発案する勇者
林の中は勿論暗かったのだが、月のある夜だったのでお互いの顔はよく見えた。
「で、話ってのはなんだよ?」
檻の中のアーコが踏ん反り返りながら聞いてくる。傍らのルージュもオレの意図が読めず、少し困惑気味だ。
「昼間からずっと考えていたんだが、一つ答えが出そうになった」
「それは主の強さについてのことか?」
「ああ」
オレは頷く。
ついさっき頭に過ぎった仮説を自分自身が整理する意味も込めて、ルージュとアーコに説明を考える。だがその前にアーコに聞かなければならない事がった。
「アーコ」
「なんだよ?」
「オレがドリックスと戦う為にルージュを使うのを渋った時に、『やってみりゃわかる』とそう言ったな? 何でルージュの力を開放したところで、オレの力が変わらないと知っていたんだ?」
「ドリックスと戦う前にお前ら二人の経緯を話していただろうが。その時から思ってはいたんだよ。俺は変身術のエキスパートだ。肉体に関与する魔法の結果なら、ある程度の予想は立てられる」
「そうか・・・」
「それで? 主の考えた答えというのは?」
オレはゆっくりと二人の顔を見た。
「そもそもの計画はルージュにオレの実力を封印した状態で、もう一度肉体を鍛え直して、その後封じてある力を上乗せすることだった」
「だが、やるだけ無駄だとわかった。俺のお陰だぜ、感謝してもらいたいね」
「ああ。感謝しているさ、愛嬌がなくてそうは見えないかも知れんがな」
そういうとアーコは鼻で笑った。
「これを鑑みるなら、恐らくだが試練をもう一度受けたところで賜る加護が重複することはないだろう」
「ないな。断言してやるよ」
「ということは、現段階での主の強さというのは成長限界に達しているということか」
「そういう事になるな」
「・・・で? そこまでは周知の事実だ。あの話を聞いていた奴らなら全員が予想できるこったろう? それを踏まえてお前の考えってのは何なんだよ」
「さっきのラスキャブのとの会話で天啓のように過ぎった考えだ。机上の空論だし、オレの願望も入った希望的観測でしかない話だが、聞いてくれ」
◇
前提として今の強さでは魔王に太刀打ちできない。その為には是が非でも強くなる必要がある。
けれども、オレの実力はすでに限界まで鍛えられてしまったと言える。それ故にオレとルージュはあらゆる能力を封じることでリスタートをして、レベルアップを図った。計算上は、新しく培った力に封じられていた本来の力を上乗せすることで実力が向上することを目論んでいた。
それが叶わないとなった今、新たな方法を模索しなければならない。それが今の段階である。
けれどもルージュの考えた『肉体の経験値をゼロにして鍛え直す』という手段は、失策と切り捨ててしまうには実に惜しいものがある。むしろ方法論としては、これ以上ない程理想的なものだ。
そこでオレは思考回路を変えてみることにした。
さっきのラスキャブとの会話で妙に頭に引っかかったことがあるのはそれのせいだ。
まずはドリックスの事。あれは元々兎と魚の合成獣で魔術によって生まれた経緯がある。ベースとなったただのちっぽけな兎と魚を思えば、ドリックスの戦闘能力はは大きな強化の表れだとも言える。
そして、狼になれば口が回るようになるというあの気付き。
アーコに狼の姿に変えられている時は精神的な要素ででしか実感していないが、まるで別人のようになった自覚がある。素の状態ではできないことができるようになっているというのは、つまりは能力は上がっていると解釈できないだろうか。その上、あの姿のままでいる時にルージュから力を返して貰ったことはない。
オレが導き出した結論・・・それは。
アーコの変身術の力を借りることができれば、ルージュの編み出した策を実現できるのではないか、という事だった。
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