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動けない勇者

 オレの妄言にも似た発想を二人はジッと聞いていた。


 さて。二人の反応は如何に。生唾を飲む、ゴクリと言う音が頭の中に響いた。


 その三人の静寂を破ったのは、ケラケラというアーコの笑い声だ。見れば昼寝から起きたように体を気怠そうに伸ばしながら笑うアーコの姿が目に入った。


「堅物なのに発想は柔軟ってやつは嫌いじゃないぜ」


「それは・・・どういう意味だ?」


「お前の発想は的外れじゃないって事さ」


 光明を見出しかのようなルージュが食い気味にアーコに迫る。


「それは本当か」


「ああ。分かり易く言うとな、身体を持っている奴はそれぞれが独立した容器のようなものを持っている。お前らが経験を積んで力を増強させていくって過程はその容器を大きくして言っていると考えればいい。そして試練の結果に与えられる加護というのもその受け皿に付与される。だから重複した加護を貰ったりしても意味はない。お前らが最初に目論んでいたのは、その受け皿の中身を空っぽにしているだけ、器その物を大きくするか、さもなくば別の容器を用意して全体の容量を増やすでもしない限りは望んだ結果は生まれないだろうな・・・・・・そして、俺はお前たちの望んでいる結果を生み出せる。結論を言えば、今ザートレが行った事は実現可能だ」


 オレはにわかに興奮を覚えた。けれども実現はそう容易くはない。


 案の定、アーコは今までで最も嗜虐的な笑みをオレ達に向けてきた。


「けどな、忘れちゃいないか? 俺は別にお前らの仲間じゃない。今だって仕方なく連れまわされてやっているだけだ。協力してやる必要がまるでない」


 そう。


 問題はそこだ。


 アーコはオレ達のことを本心では快く思っていない。彼女を本当の意味でオレ達の仲間に引き入れること。それが最も困難だった。


「さあ、どうちまちゅか? 懐柔を試してみるか? どんな手で丸め込もうとして来るか楽しみだぜ」


 そこでオレは気が付いた。アーコはオレ達を見ている様で、実際はルージュの事しか見ていない。だが、それも最も仲違いしていた二人の事を考えれば自然かもしれない。アーコのサディズム的な目を見れば一目瞭然だ。


 それはルージュも理解しているようだった。ルージュはすぐにアーコを閉じ込めていた、檻を壊した。


「おや。多少の礼儀は知ってたみたいだな」


 そういうとアーコは姿を変えた。頭身をオレ達と同じようなサイズにしたのだ。それでも幾分背格好は小さい。そしてニコリと笑って言った。


「まさか二人とも、願いを乞うのに俺よりも高いところに頭を置いておきはしないよな?」


 そういうことか。


 オレ達はすぐに膝をつき、もう一度頼んだ。


「頼む。魔王とあいつらを殺すためには、お前の力が必要だ。力を貸してほしい」


 恥も外聞も関係ない。オレの目的はあいつら五人の息の根を止めることだけ。それの為ならオレ自身がどうなろうとも構わない覚悟だった。


 アーコは俺の前を通り過ぎると、更に後ろで跪いていたルージュの前に立った。そして次の瞬間、ルージュの顔面に一切の遠慮のない蹴りを入れた。


 ルージュの体はのけ反る様に吹っ飛んだ。オレはすぐに立ち上がろうとしたが、「動いたら協力はなしだ」というアーコの言葉と共に、狼に姿を変えられて制されてしまった。


「立てよ、『木偶の棒(ジャーク)』。色々と考えてみたけどよ、やっぱりテメエはムカつくわ」


 すくっと立ち上がったルージュであった。だが鼻からは一筋の血がぽたりと滲みだしていた。


 ルージュは一度、火の灯った熱い目をオレに向けた。動くなという事だろう。


「散々調子に乗りやがって」


「頼む。主に力を貸してもらいたい」


「・・・大分ザートレにご執心だな。テメエはムカつくが、そこんとこは分からなくはないぜ? 魔王を倒すっていう話なら、確かにこいつは色々と魅力的だ。俺もザートレとは違う形で会いたかったとも思っていた」


 アーコはジッと押し黙ってしまった。


 今の言葉がどういう意味なのか。問いただすことはできなかった。


 ざわざわと木の葉の風になびく音だけが聞こえる。


「脱げ」


「え?」


「裸になって、這いつくばって、俺の足を舐めろ。そしたら考えてやるよ」


 アーコはきっとルージュのプライドを悪戯に弄びたかったのだろう。そうすればルージュが怒りに任せて、反抗すると踏んでいたのかも知れない。


 けれども、その判断は間違いだ。


 アーコ。お前は本当に復讐に燃える者の心を知らない。記憶を盗み見たところで、表面上でしかオレ達の事を捕らえられていない。


 魔王を殺せる可能性を示唆されたオレ達にとって、その目的が遂行されるのであれば、他の事などどうなっても構わないのだ。


 ルージュは服を脱ぐというようなまどろっこしい真似はしなかった。襟元に指を掛けると、一気に破り捨てるようにして服を捨てた。月明かりに、ルージュの白い肌が煌めいた様な気がした。


「え?」


 アーコは言葉を失った。本当に予想外の事だったのだろう。


 ルージュはそのまま頭を下げ、アーコの足を舌で舐め、もう一度言った。


「頼む。我らに力を貸してくれ」

読んでいただきありがとうございます。


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