驚く勇者
時間は少し巻き戻る。
ザートレがスピリッタメーバの触手に襲われ、アーコがそれを防いで見せた時。下で待機していたピオンスコが無邪気に言った。
「スピリッタメーバってアイツの事か」
「し、知ってるの?」
「・・・やっぱり覚えていないんだな、ラスキャブ」
ピオンスコはラスキャブのそんな反応にしょぼくれてしまう。と、同時にそれなら思い出させてやろうとも考え付いた。
「『螺旋の大地』にいた時、アタシとラスキャブとトスクルの三人でよくアイツを倒してたんだよ」
「う、嘘・・・」
ラスキャブは耳を疑った。ザートレから聞いた情報だけでも危険な魔獣であることは理解できていたし、実際に上にいるあの三人が手こずるような相手なのだ。自分たちだけで倒していたなんて到底信じられる事ではない。
「本当だって。アタシらの能力は、あのお化けクラゲにとってみたら天敵なんだからさ」
「天敵?」
「そう。いいか・・・」
と、ピオンスコはラスキャブに自分の思い出話を言って聞かせ、その上でスピリッタメーバを討伐しようと提案する。が、ラスキャブはやはり半信半疑で戸惑う。
「ほ、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だって。トスクルはいないけど、二人でアイツをやっつけてさ、良いところ見せようよ。ね?」
ピオンスコの自信に溢れるアイデアは、ラスキャブにとっては非常に魅力あるもの思えた。パーティの中で圧倒的な実力差を痛感しており、屍術というレアな能力以外は自分に価値はないのだと思い込んでいたからだ。もしも、本当にピオンスコのいう通りにスピリッタメーバを倒すことができたなら、ザートレやルージュやアーコがもっと自分を必要としてくれるかもしれない・・・。
気が付けばラスキャブは、ピオンスコの提案を承諾していた。
「けど、あのバスバって『囲む大地の者』は? ザートレさんが助けたがってる・・・」
「それも心配いらない。アイツを倒せば解放されるから」
「・・・分かった。ピオンスコのいう通りにする」
二人はすぐさま、行動に移った。
◆
オレは驚き、目を疑った。
一時撤退を決め、下の山道に向かっていると入れ違いに、ラスキャブとピオンスコがスピリッタメーバに向かって行ったからだ。
「何を!?」
と、声を出したのはオレだけじゃない。ルージュもアーコも取り乱す様に言った。
すぐさまスピリッタメーバが触手を伸ばし、二人を捉えようとする。オレは急いで踵を返し、ラスキャブ達の元に向かおうとしたが、下に向かって勢いがついていた分、どう頑張ってもスピードを殺しきれない。
ところが、触手が二人に届くことはなかった。ラスキャブが操っているであろうレイダァの死体たちが二人を触手から悉く守っている。しかも再び操られる気配は全くない。その様子に疑問が生まれた。何故、あのレイダァ達はスピリッタメーバの影響を受けないんだ・・・?
そのトリックに最初に気が付いたのはアーコだった。
「そうか! 死体だったら、操られる精神がないから触手が効かないんだ」
「!」
種が分かればさも当然の答えが出てくる。確かにアーコの言う通り、無機物や死体であればスピリッタメーバの触手は意味をなさなくなるのは当然だ。
二人は死体を傘にどんどんとスピリッタメーバに近づいていく。すると、次の瞬間。レイダァの一匹がピオンスコの身体を掴んだかと思うと、力任せに投げつけたのだ。触手のほとんどを伸ばしきっていたせいで、スピリッタメーバはピオンスコを退ける術がない。
だが、唯一スピリッタメーバを庇うように立ちはだかる影あった。操られているバズバだ。
彼は虚ろな目のまま、ピオンスコに向かって折れた剣を振るう。しかし、やはりそれも届かない。同じように投げ飛ばされたラスキャブが身を挺してピオンスコを庇ったからだった。ラスキャブの見た目に反した防御力は周知の事実だ。案の定、短くなった剣は柄を残してほとんどなくなってしまった。
そして更にピオンスコはバズバの肩を遠慮なしに踏みつけて踏み台にすると、今度こそスピリッタメーバへと攻撃を繰り出す。半身を捻り、背面から尾針を差し込んでいく。
本来、物理的な干渉は不可能なはずのスピリッタメーバに、ピオンスコの毒針はさも当然のように突き刺さっていた。途端に、スピリッタメーバの陰影がどんどんと濃くなっていく。全身が痙攣したかのように数秒震えたかと思うと、正しく霧の如く雲散霧消してしまった。
後には得意満面になってポーズを決めるピオンスコと、達成感に満ち満ちて、かつバズバが崖下に落ちないように支えるラスキャブの姿が残るばかりだった。
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