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第12話 会話


 俺は宿に帰ると、スライムを誰もいない大浴場に連れて行き、ざぶざぶ洗ってやった。

 今までの方がましだった。


 しゃべれるようになったからか「もうちょっと強く洗ってほしいな」とか、「そこは優しく」とかって注文を出してくるんだよ! 


「せっかくだ。絆を深めるために一緒に眠ろう」


 おおおおおい! 何言ってんだよ、このバカスライムがァァァ! 何が面白くて、お前と眠らないといけないんだよ! おまえ、ただの巨大な大福だろうが!

 お前と寝るなら、300円の抱き枕と寝た方がましなんだよ!


「いや、スライムさん、疲れてるでしょ? ね? 別々に寝ましょう」


「遠慮することはないよ。ほら」


 おいおいおい、何がほらだよ! なんだ、こいつ。寂しがり屋の付き合いたての彼女かよ!? 面倒くさい!

 でも怒らせたら怖い!


「今日は、反省したいことが多くあります。一人で、じっくり考えたいんです」


「そっか」

 白いスライムは残念そうに言った。

 畜生! 声だけ聞いてるとかわいいんだよな! でも、攻撃3500で、守備力9000だからな。化け物だからな。主食は人!


 こんな野郎と仲良くなりたくないよ!


 ああ、今晩こそは奴隷にしたミヤビと、一緒に眠りたかったのになあ。



 翌日、とんでもないことが起こっていた!

 なんと、目が覚めるとミヤビがいない。


 お風呂に入りに行ったのかな? と思った。

 スライムがぷにぷにとそばに来て「水浴びがしたい」と言う。

 バカ野郎が! さっさと死ね!


「ちょっと待ってもらえますか。ミヤビがいないんですよ。ちょっと頼みたいことがあって」


「ああ、ミヤビなら、食べちゃったよ!」


 怖ぇぇぇっ! どういうこと!? 食べちゃったよ!? ふざけんなよ!

 俺、明日には喰われるだろう!


 やばいよこいつ! マジ化け物じゃん! どうなってんだよ! 本当に助けてほしいよ!


「ヌカタが悪いんだぞ」


 すねたように言う。


「あの女を変な目で見て、私と一緒に寝てくれないから」


 え? なにそれ。嫉妬ってこと? え? 何? 俺このスライムに、恋されてるわけ? そんなわけないよな。

 だって種族が違うじゃん。


 聞いてみる? いや、聞いてとんでもない答えを聞いたら、絶望だよ。


「あの、スライムさん」


「何?」

 無邪気に答えてきた。


「スライムさんは、俺のことを、どう思ってるんですか」


「ここまで成長させてくれたんだ。感謝している。どうして私のために、ここまでしてくれるのか、最初はわからなかったよ」


 ん? 俺が奴隷になってる、ってことには気づいてないのか?


「でもいまは、わかるよ。ヌカタが私のためにここまでしてくれる理由。私が好きなんだよね?」


 はあああああ? こいつバカじゃないの? 好きなわけねえだろ! なんで、同じ部屋にいた女、ペロッと食べちゃうような化け物を好きになるんだよ! 頭大丈夫かよ!


「そうだよね? 好きだからこそ、ここまでしてくれるんだよね?」


「えっと、まあ」


「やっぱり! 初めて会ったとき、突然私とすこしだけ、意思疎通ができる魔法を使ったでしょ? そのあと何でも言うこと聞いてくれるから、どうしてかなって思ってた。頭よくなって気づいたよ、私、恋されてるんだって」


 怖い、怖い。怖いよ!

 化け物に恋されるって、予想以上にぞっとするわ!

 何が恋されてる、だ、バカ!

 こっちは死んでほしいんだよ!


 いや、ポジティブに考えよう。

 信頼されてるってことだ。奴隷状態を、うまいこと解除できるはずだ。


 嫌われるよりましだと思おう。


「そうです。スライムさんに、ひとめぼれしたんです」


 うわああああ! 自分で言いながらも、吐きそうだよ。こんな化け物に、誰が一目ぼれするんだよ!


「やっぱり!」


 なにがやっぱりだよ! この阿呆が!


「ごめんね、ヌカタ。でもヌカタも悪いんだよ、はっきり言ってくれないから」


 何すねたみたいな喋り方してるんだよ! 嫉妬深い女子高生かよ! 死ね!


「もう勝手なことはしないね? ヌカタが、あのミヤビって女と浮気してるのかと思って、つい食べちゃったよ!」


 浮気って、付き合ってねえだろうが! やばい、どうする? こいつ、この世で最もやばいヤンデレ女じゃん!


「いいよ、俺も悪かったから。でも次からは、やめてね? スライムさんのために、こっちもいろいろ頑張ってるんだから」


 こう言うしかないだろう。また勝手に食べられたら困るからな。


「わかった。気を付けるね!」


 あの呪術師を食べられないよう気を付けよう。


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