第6話 嫉妬
「おい、ミヤビ以外全員、一列に並び、後ろを向け!」
盗賊たちは野球部みたいに「はい!」と元気良く返事をして、従った。
「ミヤビ、俺の言うことを何でも聞くよな?」
「わかりませんが、そうしたいと思っています」
「それは奴隷じゃないのか?」
「さあ。こんな気持ち、初めてなので」
「奴隷から解放されるには、どうすればいい」
「お金を払い開放してもらうか、慈悲をかけてもらうかでしょう」
はあ? 慈悲をかけてもらう? 俺はそばに這ってきたスライムを見る。
お願いすれば俺を解放してくれるか?
「魔法で奴隷状態を何とかできるかわからないか」
「すみません、言ってる意味がわかりません」
「畜生。ミヤビ、俺から自由になるにはどうすればいい」
「私は自由ですよ」
「そうじゃないと教えてやる。ミヤビ、服を脱げ」
「え?」
「嫌だろう、恥ずかしいだろう」
「脱げというなら、脱ぎます」
ミヤビは半そでの黒いシャツを脱ぎ、ジーンズに似た紺色のズボンのファスナーを下げた。
「待て待て、何で従う」
「あなたのためなら、従ってもいいと思ったからです」
「本当は嫌だろう」
「不思議と、嫌じゃありませんね」
「本音を言え! 嫌だろう」
「いえ、主様の命令ですから」
おいおいおーい! どういうことだよ。
つか、人間が魔法反射の能力を持っていたら、俺もこうなっちゃうってこと?
どういうことなんだろう。
俺はスライムに悪口を言える。
「おい、スライム、最近デブになったな。このバカ」
こうして言えるぞ。
あれ? これはスライムに言葉が通じないからか?
とにかくこのミヤビは、完璧に奴隷になっている。何でも言うことを聞く状態で、心には何の反感もないらしい。
いや、本当はあって、それが言えないってことか?
「ミヤビ、本音が聞きたい。開放して欲しければ、お前だけ開放してもいい」
「結構です」
すごいな。この魔法はすごい。
何で俺は、スライムにそこまでの忠誠心を持ってない?
俺の「奴隷化」は、超強力なスキルだ。だが魔法反射では、その100%を反射できず、80%ほどを跳ね返した、ってことなのかもしれないな。
それならば、ミヤビの場合と、俺の場合の差が説明できる。
この「奴隷化」が今回は全員に通用したが、魔法反射を持つ人間がいる可能性はある。気を付けないとな。
「ミヤビ、相手のステータスを知るにはどうすればいい」
「鑑定グラスを手に入れれば、可能ですね」
それを使えば、俺のステータスもわかってしまうということか。
「簡単に手に入るのか」
「非常に高価なものです」
「スキルに『鑑定』ってあるのか」
「ごくまれに、持っている人がいるそうです」
町にすぐ出ることは、危険かもしれないな。良く考えよう。
そのとき軽い頭痛がした。
スライムから、人間を死体を食べるイメージが送られてくる。
おいおい、マジかよ。さっき食べたじゃないか。こいつ、本当に人間の味を覚えたなあ。
嫌だなあ。
盗賊を配下にしたんだから、うまく使いたいんだよなあ。
痛い痛い、わかったよ。
俺は適当な一人の男をそばに呼び、地面に寝かせた。
「おい、ミヤビ。こいつを殺して、スライムのえさにする。いいかな」
「主様が望むのなら」
おいおい、すごいな。奴隷になるって、ここまでのパワーかよ。スライムの魔法反射の威力が、100%じゃなくて良かったわ。
スライムは生きてると食べる気がしないらしい。だからといって、自分で殺さない。
ナー・ザルに首を切断させた。
するとスライムは、うきうきと死体に覆いかぶさった。
ミヤビから情報を引き出そうとするが、全然ダメだった。
ステータスの状態の欄に、奴隷とあるのだから、何らかの方法で、解除できると思う。
だがミヤビは知らないのだ。
夜、せっかくだからミヤビと寝ようと思った。ミヤビは美しい。
百六十センチほどで、色白、赤い髪はつやつやだ。
目が大きく、鼻が高く、笑顔がかわいらしい。
ドーム上の空間の端に、毛布を敷き「ミヤビ、おいで」と呼ぶ。
ミヤビが隣に寝る。フフフと思ったとき、頭痛がした。
え?
起き上がる。スライムがこちらを見ている、ように思える。
どういうことだよ。
また寝転がると、頭痛。
スライムを抱きしめているイメージが送られてくる。
え?
俺はスライムをそばに呼び、撫でてやる。気持ちよさそうにしている。
じゃあミヤビと、と思ったら頭痛。
ちょっと待って?
このスライム、嫉妬してる?