第13話 必要なもの
「ちょっと、人に会いに行くよ」
「じゃあ一緒に行こう?」
うるせえ! ついてくるな! この化け物が! 死ね!
「いや、一人で行くよ。プライベートな時間も、必要だと思うんだよね。恋愛って、離れている時間があるからこそ、より濃密に、二人は結び付くものだとも思う」
何言ってんだ俺ェェェェェ! だがしょうがない! しょうがないんだよ! だってほかにどう言えばいいんだよ! こいつはヤンデレスライムだぞ!
もうそういう名前になれよ!
「わかった。私、恋愛って始めてだからさ、ごめんね」
初めてなのかよ。嫌だな、こいつの初恋の相手が俺とか。最低だよ!
俺はご機嫌を取るため、スライムをなでて、すぐ旅館を出た。
ああ、あの呪術師に会いたい! さっさと呪いを解除してもらいたい!
呪術師の木造二階の家に行くと、使用人に「いま来客中だから待ってほしい」と言われる。
ふざけんな! と思ったが、あいつの機嫌を損ねると損だ。おとなしく待った。
奥の和室にようやく招き入れてもらった。
「あの男、倒したぞ。坊主の焼けたガラの悪そうなやつだろ?」
「聞いてる。使用人もろとも蒸発したそうだな」
「待て待て、俺は使用人とかに手を出すつもりはなかったんだよ。だけどさ、あのスライムが食べちゃったんだよ。頼むよ! さっさと奴隷状態を何とかしてくれ!」
「わかった。状態の欄を真っ白にしよう。そのためには、必要なものがある」
「ふざけんなよ! 用意しておけよ!」
「焦るな」
「焦るわ! 何が必要なんだ。さっさと言え!」
「髪の毛だ。非常に優秀な、だが私以外の呪術師の、髪の毛がいる。二人の呪術師の髪の毛が、この技には必要なんだよ」
「どこの呪術師の髪の毛ならいい」
「成功率を上げるためには、ムウジナ山のセンカの髪の毛がいい」
「わかった。すぐ取ってくる。それだけでいいんだな」
「そうだ」
俺はすぐ宿に帰った。
自分の部屋に行くと、スライムが窓から外を眺めていた。
おいおい、何やってんだよ。
「おかえり、ヌカタ」
うぜええええええ! 何がお帰りだよ、バカ! つかさ、声はかわいいんだよな。だから多少許せる感じはある。でもさ、かわいいからこそ、不気味なんだよ!
「スライムさん、ムウジナ山に行きませんか」
落ち着け、とにかくこいつからは、いまは離れることができない。ご機嫌を取れ!
「ムウジナ山? どうして?」
「その、スライムさん、食べてばっかりじゃないですか。一緒に、思い出を作りたいんだよ」
「思い出!?」
スライムは嬉しそうに言った。
「わかった。じゃあ行こう! デート、ってことだね?」
死ね!
「そうだね、デートだ。山に登って、景色を楽しもうか」
「いついくの? 一応、こっちにも準備とかあるから」
はあ? 準備ってなんだよ、大福なんだから着替えとかいらないだろうが。だが機嫌を損ねるわけにはいかない。
「いつでもいいよ」
「じゃあ、明日でいいかな」
さっさと行きたいが、しょうがない。
「いいよ。じゃあ明日にしようか」
俺はこいつと一緒にいたくないので、口実を作って出かけようと思っていたら「ちょっと外に出てくるよ」とスライムが言った。
「一人で?」
「もう! 束縛?」
ちげえよ、バカ! 大福が町中闊歩してたら、周りがビビるだろうが!
「いや、ほら、かわいいから、その姿のまま歩くと、みんな驚いちゃうんじゃないかな、なんて」
スライムは照れたような声で「もう、ヌカタって嫉妬深いね」と言った。
気持ち悪っっっっ! こっちはお前に死んでほしいんだよ! 何が嫉妬深いだ!
「大丈夫。私、透明になることができるから」
え、そんなことできたの?
スライムはスーッと透明になった。
これじゃあ悪口も言えないな、と思ったが、奴隷とご主人様の関係のせいか、俺にはどこにいるのかはっきりわかる。
「じゃあ明日には戻ってくるから」
「わかった」
俺はすぐムウジナ山へのルートを調べた。
この世界に登場したばかりだから、地理にはとんと疎い。