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締め直す勇者


 ピオンスコを仲間に向かえた町を出て三日。


 商隊の進行は恙ないものになり、ここまでの道程は平和そのものだった。いよいよ明日にはセムヘノへ着く。


 この頃になるとバズバ率いる『果敢な一撃』のパーティとも多少なり打ち解けて、夜には共に火を囲んで護衛の任の終わりに寂しさを覚えていると零したり、セムヘノに着いたその後の事を話したりしていた。


 ルージュ、ラスキャブ、アーコの三人はそれぞれ思うところがあって過度に会話に加わることは控えているようだった。『囲む大地の者』と魔族との関わりを思えば普通の反応なのだが、その中にあってでもピオンスコの人懐っこさというか、相手の懐にポンっと入り込める性格は十分に発揮されていた。


 これは彼女の生まれ持っての気質なのだろう。


 始めは互いに警戒し合っていたのは分かったが、ピオンスコは『果敢な一撃』の一人が趣味で木に彫刻刀で飾り細工をしているのを見て、興味本位で話しかけた。ピオンスコは自分がすごいと感じた事柄には素直に感心し、世辞などではなく心から相手を賛するので、心証がいいのだ。


 チラリと距離を置いているルージュたちを見る。オレも含めてだが、どちらかというと人付き合いや大人数のコミュニティは苦手な質なので、ピオンスコのような性格の奴がパーティにいてくれるのは非常にありがたい。


ただ、この純粋さは同時に危うさでもある。迂闊に嘘に引っかかったり、騙されたりしないように少し注意しなければ。


オレが傍目にそんな事を考えていると、誰かがこちらに近づいてきた。それは、オレ達の雇い主である、メカーヒー本人だった。


猫の特徴を色濃く持つリホウド族らしく、夜になると瞳孔が広がって少しばかり顔の印象が変わっている。


メカーヒーは商人特有の作り笑いを浮かべながら、オレ達に告げた。


「皆さん、本当にありがとうございます。お蔭さまで明日には予定通りセムヘノに辿り着くことができるでしょう。しかしながら、私たちが通行する予定のニドル峠はこの旅の最後の難所でございます」


 ニドル峠という名前に、ついオレの思い出が蘇った。


 かつてのパーティにいたフェトネックがセムヘノ出身という事もあって、仲間になってすぐにニドル峠を通ることがあった。ニドル峠はセムヘノを弧状に囲む岩山で、鋭い傾斜と海風に削られた荒い岩肌が覚悟と準備を怠った者たちを容赦なく咎める。波打つような山道は通るだけで体力を奪い取り、断崖と隣り合わせの緊張感は精神を削る。


 その上に厄介なのが、リマダ峠を根城にする「レイダァ」という牛の角を持つ猿のような魔獣の存在だ。奴らはニドル峠の高低差を物ともせず、通りがかる者を襲っては装備や荷を奪っていく。いや、物品だけ奪われるならマシな部類で下手をすれば命さえも奪われかねない凶悪な魔獣なのだ。


 案の定、メカーヒーはレイダァの事を言及し、くれぐれも積み荷と自分たちを守ってほしいと言った。


 オレは『果敢な一撃』のパーティの顔を見た。全員が、さっきまでの朗らかな談笑を忘れ気を引き締めている事に安心する。彼らに油断はない。まだまだ実績や経験はないかもしれないが、キチンと置かれた立場と身の丈を理解していることに感心した。


 そしてオレはピオンスコを連れて、ルージュたちの元に戻って行く。彼らを見習ってオレも少々緩んだ紐を結び直さなければいけないなと感じたからだ。全員でレイダァの情報を共有して、万全を期す。それが終わると、見張りをルージュとアーコに任せて早々と眠りについた。


読んでいただきありがとうございます。


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