第8話 呪術師
「こんなとんでもないモンスター、初めて見たな。私は餌として連れてこられたのか?」
ミヤビたちの後ろに、黒いワンピース姿の美女がいた。青い髪に真っ白な肌。瞳は切れ長、気の強そうな顔をしている。
「呪術師か」
「お前は誰だ。このモンスターは? これほどのモンスターを手なずけているなら、相当な使い手だろうな」
「俺の呪いを解いてほしい」
「この盗賊たちはなんだ。なんで目の前で仲間が殺されても、平然としている。おまえ、呪いをかけたな」
「違う。話を聞いてくれ」
「こんな凶悪なモンスターのまえでは、言うことを聞かざるを得ないな」
奴隷化してやろうかと思ったが、思いとどまった。魔法反射があるかも、という恐れもあった。
ミヤビが「主様。こちらの商品も持ってきました」と鑑定グラスを渡してくれた。一見普通のレンズの丸い眼鏡だ。
かけて、呪術師を見る。
名前:ナーセ
HP :100/100
攻撃力 :10
守備力 :100
魔法攻撃力:110
魔法防御力:110
スキル :魔法反射Lv1 解呪Lv6 呪いLv4
あぶねええええええ。
こいつ魔法反射もってるじゃねえか。危なかった。
奴隷化を使ったら、はね返されたはずだ。
奴隷化はめちゃくちゃ強いスキルだ。
だが魔法反射にだけは気を付けないと。
つかさ、この世界に俺を連れてくるならさ、ちゃんとそのあたり説明しておけよ!
俺はナーセに事情を説明した。
「はあ? スライムの奴隷になった? 気は確かか」
「本当だ!」
デビル・スライムと名前を変えたバカスライムは、また盗賊を触手で絞殺し、その体に覆いかぶさっている。
「ミヤビたちはどうだ? 平然としているだろう」
「確かにな。異常だ。薬物でも使ったか、呪いをかけたかだ」
「俺の奴隷化ってスキルのせいだ」
「そんなとんでもないスキルがあるとは信じられん」
「じゃあこの鑑定グラスで見てくれ」
俺はナーセに鑑定グラスを渡した。
「本当だ。スキルに奴隷化Lv2とある。こんなスキルが存在していたとは。じゃあ私も、奴隷にできるのか」
「いや、ナーセは魔法反射を持っているだろう。だから無理だ」
待て待て、奴隷化がLv2になっていたのか。
畜生。あのスライムに会う前に、もっと他のモンスターを奴隷化していたら、反射率がもっと低かったかもしれないのに。
「奴隷化という魔法スキルをはね返されて、奴隷になった、か」
ナーセはミヤビを鑑定グラスを通して見る。
「本当だ。状態:ヌカタの奴隷となっているな」
「何とか出来るか」
ナーセは鑑定グラスを俺に返し、自分のカバンから赤い鑑定グラスを出して再び俺たちを見る。
「なるほど。そういうことか。おいおい、あのスライム、デビル・スライムではないか。一匹で町を滅ぼすようなモンスターだぞ。管理できているのか?」
「わからないから、早く解放されたいんだよ」
「正直、私はまだ若い。いま二十二歳、呪術師になって六年だ。町では最も優れていると言われているが、経験は少ない」
「ほかの呪術師なら?」
「さあな。状態異常の欄に、奴隷という文字は、奴隷であっても表示されない。状態異常ではないからだ。混乱や毒、眠り、そして呪いだけだ」
「呪いの種類じゃないのか」
「聞いたことがないな」
畜生。振り出しじゃないか。
あのスライム、バクバク人間食べてる、このままじゃやばいよ。
しかも一匹で街を滅ぼすモンスターだって? 町に行こうぜってあいつから言い出すかもしれない。
そうなったら、俺も一緒に町を滅ぼさないといけないじゃん。ああ、なんてことだ。
「ヌカタ。私は、奴隷という状態異常は知らないし、治し方もわからない。でも、状態異常の欄を、確実に真っ白にする方法を知っている」
「本当に?」
「私の家は、先祖代々呪術師だ。様々な術が伝わっている。その術の一つで可能かもしれない」
「頼む! 俺のスキルはわかっただろう? ステータスも。モンスターを退治するとか、いろんな方法で、合法的に稼げる。後払いになるが、な? 頼む」
「条件がある。こちらの願いを一つ、聞いてもらいたい」