第20話 レイア
がっかりして、だが希望は失わず宿屋に帰った。
二階の和室に入ると、「おかえり、ヌカタ」とアンズが、スライムの格好のまま言った。
バカが。疲れて帰ってきたんだから、かわいい女の格好で出迎えろ!
いかん、なんかダメ亭主みたいになってきた。
誰が亭主だァァァァ! 違う! 亭主どころか彼氏でもない!
ナーセの妹に会いに行こう。
妹は、温泉で有名な町にいる。
「アンズ、温泉に行かないか」
「温泉に?」
大福が意外そうに聞く。
「思い出作りだよ。二人で楽しい旅行しようよ」
「思い出作りもいいけどさ、新居を買って、安定した生活を送ることもいいんじゃないかな」
とかわいい声で、恥ずかしそうに言った。
バカ野郎ォォォ! 何が安定した生活だよ! お前といて安定していたことなんてただの一度もないわ! そもそもセンカに会いに行く前、おなかが空くといけないからって、百人くらい喰っちまっただろうが!
安定の意味知ってんのか!
「いや、思い出作りも大切だよ。安定した生活なんて、いつでもできるじゃなか」
「そうだね! 家族が将来増えたら、忙しくなるかもしれないもの」
家族ゥゥ!? 勘弁してくれよ。大福のくせに、子供を産むつもりかよ!
おまえは大福なんだから、あんこは産めるかもしれないが、子供なんて絶対産めないわ!
いや、どうなんだろう。
こいつはただのスライムじゃない。いかれた化け物大福だ。それに人間にも変化できる。
あれ? 子供産めるのかな。
そうだったら、やばいな。
こいつ子供とか、絶対見たくない。
話の流れから言って、俺が父親ってことでしょ?
絶対嫌だよ! 無理! なんでこいつと!
「そうだね。いまのうちに一杯思い出を作っておこう!」
畜生! こんなこと言いたくない!
「うん! ヌカタと一杯思い出を作る!」
我慢だ、笑顔を浮かべろ、笑顔を。
翌日には、ドラゴンモードになったアンズの背中に乗り、音速を超えマッハ3くらいのスピードで飛んだ。
アンズは気を使って、ドーム状の空間を作り、そこに俺を入れた。
ありがとうな、アンズ。
だが時期が来たら絶対奴隷にして、殺してやる! そりゃそうだ! こいつは人類の敵でしかない!
ナーセの妹は、温泉旅館で暮らしているらしい。優秀な呪術師で、金に困らないから、一年中旅行しているそうだ。
うらやましい限りだ。
いたるところから湯気が立ち上る温泉街に降りる。アンズは「一緒に歩こうよ」と言って、うつくしい女性に姿になった。
170センチほどで、やせており、桃色の着物を着ている。目は細く、少し冷たい感じがする、小麦色の肌の美女だ。
いや、きれいだよ。きれいだけどもさ、認めたくないんだよな。
「どうした、ヌカタ。もっと違う容貌がいいか?」
まずいまずい、こいつに不信感を持たれたら、消されるかもしれん。
「いや、アンズであれば、どんな容貌だろうが大好きだよ」
「もう、ヌカタは、本当にしょうがない奴だな」
俺は美女になったアンズと、ナーセの妹が宿泊する旅館まで歩いた。
俺はアンズに「先にお風呂に入ってこい」と言い、ナーセの妹の部屋を受付で聞いた。
部屋にいると思う、と受付の男は言う。
すぐ三階に上がり、ドアをノックした。
「はい」
「ヌカタです。ナーセの紹介できました」
「どうぞ、どうぞー」
軽い感じの返事が気になったが、引き戸を滑らせ、中に入った。
浴衣を着た女が、畳に横になっていた。
「あの、ナーセの妹の?」
「そう、レイア。よろしくね」
ナーセは真面目そうな雰囲気だが、レイアは遊び人にしか見えない軽そうな女だ。
茶髪で肌は真っ白、目は大きく容貌は愛らしい。
だが浮ついた面立ちだ。
「助けてほしいことがあってきた」
俺はレイアに説明すると、レイアはとんでもない反応を示した。
「本当に!? スライムと人間の恋ってこと?」
「恋じゃないよ。説明しただろう」
「でもさ、スライムの方は、ヌカタを大好きなわけでしょ?」
「まあ、そういう感じだ」
「素敵じゃん! いいじゃん、スライムと子供産めるか試したら?」
「バカかお前は! 困ってるんだよ、こっちは! 助けてくれたっていいだろうが!」
「でもさ、奴隷化ってスキルで、あなた、好き放題してきたんじゃないの?」
レイアの視線が鋭くなった。
レイアはただの浮ついた女じゃないようだ。