第18話 ドラゴン
落ち着こう、俺。
「アンズ、一回離れてくれ」
「なんだよー、ヌカタ、絶対に驚くと思ったのに」
「驚いたよ」
俺は冷静にステータスを観察した。「変化Lv1」というスキルを所有している。
コノハ・オオカミを大量に吸収したせいだろう。
なんだかもう、驚けなくなってきた。
俺、こいつから逃れることできるのか?
「ヌカタ、好きな女性のタイプを言ってみなよ。その格好に化けてあげる」
「いや、そんなことは不要だ。俺は見た目に左右されない。アンズの存在、そのものを愛しているんだから」
「もう、ひとめぼれしたくせに!」
「アンズ、今日も修行に行こう。俺、強くなりたいんだよ。アンズはすごく強い。でも俺は弱いだろう? もっと強くなって、アンズに負けないくらいの存在になりたいんだ!」
「ヌカタ、そんなことを考えていたのか。大丈夫だよ、どんな状況になっても、私はヌカタのそばにいるよ」
迷惑だよォォォ! 美少女に化けられるってところは、よく考えたら素敵だよ。
だけどおまえはスライムなうえ、人間を平気で食べるうえ、めっちゃくちゃヤンデレで嫉妬深いじゃねえか!
俺はもっと自由に生きたいし、普通の女の子が好みなんだよ! もう、お払いに行きたいわ!
「修行に行こう」
「わかったよ、ヌカタ。そういう真面目なところも好きだぞ」
俺はおまえのすべてが嫌いだよ!
とにかく、奴隷化のレベルを上げよう。これしかない! 魔法反射は厄介だが、まだLv6だ。こっちが10なら無効化できる可能性がある。
また、アンズに匹敵するモンスターが存在しているらしい。そいつらを仲間にして、討ち取るって方法もある!
俺は嫌なことは考えないようにして、再び、ランボルギーニの最高速度並みで走るアンズに乗って、山の頂上へ行った。
ここでとんでもないことが起こった。
何かが近づいてきた。
え? なんだあれ?
ドラゴン? ドラゴンだよな?
何という幸運!
鑑定グラスをかける。
名前:ナイエン・ドラゴン
HP :20000
攻撃力 :40000
守備力 :60000
魔法攻撃力:50000
魔法防御力:60000
スキル :火炎Lv9 重力操作Lv8
おお! 相当強いじゃない。
こいつとアンズが戦えば、アンズは死ぬんじゃないの?
いや、その前に奴隷化を使おう。
従えるイメージ。
絶対に従える、あいつを!
行け、奴隷化!
空を飛ぶドラゴンのすぐ下に、紫色の星のマークが現れ、光り輝く。
全長百メートルの真っ黒のドラゴンは、こちらにゆっくり飛んできて、俺たちの前に着地した。
山のような大きさだ。
名前:ナイエン・ドラゴン
HP :20000
攻撃力 :40000
守備力 :60000
魔法攻撃力:50000
魔法防御力:60000
スキル :火炎Lv9 重力操作Lv8
状態 :ヌカタの奴隷
よし!
大丈夫だ。どんなモンスターでも、俺は奴隷にできる!
これはとんでもないチャンスだ!
アンズを殺せ、黒いドラゴンよ。アンズを攻撃しろ!
アンズをぼろぼろにするイメージを送る。
黒いドラゴンは、アンズに、重力魔法を発動した。
アンズはズズズっと地面にめり込んでいく。
よし! 俺は今のうちに逃げよう!
「ヌカタ、早くここから離れろ! 私が引き受ける!」
クゥッ、ちょっと罪悪感あるけどさ、しょうがないよね? だって俺、自由になりたいもん。
あんな人間食べる化け物、嫌いだもん。
ドラゴン行け! 重力操作で動けなくなってる! 火炎魔法で焼き尽くせ!
ドラゴンは火の息吹を吐き、巨大で真っ黒な爪を、スライムに突き刺した。
死んだな! ざまあみろ! 化け物大福が! 次はどらやきにでも生まれ変わりな!
ん?
アンズは、ぴんぴんしていた。
触手を何百メートルも伸ばすと、それをドラゴンに巻き付けた。
黒いドラゴンは苦しそうにしている。
待て待て待て待て、ドラゴン、頑張ってくれ。頼むから。頼むから倒してくれ。
ステータス的に倒せない相手じゃない。
アンズは、防御力凄いよ? でも、お前のステータスならいけるって!
ドラゴンは口を大きく開け、巨大な火球をいくつもアンズにはなった。
よし! いいぞ! そのまま蒸発させろ!
しぶとい! アンズ生きてる!
あの真っ白な大福め! さっさと死ねよ!
アンズはまた白い触手を伸ばし、ドラゴンに巻き付けた。
次の瞬間、ドラゴンの動きが止まった。
ん? どういうことだ?
作り物のように、ドラゴンはじっとしている。
アンズは触手をやりのように鋭くし、それをドラゴンに突き刺した。
おいおいおいおい! どうした、ドラゴン! 頑張ってくれ!
ドラゴンは微動だにしない。
ドラゴーーーン! 頼む!
だがドラゴンは、アンズにめった刺しにされた。そのとき初めて、ドラゴンは動いた。崩れ落ちたのだ。
アンズはドラゴンに覆いかぶさるようにして、瞬く間に溶かし、飲み込んでいった。
呆然とした。
「ヌカタ、大丈夫か!?」
待って、待ってよ。
どういうこと?
「いやあ、危なかったよ。相当な強敵だった。時間を操作する能力で、ドラゴンの時を止めることで、何とか倒せたよー」
どうしよう。
怖いよ。
どうしよう。
「大丈夫か、ヌカタ」
優しい声で聞いてくる。
ああ、憎いのにィィィィ!