第2話―入学
というわけだった。思い出してみても割と悲しい。いくら身長が小さいからってこんなことしなくても……。
「って、時間やばい!このままだと遅刻だ!」
うじうじしていたら入学式も間近な時間になっていたので、急いで間に合うように全力でダッシュした。
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急いで走ったからか酸欠で倒れそうな中なんとか入学式を終えた。この後にはクラス割の発表の時間があるだろう。
入学式の間にも少し思っていたが、パッと見た限りではこの学校は特にSCPと関わっている要素はなさそうにみえる。どこにでもありそうな高校みたいだ。しかし、クリアランス2の奴に任せるとは、財団も人手不足なのだろうか。
そんな事を考ながら歩いていたら曲がり角で女子生徒と軽くぶつかってしまい、その子が持っていた本を落としてしまった。
「おっと、本を落としてしまった、申し訳ない。怪我はないか?」
「あっ!?だ、大丈夫です……。あ、あなたこそ、お怪我は?」
落ちた本を拾おうと思ったらすぐに拾われてしまった。俺と目を合わせなかったり、少しどもっているのをみると、コミュニケーションをとるのが苦手なようだ。先ほどから動きもおどおどしている。
「じゃ、じゃあ私はこれで!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
なにか用事でもあったのか、すごい速さで逃げられてしまった。
潜入捜査としても、学校生徒としても失敗の部類だ。そんなトラブルがありながらも、無事教室にたどり着いた。先ほど知り合ったばかりだとうのに、もう親しくなっている生徒らがいる。俺には無縁な、所謂〈陽キャ〉という奴らだ。
しかし、俺の場合は潜入捜査ということで目立たずに過ごせ、という命令が出ている。なので友達も3~4人ぐらいがちょうどだろうか。
そう考えながら席に座ると隣にはさっきぶつかった女の子がいた。割とびっくりしたのだが、相手はさっき俺が落としてしまった本を読んでいて、こちらには気づいていない。まとめられていないものの短く艶やかな髪から覗く顔立ちは意外と整っていて、上手に会話さえ取れれば友達が出来やすいと思うのだが、とりあえず挨拶と友達第一候補は目立たなそうなこの子でいいか。
「あー、また会ったな。さっきはぶつかったりして申し訳なかった。」
「ふぇ!?さ、さっきの人!?ど、どうして…!?」
「ん、なんだ、俺がいたら都合が悪いか?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど…!ご、ごめん、嫌な気持ちになっちゃったよ
ね…わ、私っていつもこうなの…や、やっぱり変かな…?」
どうも自分に対する評価が低いな。まあ、それは今後の俺のフォローの問題として、今はこの子の中の俺の印象を上げなければならない。
「とりあえず、軽い自己紹介だけしとくわ。俺は餅屋持葉。特技と趣味はゲームだ。よろしく」
「あっ、ゲームが好きなの!?わ、私もよくゲームをやる…そ、そうだ、私は五月雨月っていうんだ。変な名前だよね……?」
「いや、そうは思わないぜ?俺だって十分変な名前だしな。苗字と名前を入れ替えたら『餅は餅屋』になるしな?」
「あっ、本当だ。ふふ、面白い名前だね」
なかなかの反応だな。小さいときはこの名前いじられるから嫌だったんだが、こうやって自己紹介に役立っているから今はありがたがっている。
「そ、そうだ、どんなゲームをやっているの?わ、私は、わかるかな、████████っていうゲームをやっているんだけど…」
「ああ、████████か、あれ割と面白いよな。俺はよく███を使っているぜ。」
████████は有名な家庭用ゲーム機のソフトで、イカがインクを使ってナワバリ争
いをするゲームだ。よく春夏秋先輩と遊んだなあ。そんな事を思い出しながら
、五月と会話を進める。
「え、███…?あんなの使ってるの…?その…め、珍しいね!」
「あ、あんなの……」
「あっ、ご、ごめんね、変なこと言っちゃって…」
確かに、俺の使うブキはゴミだとか使えないとか言われているが、「あんなの」はないだろう。しかし、五月もすんなり会話が出来る様になっていたから、まあいいだろう。
「いや、大丈夫さ。そんなことより、もうすぐ授業が始まっちゃうぜ?準備をした方がいいんじゃないか?」
「あっ、ほんとだ。ありがとう、餅屋くん!」
そうやって五月は笑顔を向けてきた。…なんだ、いい顔出来るじゃないか。