる」
畜生。人の足元を見やがって。
殺人だと? そんなもん、暴力団組員だって今どき引き受けないだろうが。
「殺人したら、警察に捕まるだろうが」
「捕まらないよう、うまく殺せばいい。またつかまりそうになっても、私が逃がしてやる。警察には恩を売っている」
信用できるのか、これは。
どちらにしろ、町に出る必要はある。
町でこいつのことを調べたり、ほかの呪術師を探したりしたい。
「わかったよ。協力しよう」
「その人物はムギル。最高の魔法の使い手と言われている」
鑑定グラスと奴隷化のスキル、それがあれば何とか出来るだろう。そいつが魔法反射を持っていなければ、一発だ。
「ヌカタならたやすい仕事かもしれない」
呪術師はすぐ町に帰った。
奴隷となっているミヤビに質問した。
「俺がアカに乗って町に行ったらどうなる?」
「あのモンスターを従えている人間は、ほとんどいませんね。ナー・ザルであれば、大丈夫だと思いますが」
「スライムを従えているやつはどうだ?」
「相当珍しいです。スライムもなつきません」
じゃあ袋にでも入れて連れていくしかないな。
町への案内はミヤビに頼む。
スライムの説得をしないとな。
「なあ、スライムさん」
俺は川でざぶざぶスライムを洗ってやりながら言う。
「町に行きましょう。でも、やたらめったら殺してはだめですよ?」
ミヤビから聞いた町の様子、大勢の人、食事の風景などのイメージを送る。
スライムはコクコクとうなずいた。
なんだ、こいつ。うなずくようになったのか。人間っぽくなったな。気味悪っ。
ん? なんだ?
状態:ヌカタの主Lv2
ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと! Lv2!? 勘弁してくれよ。どういうことだ。
え?
俺が尽くしたからこうなってるわけ? やばいよね? これもし、Lv10になったら、俺どうなっちゃうわけ? 相当まずい展開だよ!
さっさと町に行って、呪術師に依頼されたムギルってやつを殺さないと!
ミヤビに「町に入りたい。準備をしてくれ」と頼むと、なんとミヤビたちは、車で森に入ってきた。
ええ!?
この世界、車あったのか?
もっと文明すすんでないと思っていたな。
すげえ進んでるのか?
だが、車はちょっと古めかしい。
町に行けばわかるだろう。
後部座席に乗り、ミヤビに町まで運転してもらった。
俺と、白い袋に入れたデビル・スライム、三匹の深緑色のナー・ザルとゆく。
アカとは、いったんここで別れた。
町は思ったよりも発展していた。
日本でいば、明治時代初期程度かもしれない。
車も走っているが、多くはない。おそらく相当な高級品なんだろう。電車も走っており、人々は和服だったり、洋服だったりするが、和服の方が多い。
俺たちはターゲットの自宅から、五キロの場所の旅館に泊まった。
すぐ調査を始めなければならない。
だが、和室にミヤビと入り、ちょっとミヤビとお風呂にでも入ろうかな、なんて思っていたら、スライムが袋から出てきた。
水浴びがしたいらしい。
ふざけんなよ! バカ! こっちは忙しいんだよ! だが頭痛に見舞われてもことなので、大浴場に一緒に行く。
誰もいないのを確認して、袋から出し、温泉でざぶざぶ洗ってやると、めちゃめちゃうれしそうにしていた。
ああ、先が思いやられる。大丈夫だろうか。