興味抱く勇者
予定上、最後の野営が終わり、オレ達は朝靄の中を歩き始めた。
次第に潮の香りが強くなっていき、海を思わせる。するとすぐに今回の最大の難所であるニドル峠の山道の入り口が見えた。
山道を登る前に、昨晩の打ち合わせの通りにバズバ率いる『果敢な一撃』が先頭を行き、オレ達が殿を守る陣形を整える。
『果敢な一撃』のパーティは護衛の任務に慣れておらず、かと言って山道に特化した訓練を受けた訳でもない。自ずと進行は遅くなる。そんな者が下手に中間や後方の守りを担当すると、前に遅れてはならないという思いが先行して次第にずさんな警護になっていく。だから多少、進行が遅くなろうとも自分たちのペースで山道を進み、警戒するようにと打ち合わせた。
これは雇い主であるメカーヒーにも織り込み済みだ。ここで下手な雇い主や、護衛に理解のない商人だと到着の遅れや旅程が伸びて出費がかさむ事を嫌い、無理な進行を推し進めようとする。ところがメカーヒーは、
「安全の上にない迅速は、商売ではなく賭け事です」
と、言って小言の一つもなく、こちらの提案を飲み込んだ。危険地帯を通る上で護衛の進言を軽んじるは命を軽んじるのと同義だと理解している者の発言だ。この辺りは流石に堂に入った商人だと思った。
メカーヒーもバズバ達も、ドリックスを討って見せたオレの実力を買ってくれているので、素直に提案を聞き入れてくれたのは素直に有難い。彼らに報いるためにも、殿として任務を全うしようと自分で自分に言い聞かせていた。
◇
商隊は山道に入ってから、時間が経つごとに歩みが遅くなっていった。
これは予定通りのことだったので、別段何も感じない。寧ろ、同じく山道に慣れていないであろうオレのパーティの面々のためにも多少遅くなる分には助かると思っていた。ところが、商隊の後ろを行くルージュたちは誰一人として息を乱さず、それどころか会話をする余裕まで見せている。か弱い見た目をしているが、やはり彼女らは魔族なのだなと改めて実感した。が、同時に今は味方であると思うと頼りがいも感じていた。
◇
ところが。
峠を抜ける三分目辺りに差し掛かった時に異変が起こった。
先頭を行くバズバ達がにわかに大きな声を上げ、後方に注意を喚起してきたのだ。目配せだけでアーコはオレの意図を察してくれて、高く舞い上がって前方の様子を見た。
(アーコ、何があったか分かるか?)
(ああ。道の先にレイダァが数匹いやがるな)
(何?)
アーコのテレパシーはオレ達全員に届いていた。なのでラスキャブとピオンスコは武器を構え始めたのだが、オレだけは不審さが勝ってしまいルージュを剣に戻すこともしなければ、レプリカを要求することもしなかった。
オレが戦闘準備をしない事はすぐに皆が気が付き、ルージュが尋ねてくる。
「主よ、どうかしたのか?」
「いや、レイダァが出てくるのが早すぎるんだ。奴らはこんな低い場所に降りてくることは滅多にないんだが・・・」
奴らの厄介な点は身体能力も去ることながら、出没する場所にある。山頂付近で道が細まり勾配がきつく、崖と隣り合わせのような箇所で襲われるからこそ対処が難しい。
この辺りでも坂の上を取られている点はつらいが、横幅もあるし崖から落ちる心配もないので戦いやすさが格段に上がる。とは言え、どれだけ地の利に恵まれていようとも油断ならない魔獣である事実は変わらない。オレはルージュにレプリカの剣を求めた。
だが、ピオンスコを迎え入れた初戦としては戦いやすいに越したことはない。旅の途中という事もあってラスキャブの時のように、連携の訓練がまるでできていないのだ。
「ルージュ、すまないが後ろの守りと援護を頼む」
「心得た」
迷いなく返ってくる返事は、本当に心強い。
「ラスキャブとピオンスコはオレと一緒に前にいくぞ。アーコは真ん中に控えて万が一の援護を頼む」
言うが早いか、勇んだピオンスコが真っ先に駆け出す。オレの期待に応えようとしているのかは分からないが、見た限りは戦闘のセンスもいいので戦う事が好きなのかもしれない。勝気は悪ではないが、手痛いしっぺ返しを喰らう事もある。そこを見極めて、パーティとしても一つ成長させなければならない。
その為にも、ここの一戦でピオンスコの戦闘スタイルをもう一度検分することにする。ナイフの二刀流と毒の二面性を持つピオンスコのまだ見ぬ本領に、オレは戦士として興味を持っていた。
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